シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

今月の額面広告に掲載されている問題はこれだ!

江戸川学園取手中学校

2021年12月掲載

江戸川学園取手中学校【社会】

2021年 江戸川学園取手中学校入試問題より

(問)プライバシーの権利を巡って、犯罪の被害に遭(あ)った人々やその家族などの暮らしを守るために、犯罪被害者等を実名で報道することは避けるべきであるとの意見が存在する。
その一方で、犯罪被害者等を積極的に実名報道するべきであるとの意見が、マスメディアを中心に示されている。
犯罪被害者等を実名報道する意義としては、どのようなものが考えられるか。社会に与える影響という観点から、その意義について複数挙げて説明しなさい。

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには各中学の「こんなチカラを持った子どもを育てたい」というメッセージが込められています。
では、この江戸川学園取手中学校の社会の入試問題には、どういうメッセージが込められていたのか、解答・解説と、日能研がこの問題を選んだ理由を見てみましょう。(出題意図とインタビューの公開日については更新情報をご確認ください。)

解答と解説

日能研による解答と解説

解答例

情報の隠ぺい、ねつ造を防ぐことができる。また、実名のほうが社会全体に事件を共有しやすく、事件の再発を防ぐことにつながる。

解説

「社会に与える影響という観点から」という方向性がしめされています。視聴者や読者など報道の受け手、報道関係者、事件を担当した警察、事件を裁く人々など、あらゆる立場を考えて、実名報道が社会に与える影響を考えましょう。

日能研がこの問題を選んだ理由

日本国憲法では、さまざまな権利が保障されています。私生活や私事をみだりに他人の目にさらされないプライバシーの権利は、日本国憲法で明示されているわけではありませんが、憲法上保障される「新しい人権」のひとつであると解されています。プライバシーの権利をめぐり、ここ数年で関心を集めたのが、犯罪被害者等を実名で報道することの是非です。この問題に関してはさまざまな意見がありますが、実名報道に反対する立場のおもな理由としては、被害に遭った人々やその家族などを「二次被害」から守ることがあげられます。報道関係者が大人数で押し掛けて執拗につきまとったり、インターネット上に無断で個人情報が掲載されたり、誹謗中傷の的になったりするなど、実名報道に踏み切ったことで二次的に精神的な負担や不利益を受けるおそれがあるからです。こうした二次被害、とくにインターネット上で起こりうる問題については、受験生も想像しやすかったと推測されます。それというのも、受験生はこの問題に取り組む前に、インターネットの普及によって、誰もがいつ批判や攻撃の対象となってもおかしくないことや、デマやねつ造の情報も簡単には訂正できず、検索さえすれば半永久的に人々に見られてしまうことなどを文章で読んでいるからです。そうした事前情報のもとで実名報道を考えると、ついリスクに目がいきがちですが、この問題ではそうした受験生の見方を180度ひっくり返して、実名報道には社会的な意義もある、という新たな一面を提示しています。さらに、社会的な意義を「複数挙げ」る設定によって、実名報道に賛成する立場にもいろいろな理由があることに受験生は気が付いたはずです。

あるできごとについて、それに賛成か反対かという結論以上に、その背景にある理由に目を向けることで、できごとの本質に近づいてほしい。そして、さまざまな角度から理由を考えることで、多角的なものの見方を身につけてほしい。そうした学校のメッセージが込められているように感じました。

このような理由から、日能研はこの問題を□〇シリーズに選ぶことにいたしました。