シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

出題校にインタビュー!

駒場東邦中学校

2021年10月掲載

駒場東邦中学校の理科におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。

1.最新の科学的知見をおもしろがろう

インタビュー1/3

卵も「食べられて運ばれる」驚きの事実

先生 この問題は、2020年7月にアメリカの学会誌に掲載された論文を参考にして作成しました。受験生に最新の科学的知見に触れてほしくて入試問題に取り上げました。

鳥獣に食べられ糞として排出されることで種子が運ばれる「被食散布」は植物でよく見られますが、動物の卵の被食散布は知られていませんでした。ヨーロッパで外来種として問題視されているギベリオブナ(原産地東アジア)の“執念の”生存戦略を示したこの研究は、既成概念を見事に壊してくれるものでした。

もしかしたら、日本で外来種の問題になっている特定外来生物のブラックバスやブルーギルなども、このようにして生息域を広げたのかもしれません。
この内容を知ったとき強い衝撃を受けました。受験生も驚いてほしいし、「魚も植物と同じようなことをしている」という新しい知見を得てもらいたい。本校の入試を受けたことで、少しでも興味関心を持ってもらえたらうれしいですし、「楽しい」と思ってもらえる入試問題を心がけています。

駒場東邦中学校 先生

駒場東邦中学校 先生

食べられることで得られる利点とは?

出来具合はいかがでしたか。

先生 ざっと見たところ、合格した子どもはきちんと答えることができていました。
この問題は、ギブリオブナにとっての利点を挙げます。卵は1個も食べられないことがベストですが、受験生は「食べられることで得られる利点」を自分なりに考えて答えてくれました。無答は一定数ありましたが、出題の意図をとらえて、植物の被食散布に結びつけて答えを導き出した受験生は多かったです。

模範解答はありますが、「正解のない問い」という意識で出題しましたから、整合性があれば許容しました。たとえば、「生き残る」というだけの答えだけでは、「ギブリオブナにとっての利点」に適切に答えていないのですが、「強い個体が生き残る」という答えは許容しました。この論文が推測の段階であり、消化されない(耐久性がある)、すなわち強い卵だから生き残ったということは否定できないからです。

植物の被食散布を動物と結びつけて考える

この問題で子どものどんな力を見ていますか。

先生 一つは、自分が持っている知識を応用できる力です。受験生は植物の被食散布を知っているでしょうから、その知識と結びつけて着想できたかどうか。植物と動物は別々に学習したかもしれませんが、両者の関連性に気づいてくれたらと思います。入試という緊張した状況でも、柔軟に発想できるように挑んでほしいですね。
もう一つは、自分の言葉として正しく表現できる力です。読み手に伝わるように表現できている答案もありましたが、単語を並べただけの答案もありました。

単語を並べただけの文章は、読み手がそれなりに意図を汲み取ってあげないといけません。自分自身が内容を理解した上で、自分の言葉で表現するところまでできるといいですね。設問の一文を抜き出した答えは内容を理解できていないと受け取られます。
表現は稚拙だけれど言いたいことがわかるものは許容しました。ただし、主語がないためにいろいろな意味にとらえられれば減点対象です。例えば「強いから」という解答は、「何が」強いのかわかりません。主語・述語の関係がはっきりしていることが基本です。
「主語がない」など文章の不備に気づけるように、文章を書いたら書きっぱなしにせず、読み返す習慣をつけましょう。

駒場東邦中学校 校門

駒場東邦中学校 校門

思考の引き出しを増やそう

また、この問題から「どういうことだろう?」と好奇心が刺激されます。

先生 ギブリオブナの卵を食べた水鳥はそのあとどうするんだろう、どこか別の場所で糞を落としたら卵はどうなるんだろうと、あれこれ想像してほしいですね。用語を覚えるだけでなく、それがどんなこととつながっているのか、考えられたらいいなと思います。

世の中は例外にあふれています。未経験の新しい事象に対して、経験をもとに推理・洞察する行動を、生物学では「知能」と呼んでいます。経験したことを繰り返して学習するだけでなく、「知能」を育んで思考の引き出しを増やしてほしいと思います。

駒場東邦中学校 校舎内

駒場東邦中学校 校舎内

インタビュー1/3

駒場東邦中学校
駒場東邦中学校1957(昭和32)年4月、東邦大学の理事長であった額田豊博士が、当時の名門・都立日比谷高校校長の菊地龍道先生を招き、公立校ではできなかった夢を実現させるため、現在地に中・高を開校。71年に高校募集を停止し、完全中高一貫教育の体制が確立した。2017(平成29)年に創立60周年を迎えた。
神奈川、東京のどちらからも通学至便で、東大教養学部にも程近い都内有数の文教地区に位置。300名収容の講堂、6万9千冊の蔵書を誇る図書室、9室の理科実験室、室内温水プール、トレーニング室、柔道場、剣道場、CALL教室など申し分ない環境が整っている。職員室前のロビーには生徒が気軽に質問や相談をできるよう、机やイスを設置している。
先生、生徒、父母の三者相互の理解と信頼に基づく教育を軸に、知・徳・体の調和のとれた、科学的精神と自主独立の精神をもった時代のリーダーを育てることを目指す。年間を通じて行事も多く、とくにスポーツ行事などでは、先輩が後輩の面倒をよく見る「駒東気質」を培う。中1では柔道・剣道の両方を、中2・中3はどちらかを履修することになっている。
2004年から中学校では1クラス40名、6クラス編成に。「自ら考え、自ら行動する」習慣を身につけながら、各教科でバランスのとれた能力を身につけることが目標。英・数・理では特に少人数教育による理解の徹底と実習の充実をはかっている。中1・中2の英語と理科実験は分割授業。数学は中2(TT)・中3(習熟度別分割)・高1と高2(均等分割)の少人数制授業を行う。英語は、深い読解力をつけるために中3~高3までサイドリーダーの時間を導入。さらに高3ではネイティブ指導のもと自分の考えを英語で表現するコンプリヘンシブ・クラスなど独特の指導も展開している。文系・理系に分かれるのは高3になってから。中学生は指名制、高校生は希望制の夏期講習を実施する。
濃紺の前ホック型詰襟は、いまや駒東のトレードマーク。伝統的に先輩・後輩の仲がよく、5月中旬の体育祭では全校生徒が4色の組に分かれ、各色、高3生の指導の下、一丸となって競い合う。9月の文化祭は、多くの参加団体と高校生約200名で構成される文化祭実行委員会によって、一年かけて準備される。中学では林間学校、鎌倉見学、奈良、京都研究旅と探究活動が充実しており、高校の修学旅行は生徒によって毎年行き先が決められる。クラブは文化部16、体育部16、同好会15があり、兼部している生徒も多い。中学サッカー部・軟式野球部・アーチェリー部・囲碁部・陸上部・化学部・模擬国連同好会などは関東大会や全国大会に出場。アメリカ・台湾への短期交換留学制度もある。