シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

出題校にインタビュー!

市川中学校

2022年01月掲載

市川中学校の理科におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。

3.高2の課題研究で研究の初歩を経験

インタビュー3/3

低学年の実験は定性実験が中心

理科のおもしろさを伝えるために、授業ではどんなことを意識されていますか。

長山先生 入学したばかりの生徒は、目に見える変化、特に色の変化を喜びます。定性的な実験を多く組み込んで、理科に対して抵抗感を持たないように心がけています。
実験結果の数値が意味するところをつかむのは低学年ではなかなか難しい。定量実験は発達段階を待って、生徒の思考力が向上する中3になってから本腰を入れるようにしています。

市川中学校 理科室

市川中学校 理科室

中1の実験・観察は2回に1回の割合で実施

長山先生 生徒を退屈させないようにするのも教員の腕の見せ所です。生物の観察スケッチは、「見るだけじゃないか」「面倒くさい」と嫌がります。そこで、生物のスケッチにはルールがあること、美術のスケッチとは違うことを教えると、生徒は「そうなんだ」と嫌がらずに取り組むようになります。
スケッチは提出してもらい、教員がチェックをして返します。スケッチに慣れてくると、特徴を的確につかんで描けるようになってきます。初めはいやいやだったスケッチが、「楽しくなってきた」と聞くとうれしいですね。

中1の場合、実験・観察をどれくらいの頻度で行っているのですか。

長山先生 おおよそ2回に1回の割合です。生物と地学の授業はそれぞれ2時間連続(隔週)なので、実験から振り返りまで行うことができます。グループ実験のときは話し合いの時間も確保できています。コロナ禍で一時期グループ実験が減りましたが、以前のように戻りつつあります。

考察にも知識が必要。覚えるのは必要最小限に

長山先生 レポートは実験の都度、作成します。実験しながらプリントに結果を書き込むなど、レポートの形式は科目によって異なります。
実験が失敗したからといって、それで評価が下がるわけではありません。失敗から学べることはたくさんあります。なぜ失敗したのか、原因を考察することが大事です。
考察するのにも知識が必要です。生物は他の科目に比べて覚えることが多くありますが、覚えなければならないことは極力少なくしています。考察するときは実験の前の授業で習った知識を使って考えるようにしています。

市川中学校 理科実験

市川中学校 理科実験

解剖実験の経験は知識の定着を助けてくれる

長山先生 一方、授業ではよくわからなかったあやふやな知識でも、実験を行うことで自分のものにできます。特に解剖実験はインパクトが強く、その知識は実感を伴って印象に残ります。
中3ではニワトリの脳(ドッグフードの鶏頭水煮缶を使用)の解剖を行います。授業で小脳は後頭部側にあると教えますが、それだけではなかなか頭に入ってきません。解剖することで位置関係を確認でき、知識も定着しやすくなります。解剖実験は、生徒が熱心に取り組んでいますね。

SSH指定3期目。個人研究が増える

スーパーサイエンスハイスクール(SSH)の指定校になって3期目(2019~2023年)ですね。取り組みについて教えてください。

長山先生 取り組みの中心は高2理系クラスの課題研究です。テーマの傾向は学年によって異なりますが、最近は地学や情報のテーマが増えてきました。地学のテーマが増えたのは、活動的な専門の教員が入った効果ではないかと思います。初めの頃はグループ研究が多かったのですが、最近は個人で取り組む生徒が増えています。

仮説を立てるのは難しいと思います。どのように指導されていますか。

長山先生 課題研究を始める前に、まず文献を探すところから着手します。選んだテーマに関して、過去の事例をどれだけ知っているか、その点を最近は重視しています。英文でなくても日本語の文献でもいいので、現時点でどんなことがわかっているか・わかっていないかを調べます。わかっていないことを突き詰めていくのが課題研究です。
仮説を立てるのにもやはり知識は必要です。高校の教科書に載っている内容を基に「こんなことが考えられるのではないか」と仮説を立てる生徒もいます。

市川中学校 課題研究

市川中学校 課題研究

課題研究の指導で教員の経験値も上がった

長山先生 中には高校レベルを超えるようなテーマもあります。今年卒業した生徒がザリガニの筋収縮について研究しましたが、本校の教員では対応しきれないものだったので、大学の研究室の助けを借りました。その生徒は将来医師を目指しており、神経の研究をやりたかったのですが、難易度が高いので神経を通じて運動の指令が伝わる筋肉をテーマにしました。進路は希望通り医学部に進学しました。
教員の経験値が上がったこともSSHの大きな成果です。課題研究のテーマは多種多彩で指導は難しいのですが、高校レベルを超えるようなテーマにも対応できるようになってきましたし、そのノウハウを次の代の指導に役立てています。
そうした経験を普段の実験にも生かし、教科書の実験をアレンジしてオリジナリティーのある実験ができています。SSHの指定校になったことで特に物理と化学の実験数が増えました。高校でも実験を多く行っており、実験への抵抗感が低いのはSSHの効果の1つだと思います。

PDCAのサイクルを自分で回せるようになる

長山先生 また、SSHの効果かどうかはわかりませんが、プレゼンテーション能力が高くなっていると思います。課題研究では特に指導していませんが、パワーポイントを使ってうまく発表できるようになっています。これは中1のときから、いろいろな授業で自分の考えを人前で話す機会があることが大きいと思います。
課題研究は論文を書き上げるところまで、投げ出さないで“完走”するのが目標です。課題研究は研究の初歩ですが、実験操作や文献調査、プレゼンなどの経験は、大学で研究する際にアドバンテージになると思います。卒業生からは、大学1年のプレゼン大会で優勝した、実験操作に慣れていたので特殊な実験器具もすぐ扱えたという声が聞かれます。

中高6年間でどんな理科の力をつけてほしいと思っていますか。

長山先生 教科書の実験をそのまま行うだけでなく、自分で仮説を立て、計画し、方法を立案して、実験を行い、考察し、発表するというように、PDCAのサイクルを自分で回せる力を身につけてほしいと思っています。PDCAが身についていれば、社会人になったときにきっと役立つはずです。

市川中学校 自習室

市川中学校 自習室

インタビュー3/3

市川中学校
市川中学校1937(昭和12)年、市川中学校として開校。47年、学制改革により新制市川中学校となる。翌年には市川高等学校を設置。2003(平成15)年には中学で女子の募集を開始し、共学校として新たにスタート。同時に新校舎も完成させた。女子の1期生が高校へ進学する06年には高校でも女子の募集を開始。昨年4月には校舎の隣に新グラウンドが完成。2017年には創立80周年を迎えます。
創立以来、本来、人間とはかけがえのないものだという価値観「独自無双の人間観」、一人ひとりの個性を発掘し、それを存分に伸ばす「よく見れば精神」、親・学校以外に自分自身による教育を重視する「第三教育」を3本柱とする教育方針のもとで、真の学力・教養力・人間力・サイエンス力・グローバル力の向上に努めている。
効率よく、密度の濃い独自のカリキュラムで、先取り学習を行っていく。朝の10分間読書や朝7時から開館し、12万蔵書がある第三教育センター(図書館)の利用などの取り組みが連携し、総合して高い学力が身につくよう指導している。中学の総合学習はネイティブ教師の英会話授業。2009年度より、SSH(スーパーサイエンスハイスクール)指定校となる。授業は6日制で、中1、中2の英語7時間、中3数学7時間など主要科目の時間数を増やす。ほかに夏期講習もあり、中1・中2は英・数・国総合型講習を実施。高校では、高2で理文分けし、高3ではさらに細かく選択科目等でコースに分かれて学ぶ。授業の特徴としては、インプット型の学習で基礎力を育成するともに、SSHの取り組みとして、研究発表、英語プレゼンなどを行う「市川サイエンス」、対話型のセミナーである「市川アカデメイア」、文系選択ゼミの「リベラルアーツゼミ」といった発表重視のアウトプット型の授業展開を実施している。自らの考えを相手に伝える表現力を、論理的に考え、それを伝わりやすい文章で表現するスキルとしてアカデミック・ライティングといい、「読めて、書ける」を目指し「課題を設定する力」、「情報を正確に受け取る力」、「それを解釈・分析する力」、「自分の考えをまとめ・伝える力」を育てる。
高1の各クラスごとに3泊するクラス入寮は創立当時から続く伝統行事。クラブは中高合同で活動する。行事は体育祭、文化祭のほか、自然観察会、合唱祭、ボキャブラリーコンテストなどもある。夏休みには中1、中2で夏期学校も実施。中3でシンガポールへの修学旅行を実施。また、希望者を対象にカナダ海外研修(中3)、イギリス海外研修(ケンブリッジ大学、オックスフォード大学中3・高1)、ニュージーランド海外研修(中3・高1)、アメリカ海外研修(ボストン・ダートマス高1・高2)が実施されている。生徒のふれあいを大切にしているが、カウンセラー制度も設けて生徒を支えている。