シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

出題校にインタビュー!

桐朋女子中学校

2021年12月掲載

桐朋女子中学校の国語におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。

1.自分の体験と照らし合わせて考えることが求められた問題

インタビュー1/3

まずは設問の出題意図からお話しいただけますでしょうか?

荒井先生 本校の国語科の入試問題は、説明文と小説を中心とした鑑賞文を出しています。子どもたちは説明文で今まで知らないような考え方に触れることになるわけですが、今回は「農業」がテーマとなりました。この文章では、特に西洋的な視点と日本的な視点から農業の在り方が比較され、文章が展開されていきます。我々は都市文明に浸かって生きていますので、西洋的に「自然を保護しなければいけない」とか、「人間が守るべきだ」と考えがちですが、「こういう考え方があるんだ」と新しい視点で農業、さらには自然と人との関わり方について知ってもらうための文章選定を行いました。

近年では持続可能な開発目標(SDGs)が課題としてあり、人が責任を持って、自然を持続させるために目標が掲げられています。しかし他人事として「そういうことがあるんだ」で終わるのではなく、自分の体験に照らし合わせてものを考えることが必要であり、自身の問題として先を見据えて考えていただきたい、という想いから今回は作問しました。

実は「これが正しくて、これが間違っている」という二項対立や、二者択一といった課題は世の中にはあまりなく、答えの一つに定まらない問いのほうが多い。そのため、多角的な視点で物事を捉えることが大事になってくるのですが、これに年齢はあまり関係なく、考え続けることが大事だと思うのです。この問題でも新しく知った知識と今までの経験や既存の知識を重ね合わせ、自分がどう考えるのか、主体的に考えてもらう設問を意識したつもりです。

「農業は自然破壊だ」「農業は自然を支えている」という二つの見方は、実は矛盾していない。そのような事例をあなたの体験から選んでください、という設問であったわけですが、「自然破壊」は「外からのまなざし」、「自然を支えている」というのは「内からのまなざし」という見方の違いが本文では示されていますが、実際は少し難しかったような気がしています。自然に対する「破壊」か「支え」かという二面性を含むテーマを考えてもらえばよいのでしたが。

たくさんの知識を得てそれをそのまま答案としてフィードバックするのではなく、自分の体験と新しく学んだことを結び付けて、理由付けをしたり意見として伝えたりすることができるか、という表現力を問う筆記試験ですから、「文章として説得力のある説明ができるか」ということを意識しました。

作問の意図としては、「外から」「内から」という両面の考え方で答えを作って欲しかった、ということですが、理想として、たとえばどのような答えを想定されていましたか?

荒井先生 たとえば牧畜のようなテーマの場合、山裾を開拓することそのものは自然破壊につながるけれど、人間も自然の一部として動物の恵みを頂いて生きていく、草原を維持し、自然と共に生きるといった視点も可能です。

林業や動物園、水族館の取り組みを書いている受験生は多かったですね。例を挙げると、動物搾取は自然破壊だけれど、飼育することは種の保存と言え、自然保護につながる、といった解答がありました。感心した答案としては「治水」を挙げてきた受験生がいます。いわゆる貯水のためのスペースとか、遊水池のようなものを語りたかったんだと思います。

どのような答えが正解になったのですか?

荒井先生 「自然破壊」と「自然を支えている」という両面について触れられたテーマを挙げ、自分がどちらの立場をとるか、理由とともに説明されていれば完答としました。ただし、多少不足している部分については減点としています。

国語科/荒井 仁先生

国語科/荒井 仁先生

口頭試問を取り入れた入試形式

口頭試問を実施されていますね。

荒井先生 「こんなことを知ったんだ」という楽しさや、新しい発見を持ち帰ってもらいたいという想いは毎回意識しています。口頭試問は受験生との会話のやりとりで進んでいくものですから、その中で間違いがあってもいい。ただ「なぜ間違ってしまったのか」に気づき、試問の中で「結果として解答を修正していける」ということを大切にしていきたいと考えています。

口頭試問のためにはどのような準備をしたら良いでしょうか?

荒井先生 答えを先回りして欲しがるということは、学問の姿勢としては違うのではないかと思っています。粘り強くもう一度考え直してみたり、面白いと思ったことを調べてみたりするなど、そういう姿勢まで見てみたいという想いもあって、あえて筆記ではなく口頭試問という形式を取っているというところはありますね。

口頭試問は何分ぐらいあるのですか?

峯先生 授業形式で約40分間です。試問準備室という場所にて課題を課していきます。その課題を持って試問室で試問官が課題用紙を見ながら、「こう書いてあるけれど、どう考えたの?」とか「これについてもう少し言葉を補ってもらえるかな?」といったやりとりをしていきます。『今日こんなことを勉強した』という学びの楽しさ、笑顔を家に持って帰ってもらうことを大切にしていますね。

塾でも保護者の方から「桐朋女子では、どんな内容が出題されるのですか?」と受験相談で聞かれることがあります。

峯先生 学校のホームページに問い合わせフォームがあるので、そこから問い合わせてもらえば個別にお答えしています。要予約とはなりますが、オンラインで昨年の問題を一緒にやってみよう、といった具合に受験生に理解を深めてもらうような対応も行っています。

やりとりをすごく大切にされていますね。

荒井先生 せっかく本校に興味を持ってくれた受験生ですから、Face to Faceで一人ひとり応じたいという想いはあります。

今回のポスターの問題に戻りますが、「外側」と「内側」の、どちらの見方をする子が多かったでしょうか?

荒井先生 どちらに偏るということはあまりなかったと思いますね。テーマとして挙げた題材によると思います。「治水のためには、自然を切り開いて池にする発想だから自然破壊だ」といった内容や、たとえば林業では「放っておくと藪になってしまうところを、管理することで日本の山林が維持されている」というようなことなど、どちらの立場もありました。
むろん、どちらの立場で書けばよいということではなく、物事を様々な視点で見られること、そして、理論的に自分の立場を説明できることが求められます。

「牧畜」や「日本庭園」のようなものでも書けるかな?と思っていたのですが、そのような答えはあまりなかったですね。自然破壊だけでなく両面を記載しなければならなかったので、難しかったのかもしれませんね。

桐朋女子中学校 校舎

桐朋女子中学校 校舎

根拠をしっかり示せているかがポイント

どちらの見方をするか、ということでその子の「人となり」も見えてくるのですか?

荒井先生 こう書いてあるから駄目だ、ということはなく、論理的に根拠がきちんと示されているかどうかが大切です。筋道として「自分はこう思う。なぜなら~だ」ということが伝わってくればそれで良いと思います。

峯先生 言葉を尽くしてくれることで、「人となり」というのは見えてきますし、そういう意味でこういった問いは重要なんだろうな、とは思います。

採点はどうやってされたのですか?

荒井先生 採点の詳細は公開していないのですが、多人数になると基準がずれてしまうので、ある程度の責任を持って採点をする者を置いています。

言葉が無くても意思疎通が出来る時代だからこそ語彙力を重要視する

全体構成として説明的文章と鑑賞的文章があるというのはお聞きしましたが、そのほかにお考えになっているところがあればお聞かせください。

荒井先生 語彙はしっかり見ていきたいという想いがあります。昔から、漢字の書き取りや読み、語句の意味を問う傾向は変わりません。

峯先生 最近は言葉が無くても意思疎通ができてしまう世の中ではありますので、言葉を大切にしてほしいですし、そういう人であってほしいな、という想いはあります。

荒井先生 また、最初の問いから記述させるようなことはしていません。ある程度語句を問うことから始めて、文章の理解をうながすように、受験生に手がつきそうな問題から問い立てを行い、設問を解くことで理解が深まる工夫をしています。最終的には自分自身の考え方を記述する問題へ、というように進めて構成しています。

桐朋女子中学校 国語科編さん副教材

桐朋女子中学校 国語科編さん副教材

出題するからには「読んでもらいたい」

鑑賞的文章では同じ筆者の文章を二編出題し比較させていますが、どのような意図があったのでしょうか?

峯先生 「しっかり読んでもらいたい」という想いは根底にあります。もちろんたくさん良い話はあるのですが、出題できるものは限られているので、「厚みを持った理解をしてもらいたい」という想いで出題しています。今回は、大村はまさんの同じ本の中のエッセイで、分量との兼ね合いも踏まえ、その中でも特に読んでほしいものを厳選しました。

試験問題の作成は、毎年先生方が役割を持って、みんなで話し合って採用されていくのでしょうか?

峯先生 そうですね。こんなものを読ませてみたいね、というものを各自で持ち寄って選定していくスタイルです。

さまざまなタイプの文章があると思うのですが、選定する上でどんな傾向の文章が多いのでしょうか?

荒井先生 小学生にある程度わかる文体であること、それから抽象論よりは具体的な説明文を選ぶことが多いですね。昔から割とリベラルにやってきた学校ですので、理解の届きそうな素材と表現で、今まであまり触れたことのない見方や切り口が示せるものを選ぶことが多いと思います。

インタビュー1/3

桐朋女子中学校
桐朋女子中学校1941年、山下汽船株式会社社長の山下亀三郎氏の寄付金を基にして創立された山水高等女学校が始まりである。戦後、関係者の懸命の努力によって、桐朋女子中・高等学校として再生される。ブロック制の導入、通知表の廃止、面談による成績伝達、進路によるコース制をとらず、桐朋女子ならではの自由選択カリキュラムなど、絶えず創意工夫されながら現在に至っている。
一クラスは30数名だが、中学では分割授業・コース別授業を実施し、高校では、生徒一人ひとりが自由に授業を選択するカリキュラムが取り入れられている。そのため、生徒数に対する教員の人数が多い。生徒一人一人に目を行き届かせて、教科教育・教科外活動など、学校生活のあらゆる場面を通して、生徒の創造力を養う。
「ことばの力」を重視し、言葉で論理的に考え、表現する力が教科学習や学校行事の土台となっている。「武蔵野巡検」「都内見学」などの体験学習では、事後にレポートを作成する。受験生に「口頭試問」を行うのも、自分で考え自分の言葉で表現することを大切にしているからこそである。
運動部が12、文化部が18の計30のクラブがある。多くのクラブが中1から高3で活動し、お互いを高めるために刺激し合っている。6年間のクラブ活動を通して、チームワークを学び、人生において大きな財産となる人間関係を築いている。水泳部や放送部、新体操部は全国大会レベルだ。
桐朋祭では、毎年クラス発表が行われる。中学は義務であるが、高校は義務ではない。しかし、毎年全クラスが発表を行っている。他、クラブ、個人グループの参加で、合計100以上の団体が適材適所、その力を結集し、映画や演劇、音楽、パフォーマンスやバザー、展示発表など、各自の得意な分野で活躍する。