出題校にインタビュー!
駒場東邦中学校
2021年10月掲載
駒場東邦中学校の理科におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。
3.本物に触れる体験を大切にしたい
インタビュー3/3
時間割に週1回「分割実験」を組み込む
先生 本校の理科の特徴の一つは、中1・中2で40人クラスを半分に分ける「分割実験」を週1回時間割に組み込んでいることです。少人数なので教員や実験助手の目が届きやすく、恵まれた環境で実験できていると思います。
分割実験は1分野(物理・化学)と2分野(生物・地学)の実験を毎週交互に行います。1分野・2分野の通常授業(各週2回)合わせると、週2~3回実験を行うことになります。これだけの頻度で実験できるのは、実験室が9つあればこそです。
2分野は顕微鏡を使うことが多く、光学顕微鏡、双眼実体顕微鏡、偏光顕微鏡をクラスの人数分用意しており、1人1台ずつ使用して実験・観察が行えます。そのほかの実験器具も人数分揃えることで、共用器具を少なくして密を避けることができています。
駒場東邦中学校 理科実験室
スケッチは特徴をきちんととらえることが大事
先生 生物・地学分野の観察では必ずスケッチを行います。スケッチすることで、どこが、どのようになっているかがよくわかります。
評価で大切にしているのは、上手・下手ではなく特徴をきちんととらえられているかどうかです。例えば海産プランクトンは節足動物ですから、あしの節をきちんと描くことがポイントです。
スケッチの描き方として、どんなことを指導しているのですか。
先生 スケッチは輪郭を鉛筆で薄く下書きした上で、清書はボールペンで1本の線で描きます。「内臓が透けて見える」など観察してわかったことは、指示線を引いて書き込みます。
明暗がある場合は点描で表現します。点描が難しければ、指示線を引いて「ここは黒色」などと示します。真っ黒なら塗りつぶしてもいいですが、例えば消化管は完全な黒ではないので塗りつぶしてはいけません。自分で見たままを正確に描くこと。見えないものは描かない、想像で描かないということです。影をつけたりもしません。
スケッチは提出してもらい、赤字を入れて返却、バインダーにまとめておきます。中1は親御さんに見せているようで、「うちの子は、こんなにうまく描けるんだ」と親御さんが喜んでいます。
駒場東邦中学校 研究レポート
土壌動物を点数化して多様性を評価
先生 「環境を知る」テーマでは、「土壌動物による自然の豊かさ」について判定表を用いて調べます。採取した土の中から土壌動物を探して双眼実体顕微鏡で観察。さらに土壌動物を点数化して、採取した土壌の多様性を調べます。判定表はよく見かけるアリやダンゴムシなどは人為的な影響を受けにくくいろいろな環境に住むことができるので点数が低く、オオムカデやヨコエビなど人為的な影響を敏感に受ける動物は点数が高くなっています。
一般論としてはとらえていても、自分の周りはどうなのかがわかる取り組みですし、楽しみながら学べそうですね。
ブタの眼、頭、内臓をくまなく解剖して観察
先生 解剖実験は本校の理科教育の特徴の一つです。通常は動物の単元に入る中1の後半から解剖を始めます。中2の後半には唾液腺の染色体の観察や細胞分裂などミクロの世界を体験します。
特にブタの解剖は昔から取り組んでいます。ブタの内臓は全て観察します。口からつながっている状態のものと、別々にした状態のものを用意します。口から肛門に至る全ての臓器、舌や咽喉、気管、肺、心臓、肝臓、胆嚢、脾臓、膵臓、胃、小腸、大腸、直腸、肛門、生殖巣などを実際に触って感触を確かめます。最後にみんなで小腸を持って、教室の端から端まで届くその長さ(約20m)を実感して記念撮影するのが定番です。
「肺胞は表面積を広くする構造をしている」ということは知識としては知っていますが、実物を見ることで実感を伴い知識が定着しやすくなります。
駒場東邦中学校 実験風景
実物に触れるから「すごい!」と実感できる
ブタの頭の解剖はかなり珍しいですね。
先生 ブタの頭は脳を摘出します。ブタの脳は大きいので、どこが大脳で、どこが中脳か構造がわかります。くも膜を見て「くも膜下出血はここで起こるのか」ということもわかります。本校は医学部志望の生徒が多いこともあり、積極的に解剖に参加しています。解剖のインパクトはかなり大きいと思います。
解剖を通して、実際にやってみることの大切さに気づくのではないでしょうか。
先生 心臓の解剖は血管が切られた状態ですが、だからこそ左心室の壁の厚さやそれぞれの弁を確認することができます。眼の水晶体は透明で「きれい」という感想がぴったりです。レンズなので拡大されると「おお!」とおもしろがります。このように本物に触れる体験を大事にしたいと思っています。
頭の中だけで考えずに、実物を見たり、触れたり、自分の手を動かしてどうだったのか実感しながら、いろいろなことを吸収してほしいと思います。それは卒業してからも必要なことだと思いますから、大事にしてほしいですね。
好きなことをとことん探究できる熱さがある
先生 本校の文理選択は高3からなので、それまでは好きなことに没頭できると思います。生物部の昆虫班は知識が豊富で、教員が教えてもらっているほどです。好きなことについてはどん欲に知識を吸収しており、専門書や論文も読んで「もっと知ろう」とする姿勢に感心します。
一つのことをとことん探究できるエネルギーを持っているのでしょう。目黒寄生虫館で学芸員をしている卒業生は、ナマコに寄生している貝類の研究で東大の学位を取得しました。そんなニッチなテーマを探究するのは本校の卒業生らしいなと思います。
“勝手に”わが道を突き進むのが駒東生らしさ
先生 生徒が“勝手に”わが道を突き進む、徹底して探究するのは、本校の伝統と言えるでしょう。
例えば理科系のクラブは部員数が多く、文化祭の展示は圧巻です。生物部は横幅180cmの大型水槽を展示してまるで水族館や昆虫館のようです。世界のクワガタやカブトムシを対決させる「ムシキング」は小学生に人気です。たくさんの生き物を展示していますが、「自分たちで採取してきたものだけを展示する」というのが彼らの信念です。
教員が指示することはありません。フィールドワークをするときは工程を調べるのはもちろん、低学年の生徒を連れて行く場合の注意点も自分たちで考えます。行き先の決定や業者との交渉も、責任を持って自分たちで対応しています。
昨年、全国で文化祭が中止になったり、オンライン開催になったりする中で、本校は実行委員の生徒たちが中心となって感染防止対策を徹底し、事前予約をした受験生と保護者を招待して11月に開催することができました。これは、最後まであきらめず試行錯誤した結果だと思います。生徒たちが創意工夫して困難を乗り越えてくれたことに感動しましたし、「自ら考え、自ら行動」できる駒東生たちをとても頼もしく誇りに思っています。
駒場東邦中学校 標本
インタビュー3/3