シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

今月の額面広告に掲載されている問題はこれだ!

茗溪学園中学校

2021年09月掲載

茗溪学園中学校【算数】

2021年 茗溪学園中学校入試問題より

先生 今日は、立体の図形を頂点がどこにつながっているかだけに注目して平面の上にかくことを考えてみよう。例えば、図Aの三角すいは、どの頂点からも、他の頂点と辺で結ばれているので、そのつながりをかくと、図Bの図のようにも表すことができます。図Bのような図を「つながり図」と呼ぶことにしましょう。ただし、つながり図は、見取り図の辺の長さや点の位置をそのまま表しているわけではありません。

図A:見取り図 図B:つながり図

(略)

生徒 じゃあ、私から先生への挑戦(ちょうせん)です。図1と図2の2つの図形は、つながり図で表されていますが、これらはどんな立体図形を表していますか。

(問)図1と図2の2つのつながり図で表されている立体の見取り図を、それぞれかきなさい。その際、見えていない辺は、図Aのように点線でかきなさい。

問 図1図2

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには各中学の「こんなチカラを持った子どもを育てたい」というメッセージが込められています。
では、この茗溪学園中学校の算数の入試問題には、どういうメッセージが込められていたのか、解答・解説と、日能研がこの問題を選んだ理由を見てみましょう。(出題意図とインタビューの公開日については更新情報をご確認ください。)

解答と解説

日能研による解答と解説

解答例

解答例 図1図2

解説

問題文にある図A(見取り図)と図B(つながり図)の対応をさぐってみましょう。
次の①〜④のことが確認できます。

① ●は立体の頂点を表しています。また、直線は、立体の辺を表しています。

②見取り図では、見えていない辺を点線で表していますが、つながり図では、すべて実線で表しています。

③見取り図のそれぞれの●から出ている辺の本数と、つながり図のそれぞれの●から出ている辺の本数は同じです。
(次の図は、図A、図Bのそれぞれの●から出ている辺の本数を書き込んだものです。)

解説図③

④つながり図で、辺と辺の交点には、●があるところとないところがあります。つながり図で交点に●がない2本の辺は、見取り図では交わっていません。つまり、見取り図で交わらない辺どうしには、●はつきません。

解説図④

ここまでわかったことを使って、問題の図1、図2のつながり図を、見取り図に直します。
図1も図2も、●が6個あるので、どちらの立体にも6つの頂点があることがわかります。
また、それぞれの●から出ている辺の本数を書き込むと、次の図のようになります。

解説図

上の図の赤い三角形青い三角形に着目します。どちらもこれらの2つの三角形を面に持つ立体であることがわかります。
図1では、赤い三角形の1つの頂点から、青い三角形に向けて2本の辺が出ています。
図2では、赤い三角形の1つの頂点から、青い三角形に向けて1本の辺が出ています。
これらのことから、次のように見取り図をかくことができます。

解説図 図1図2

見取り図に、上の図ように各頂点から出ている辺の本数を書き込むと、図1、図2のつながり図と一致することが確認できます。

日能研がこの問題を選んだ理由

この問題を通して学べることの1つに、「ものごとを抽象化してとらえる」という考え方があります。抽象化とは、着目したい要素だけを残し、その他の不要な要素をできるだけ削ぎ落として表すことです。一般的に、立体図形を認識するときには、面の形、頂点のとがり具合、辺の長さ、面や辺の曲がり具合など、感覚的な要素に目を向けてとらえることが多いでしょう。それに対してこの問題では、立体を「頂点どうしのつながり」という関係だけにしぼって、とらえようとしています。その他の要素(辺の長さ、面の大きさ、辺どうしの角度など)は考えないことにしています。立体を、頂点どうしのつながりという関係だけでとらえようとすると、例えば、さいころ1個と、ところてん1本は「同じ形」ということになります。つまり、この問題は、立体図形のとらえかたを抽象化することがテーマとなっています。

問題に登場する「つながり図」を使った図形のとらえ方は、大学で学ぶ数学の分野の1つであるトポロジーにつながっていきます。トポロジーとは、ものごとのつながり具合を表現する概念で、この分野の研究が、現代の3次元コンピューターグラフィックスの発展などに役立っています。

この問題から、出題者による数学の世界へのいざないを感じます。トポロジーのエッセンスである「つながり具合に着目する」というとらえ方を、小学生向けに算数の知識の中で考えられるようにアレンジしています。この問題に取り組んだ子どもたちは、これから学ぶ数学の世界に流れる考え方を、問題を通して感じることができたのではないでしょうか。

このような理由から、日能研ではこの問題を□○シリーズに選ぶことにいたしました。