出題校にインタビュー!
江戸川学園取手中学校
2021年12月掲載
江戸川学園取手中学校の社会におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。
2.学校の中でできることはやってあげたいという思いを力に、人生に役立つ学びを提供。
インタビュー2/3
使える知識と情報を身につけよう
社会科の入試問題を作成する上で共有していることはありますか。
松永先生 基礎的な知識が身についていることが必須になると思います。いくら思考・判断・表現などの力がクローズアップされても、ベースにあるのは知識や情報です。アウトプットするにしても、知識を蓄えていなければできません。何かを読み解くにしても、知識量で読み解きの精度が変わってくると思います。ですから、基礎的な知識は一通り押さえてきてほしいと思っています。その上で近年重視しているのが読解力です。地理においても歴史においても公民においても、ある程度まとまった文章を読んでもらい、それに関連する問いを出題しています。リード文を読まなければ書くことができない問題を出しているのは、冒頭で述べた「入試問題自体が学校と受験生の皆さんとのコミュニケーション」という考え方があるからです。相手に寄り添う、相手の考えを引き出す、自分なりに解釈する。これがコミュニケーションの原点であると思っているので、そうした意味からも、近年文章量が増加する傾向にあります。
江戸川学園取手中・高等学校 授業風景
大学入試改革を機に思考力を問う問題が増加
2016年あたりから入試問題が変わったような気がしているのですが…。
遠藤先生 その通りです。大学入試の共通テストが変わるというニュースを受けて、2016年度から本校の入試問題を見直し、思考力を問う問題を増やすことにしました。
松永先生 すでに準備を進めてきた受験生の皆さんもいらっしゃるので、いきなりではなく、少しずつシフトしていきました。
遠藤先生 合否だけでなく、入試をきっかけに学ぶ意欲が高まってくれたらうれしいですよね。
松永先生 本校への入口となる入試問題であえて読む量を増やしているのは、学問に触れるとっかかりをつかんでほしいという意図があります。書籍や他者の論考に触れる中で、それを自分の中に染み込ませていき、混ぜ込んで、最終的に自分の考え方が出来上がっていくからです。それが新たな情報や知識に触れると再びかき乱されて、自分の中で熟慮を重ねるとまたある程度固まってきます。 その繰り返しによって自分というものが見えてきますし、社会にどう向き合えばよいかということもだんだんわかってきます。ですから、私たちでリード文を作成することもありますが、近年、公民などでは比較的読みやすい新書からリード文を選ぶことが多くなっています。教員が文章を作るとどうしても作為的になりがちだからです。新書の良いところは、筆者の方が明確な意図をもって書かれているところです。大きなテーマのもと、一貫した流れの上で細かい描写を散りばめながら文章が進められていくので、興味をもって読むことができます。社会科の教員は読書が好きなので、普段、先生方が手に取っている書物の中から、インスピレーションが湧いたものを載せるケースが多いです。
中等部入試担当・学年部長/遠藤 実由喜先生
リアルな話題・課題について考え、結論を導き出す授業が増えている
授業において、社会科全体で取り組んでいることはありますか。
松永先生 これまでは教員が板書して、資料集などを見せて説明する、という一方向の授業が多かったのですが、近年は社会科全体の雰囲気としてリアルな話題、課題を取り上げる機会が増えて来ました。その過程の中で生徒同士が対話を積み重ねていき、結論を導き出すという授業が非常に増えています。たとえば、私が今、担当している高1の公民の授業では、ほぼ毎回ワークをしています。中等部の授業を見ていても、近年はワークだったり、生徒自身が個別課題に取り組んだりする形で行っています。コロナ禍で、近年は専門家に来ていただくこともあるのですが、社会科見学や校外見学を企画して現物を見に行くことにも力を入れています。
遠藤先生 東京証券取引所、日本銀行、證券会社などに行きました。
松永先生 中1の地理では、実際に産業の様子やエネルギー資源の様子を見てほしくて、鹿島のほうまで連れていきました。製鉄所や木材チップを使った発電施設を見学したり、最近話題になっている洋上風力発電が、茨城から千葉にかけての太平洋岸に何基か並んでいるので、そこで新エネルギーの開発が今どのように進められているのかを間近で見てもらいました。
フットワークが軽いですね。
遠藤先生 もともと学校の中でできることはやってあげたい、という思いが強く、アフタースクールも充実しています。たとえば東京理科大学の宇宙教育プログラムに携わる先生や、千葉科学大学の先生が生徒たちのために講座を行ってくださいます。宇宙教育プログラムを受講している生徒は「自分で人工衛星を作りたい」「宇宙飛行士になりたい」と言います。医師を目指していながら宇宙教育プログラムを受講している生徒もいます。東京理科大学の先生が「建築や医学、工学、化学など、いろいろな職業の人が携わらないと宇宙は開けない」などとおっしゃるので、生徒は「自分はこのまま自分の夢を追い続けていいんだ」という自信を持つことができています。
江戸川学園取手中・高等学校 獨協医科大学病院見学ツアー
wi-fi 環境が整い、授業が活発化
松永先生 現物を見せるという取り組みは、地理だけでなく歴史や公民でも積極的に行っていますが、近年は映像やニュース、ドラマなどを利用しながら授業をする機会も増えています。作品の中に、その社会がどのように描かれているのかを見ていく中で、実際の社会との対比をさせたり、アナロジーになっているところから解決策を見出させたり考察させたりしています。
遠藤先生 全教室に wi-fi 環境が整っており、オンライン授業などコロナ禍でもすぐに対応できました。コロナによってオンライン授業をスムーズに実施することはできましたが、学校で受ける授業のありがたみが高まった面もあります。
松永先生 逆に「人間に触れないとリアルにコミュニケーションをとっている感じがしない」と、対面授業やワークの再開を心待ちにする生徒が数多くいました。グループワークを中止していた時期がありましたが、その期間にも生徒から「いつグループワークを再開するのですか」という声が数多く聞かれました。
亀田総合病院見学ツアー(本物の針と糸で縫合の体験)
生徒に授業をしてもらうこともある
グループワーク以外で生徒同士のやりとりはありますか。
松永先生 誰かに「ここをリサーチしておいて。授業をやってもらうから」という形で投げることはありますね。
生徒さんに授業をしてもらうのですね。
松永先生 そうです。準備をしてくれる子は、図書館で本を借りてきて調べてきたり、パワポまで作ってきたりして、すごく熱心に取り組んでくれます。他の生徒は聴き手になるのですが、話し手も生徒なので気づきが多くなります。また、いろいろと突っ込めるんですよね。教員の授業ではなかなか発言しにくいところがあると思うのですが、生徒の授業では「これ、こうなんじゃないですか?」「違うんじゃない?」「先生、わからないですー」などと生徒が気軽に発言します。指摘を受けて先生役の生徒も「これをこうすれば伝わりやすかったのかな」というように、いろいろと気づくので勉強になります。こうした試みは、他の教科でもやっています。
遠藤先生 人前で話すというのはよい経験になると思います。
松永先生 40人の前に立つ、つまり80の目が集まってくる経験をすること自体がそう多くはないので、人前で話をするということも良い訓練になっているのではないかと思います。
2018年度から「主体的に学ぶ生徒を育てる」が目標に
板書主体の授業から、リアルなものを見て考える授業にシフトしたのはいつ頃からですか。
遠藤先生 創立40周年(2017年度)を機に「主体的に学ぶ生徒を育てる」ことに力を入れて参りました。 2018年度から、すべての生徒が主体的に活動して、自分たちの考えを述べられるような教育に方向転換して、教師はその仕掛けづくりに取り組んでいます。
松永先生 進学校というと、入試を乗り越えればいい、と感じる方も多いと思うのですが、入試を乗り越えた先にどういう生き方があるのか。どういうあり方があるのか、というのを見据えてほしいと思うんですよね。その中にそれぞれの教科の授業があり、人として大きく育つための役割を成しているということになります。たとえば、私が今、担当している高1の公民の授業では、教科担当者の中で話し合いをして、「教科書のこの部分は薄く扱うけど、ここは大事で生徒の一生にも生きてくる。政治経済を勉強したからには理解してほしいから、ここは少し教科書をはみ出ているけど、この話題をもってきて、こういうふうに扱おう」というような形でプリントを作ったり、映像を用意してきて見せたりするケースが増えてきています。
江戸川学園取手中・高等学校 校舎
インタビュー2/3