シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

出題校にインタビュー!

江戸川学園取手中学校

2021年12月掲載

江戸川学園取手中学校の社会におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。

1.問題の意図や問題を通して求められているものを考えることが大切

インタビュー1/3

生のトピックスについて考え論じる問題

この問題の出題意図からお話いただけますか。

松永先生 公民分野の作問では、できるだけ生徒が生きている世界・社会、あるいはこれから生きていくであろう世界・社会に存在する生のトピックスを取り上げて、それについて考えてもらったり、論じてもらうような問題を、必ず1題以上出題する、ということを念頭に置いて進めています。 そのような中で今回、犯罪被害者の実名報道を題材に取り上げたのは、世の中にはわかるもの、わかりやすいものだけではなくて、 わからないもの、わかりにくいものもあるのだということを受験生の皆さんに感じてほしかったからです。解決が難しい課題にもチャレンジしてみようという姿勢を持ち合わせているかどうかを、ぜひ見たいと思い出題しました。

社会科副主任/松永 啓佑先生

社会科副主任/松永 啓佑先生

わからないもの、わかりにくいものに触れる入口に

松永先生 作問のきっかけは朝日新聞社の雑誌「Journalism」です。プライバシーの問題がクローズアップされるきっかけになった、京都アニメーションの放火事件の話題が載っていて、そこには元新聞社の記者の方が実名報道の意義を説明されていました。犯罪被害にあった方々のプライバシーは最優先で守られるべきだ、という思いが念頭にあったので、腑に落ちない点がありました。筆者の言いたいことについて、「ここまではなんとなくわかるけれども、この先は違うよな」というところが自分の中で見えてきた時に、受験生にも今後そういう経験を積んでいってほしいと思いました。わからないもの、わかりにくいものに触れてもらうことが大事なのではないか。入試問題がその入口になればいいなと考えて、このテーマを選びました。

問題を提示した時に、他の公民の先生方はどのような反応でしたか。

松永先生 「なぜ、あえて被害者なのか」という声が多かったです。加害者の実名報道の是非はこれまでにも議論されてきましたが、被害者の方の取り扱いはセンシティブになります。そこに切り込むということは、小学生にとって考えにくいものだと思うので、なぜあえて出題の視点を変えるのか、というところは作問を担当している他の公民の教員からも出てきました。出題に至ったのは、趣旨を理解してもらうことができたからです。

江戸川学園取手中・高等学校 校舎

江戸川学園取手中・高等学校 校舎

5割は犯罪被害者ではなく犯罪加害者の実名報道について記載

受験生の解答が気になりますね。

松永先生 満点だったのは1割ほどだったと記憶しています。4割ほどが部分点。残りの5割は、犯罪被害者の実名報道についてではなく、犯罪加害者の実名報道について記載したものでした。入試問題自体が学校と受験生の皆さんとのコミュニケーションである、という考えから、記述問題を出す時には、「こういうことを書いてください」という出題の狙いを明らかにしています。今回でいえば犯罪被害者の実名報道の意義と、それが社会に与える影響です。ですから受験生の皆さんには、この問題にはどういう出題意図があるのか。問題を通して何を求められているのか。それをしっかり読み取ることできれば、この5割が、もっと減ったのではないかと思います。

文字だけでなく、いろいろな表現で考えを問いたい

記述問題では、どんな工夫をされてますか。

松永先生 地理分野では地形図、断面図の問題を出題するケースも増えています。つまり、表現の方法は文字に限りません。ネット社会ですから、画像や映像を使って表現するということも、1つのツールとして増えてきています。
生徒にアウトプットさせる時も、図表やイラストを書いたり、画像を使ったりして作品やレポートを仕上げるケースが非常に多くなってきました。いろいろな技法を使って表現できるようになってほしいと思います。ゆくゆくは地理分野に限らず、歴史分野や公民分野でも関係を図式化するなど、文字だけでなく他のツールも使って表現させる出題を増やしていきたいと考えています。

江戸川学園取手中・高等学校 オーディトリアム大ホール

江戸川学園取手中・高等学校 オーディトリアム大ホール

入学後も書く機会は多く、その力は大学でも役立つ

自分の考えがなければ書けないですよね。

松永先生 定期テストでも、中1、中2では、書くことへの抵抗感をなくすことを意識して、あらかじめ問いの条件のハードルを低くしたり、 ヒントを予選、決勝のような形で段階的に散りばめたりしています。中3、高1と学年を重ねるにつれてA4用紙の3分の1くらいのスペースを解答欄とした記述・論述問題を2、3題出しても、1時間という試験時間の中で考え、それなりに筋の通った答案を仕上げることができるようになります。

遠藤先生 本校は道徳でも、大学ノートに1ページ、感想を書いてまとめる、ということを6年間やりますので書く力は相当つくと思います。つい最近も「『えどとり』の魅力を在学中よりも卒業後に感じている」と話す卒業生がいました。「 大学でレポートを書く時に周囲の友だちが苦労している。ところが自分はそれほどでもないと思っていて、それは6年間、あれだけ書いてきたからだ」と言っていました。問われていることに対してしっかりと自分の考えをまとめる力が養われているから、苦労しない自分がいるのだということを再認識したそうです。

インタビュー1/3

江戸川学園取手中学校
江戸川学園取手中学校1978年の創立以来、「心豊かなリーダーの育成」を教育理念として、将来、国際社会に貢献できる有為な人材の育成に取り組む。心力と学力と体力のバランスのとれた三位一体の教育を目指している。2014年4月には、江戸川学園取手小学校が開校し、茨城県初の小中高12ヵ年一貫教育校となった。また、2016年度から中等部が医科ジュニアコース、東大ジュニアコース、難関大ジュニアコースの3コース制となっている。
「心力」の教育は、具体的には「道徳の授業」、「ロングホームルーム(LHR)」、「合同ホームルーム(合同HR)」で行う。教師が講話をし、生徒はそれを聞き、メモを取り、自分の感想文を大学ノートに1ページ書く。それに対して担任からコメントが返る。このやりとりが6年間継続し、人格形成の基本を身につけていく。
「授業が一番」をモットーに講義一辺倒の授業ではなく双方向授業を重視し、思考力や判断力、表現力を重視した授業を行う。また、オーディトリアムで行われるイベント教育は、世界の第一線で活躍している著名人の講演会や世界的な音楽家の演奏、古典芸能鑑賞などを行う。イベント教育を通して、ものの見方や考え方に広がりと深みを与えられるように工夫と趣向を凝らしている。
放課後には生徒が主体的に選ぶ150にも及ぶ「アフタースクール」を実施。自分の個性や適性に気づき、自らの手で可能性を広げていくことは進路を照らすことはもちろん、「生きる力」に繋がっていくという考えからだ。アフタースクールは、学習系、英語4技能、実験系、合教科系、芸術系、アクティビティー系、イベント系、プレゼン系、PBL系(企業と連携)、講演会・出前授業(大学の先生が実施する宇宙教育プログラムの講座)など、じつに多種多彩なプログラムとなっている。
中2生での校外探究学習では、学校を離れ2泊3日の宿泊探究学習を実施。再度江戸取生としての自覚を深め、最高峰を目指す生徒集団にふさわしい広い視点からの学習する。八子ヶ峰ハイキング、飯盒炊爨体験、班毎の環境学習(2日目、3日目)が中心。豊かな自然や風土が今なお多く残る白樺湖周辺の地が、生徒にたくさんのことを教えてくれる。