シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

今月の額面広告に掲載されている問題はこれだ!

桐朋女子中学校

2021年12月掲載

桐朋女子中学校【国語】

2021年 桐朋女子中学校入試問題より

(問)「『農業は自然破壊だ』という見方と『農業は自然を支えている』という見方は、矛盾しているわけではありません。同じ世界を別々の見方で見ているに過ぎないからです。」とあります。
農業のように、「自然破壊だ」という見方も「自然を支えている」という見方もできる事がらを一つ取り上げて、あなたがどちらの見方をするかについて、理由を挙げて書きなさい。
傍線部(宇根豊『日本人にとって自然とはなにか』筑摩書房)より

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには各中学の「こんなチカラを持った子どもを育てたい」というメッセージが込められています。
では、この桐朋女子中学校の国語の入試問題には、どういうメッセージが込められていたのか、解答・解説と、日能研がこの問題を選んだ理由を見てみましょう。(出題意図とインタビューの公開日については更新情報をご確認ください。)

解答と解説

日能研による解答と解説

解答例

人工的に作れない人体も自然の一つとして見れば、西洋医学は両者の見方が可能だと思う。西洋医学に頼りすぎると自然治癒力が衰え、かえって健康を害するという見方もできるが、手術や投薬によって劇的に心身の苦痛を和らげてくれる恩恵には代えがたいと思うので、自然(人体)を支えていると思う。

解説

ポスターには掲載されていませんが、文章では、「田んぼを開くためにはそれまでの湿原や草原や森林を切り開かなければなりませんでした」とあります。筆者は、昔はこれを自然破壊だと考える人は誰もいなかったと言い添えていますが、これが「農業は自然破壊だ」と考えられる一つの根拠です。また、「農業は同じ仕事をくり返し続けてきました。その結果、同じ生きものが毎年毎年生まれるようになり、いつも顔を合わせることができるようになりました」ともあります。これが「農業は自然を支えている」と考える根拠です。同じ農業であるにもかかわらず、「自然破壊だ」「自然を支えている」という相反する見方がされているわけです。このような見方ができるのは農業だけではないとしたら、ほかにどのような事がらにおいて可能かが問われているのです。すぐに思いつくのは、同じ第一次産業である、林業と漁業でしょう。いずれも自然と深いつながりのある産業ですね。もちろん(解答例)のように、何を自然と見るか、どのように自然を見るかによって答えは様々に作ることが可能です。自分の身近なところに目を向けて、自分なりの視点で自然とつながりのある事がらを探ってみましょう。

日能研がこの問題を選んだ理由

文章を読み、問いに取り組む中で、子ども達は、「多角的なものの見方をすることで、ものごとの本質が見えてくる」という、新しいものの見方、考え方と出合います。「多角的なものの見方」は、これから子ども達が、望ましい農業のあり方や自然環境との向き合い方を考えるうえでも重要で、SDGsの目標12「つくる責任 つかう責任」や目標15「緑の豊かさも守ろう」の達成に向けて、有効な視点だと言えるでしょう。もちろん、子ども達は、ただそれをキャッチするだけでなく、出合った見方や考え方を自分事としてとらえ直し、その場で具体的な例を挙げ、自分なりに理由付けして意見を述べます。まさに未知と既知を関連付ける動的な学びが、この入試問題の中に息づいています。

多くの知識や高度な技術を知り記憶するだけでなく、それを使える、あるいは使いたいと思える自分を自分で創っていく。桐朋女子中学校の教室で、子ども達と先生が真剣に対話する姿が目に浮かぶ問題だと感じ、日能研ではこの問題を□○シリーズに選ぶことにいたしました。