シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

出題校にインタビュー!

市川中学校

2022年01月掲載

市川中学校の理科におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。

1.与えられた情報からトビバッタの能力を推理

インタビュー1/3

2020年はトビバッタ大発生の被害も大きかった

長山先生 2020年は新型コロナウイルスのパンデミックであまり目立ちませんでしたが、アフリカでトビバッタが大量発生し、農作物が食い尽くされる被害は広い地域に及びました。そこで、いろいろな角度からバッタの生態を聞こうと思い作問しました。
このニュースを知らなかった受験生もいたでしょう。日ごろから新聞を読んだり、テレビのニュースを見聞きしたりしている受験生は有利だったかもしれません。受験勉強だけでなく世の中の出来事にも関心を持ってほしいと思います。

理科主任/長山 定正先生

理科主任/長山 定正先生

思わず「すごい!」と唸る昆虫の賢い生存戦略

環境が変わると姿や行動も変わるというのは、おもしろいですね。

長山先生 動物の行動や生理的性質は一定地域内の個体数、つまり密度によって変化することが知られています。トビバッタは密になると、後ろ脚が他の個体と接触します。そのときセロトニンというホルモンが急増することはわかっていますが、詳しいことはわかっていません。
「どういう仕組みなのだろう?」と不思議に思った受験生もいたでしょう。実に賢い生存戦略です。興味を持った受験生が、家に帰って自分で調べてくれたらいいなと思います。動物園内の昆虫館では孤独相・群生相のバッタを飼育して展示しているところもあります。

初見の現象をリード文や図を基に科学的に推理

長山先生 孤独相・群生相は高校で習う知識です。もちろん、受験生にはそうした知識はありませんが、リード文や図を基に科学的に推理できるかどうかを試しました。
「密という環境を避ける」システムがあることは、リード文の下線部で示しています。どうすれば密を避けられるか、推理力を働かせます。
密な状態ではエサが乏しいので、十分なエサを獲得するには広範囲に移動しなければなりません。遠くへ移動できる能力(飛翔能力)があればエサを獲得しやすくなります。(B)は(A)に比べ、体に対して羽が長く、遠くへ飛ぶ能力に優れていると考えられます。
また、この問題の前に、(1)で昆虫の羽について、2枚と4枚どちらのものが多いか聞いています。この“伏線”に気づいてほしかったですね。

両者を比べると、後ろ脚の長さの違いが目を引きます。

長山先生 長い脚は飛ぶ際に邪魔になるので、群生相の脚は短くなります。

市川中学校 校舎

市川中学校 校舎

長距離移動は「跳ぶ」より「飛ぶ」方が有利

出来具合はいかがでしたか。

長山先生 正答率は4割程度でした。これは想定通りでした。

長い後ろ脚に注目し、ジャンプをして移動すると考えて(A)を選んだ受験生もいたと思います。その誤答はどれくらいありましたか。

長山先生 全体の2割程度ありました。この間違いは予想していました。
同じ「とぶ」でも、より広範囲に移動するには、「跳ぶ(jump)」よりも「飛ぶ(fly)」方が適しています。体の大きさの割に羽が長いことに注目してもらいたかったですね。
このほかに、「敵を見つける能力」や「エサを見つける能力」という誤答がありました。いずれも図を見て推理できる能力ではなく、根拠がないと判断しました。

科学的に推理するには知識が必要

採点基準を教えていただけますか。

長山先生 「飛ぶ能力」あるいは「長距離移動できる能力」のどちらか書けていれば正解です。「とぶ」はひらがなではなく漢字で書きます。「~の能力」と書いていなくても、「遠くへ移動できること」というように、能力がわかるように書いていれば正解にしました。

改めて、この問題の正解を導き出せるお子さんはどんな力があると思われますか。

長山先生 科学的に推理するには、まず推理する材料となる知識があること。この問題の場合は昆虫のからだの特徴をとらえていることです。
初見の孤独相・群生相については、リード文の説明を読んで理解します。それには読解力が求められます。さらに、(A)と(B)を比べて両者の違いを見つける“観察眼”も必要です。

市川中学校 渡り廊下

市川中学校 渡り廊下

インタビュー1/3

市川中学校
市川中学校1937(昭和12)年、市川中学校として開校。47年、学制改革により新制市川中学校となる。翌年には市川高等学校を設置。2003(平成15)年には中学で女子の募集を開始し、共学校として新たにスタート。同時に新校舎も完成させた。女子の1期生が高校へ進学する06年には高校でも女子の募集を開始。昨年4月には校舎の隣に新グラウンドが完成。2017年には創立80周年を迎えます。
創立以来、本来、人間とはかけがえのないものだという価値観「独自無双の人間観」、一人ひとりの個性を発掘し、それを存分に伸ばす「よく見れば精神」、親・学校以外に自分自身による教育を重視する「第三教育」を3本柱とする教育方針のもとで、真の学力・教養力・人間力・サイエンス力・グローバル力の向上に努めている。
効率よく、密度の濃い独自のカリキュラムで、先取り学習を行っていく。朝の10分間読書や朝7時から開館し、12万蔵書がある第三教育センター(図書館)の利用などの取り組みが連携し、総合して高い学力が身につくよう指導している。中学の総合学習はネイティブ教師の英会話授業。2009年度より、SSH(スーパーサイエンスハイスクール)指定校となる。授業は6日制で、中1、中2の英語7時間、中3数学7時間など主要科目の時間数を増やす。ほかに夏期講習もあり、中1・中2は英・数・国総合型講習を実施。高校では、高2で理文分けし、高3ではさらに細かく選択科目等でコースに分かれて学ぶ。授業の特徴としては、インプット型の学習で基礎力を育成するともに、SSHの取り組みとして、研究発表、英語プレゼンなどを行う「市川サイエンス」、対話型のセミナーである「市川アカデメイア」、文系選択ゼミの「リベラルアーツゼミ」といった発表重視のアウトプット型の授業展開を実施している。自らの考えを相手に伝える表現力を、論理的に考え、それを伝わりやすい文章で表現するスキルとしてアカデミック・ライティングといい、「読めて、書ける」を目指し「課題を設定する力」、「情報を正確に受け取る力」、「それを解釈・分析する力」、「自分の考えをまとめ・伝える力」を育てる。
高1の各クラスごとに3泊するクラス入寮は創立当時から続く伝統行事。クラブは中高合同で活動する。行事は体育祭、文化祭のほか、自然観察会、合唱祭、ボキャブラリーコンテストなどもある。夏休みには中1、中2で夏期学校も実施。中3でシンガポールへの修学旅行を実施。また、希望者を対象にカナダ海外研修(中3)、イギリス海外研修(ケンブリッジ大学、オックスフォード大学中3・高1)、ニュージーランド海外研修(中3・高1)、アメリカ海外研修(ボストン・ダートマス高1・高2)が実施されている。生徒のふれあいを大切にしているが、カウンセラー制度も設けて生徒を支えている。