シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

出題校にインタビュー!

函嶺白百合学園中学校

2021年08月掲載

函嶺白百合学園中学校の国語におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。

1.自分が環境問題において今できることは何か?を考えさせられる問題

インタビュー1/3

地球環境を考える

まずはこの設問の作成意図について教えてください。

関田先生 この文章は「地球をこわさない生き方の本(著:槌田劭)」という本がありまして、昔自分の子供に読ませようと思って買っておいた本からの抜粋となります。今年は東日本大震災から10年という節目の年であり、福島原発や震災のことがかなり話題になっているため、小学生もテレビや新聞で見聞きしたと思い、関心を持ってもらえるテーマではないかと思って選びました。

本校では数年前から生徒たちが自主的にSDGsの活動に力を入れていて、「女子高生が社会を変える」をキャッチフレーズに、女子高生目線で地球環境を守っていく「BLUE EARTH PROJECT(ブルーアースプロジェクト)」という取り組みに参加しています。

その中で、中1~高3までの全校生徒が環境問題に対し、自分ができそうな取り組みを書く「函嶺eco10try」という企画があります。その中の10番目には「私のTry」という項目があり「私が出来ること」を書いているんですね。環境問題といった社会問題を背景に「自分が出来ることは何か?」という難しいテーマにも関わらず、中学1年生でも身近なこととして捉え、書くことが出来ています。そんなこともあって、入学してからもグローバルな視点でSDGsの活動に取り組んでもらいたいな、という想いでこの文章を選びました。

国語科/関田 まどか先生

国語科/関田 まどか先生

授業の中にも浸透してきたSDGs

「地球をこわさない生き方の本」からの出題意図を教えてください。

関田先生 文中には原発のことが書かれていて、子どもたちはチェルノブイリ原発事故(1986年)のことは知らないかな、とも思ったのですが、「自分たちの好き勝手にしてきた行動が未来のことにつながっている」というような書き方をしていたので、そこが面白いというか、子どもたちにもっと身近に捉えてもらえたらいいな、という想いでした。

自分の生活を見直すような視点がここには書かれています。この会話文になっている問題も単なる抜き出してはなく、今の日常と重ねたのにはそういう意図があったんですね。

函嶺白百合学園中学校 「函嶺eco10try」

函嶺白百合学園中学校 「函嶺eco10try」

NPOとの共同プロジェクトに参加

柳先生 国語科とは関係ないところで「環境問題を中高生よりも下の世代に働きかけられないか」「高校生がやっている活動をもっと小中学生にも関心を持ってもらおう」という呼びかけがNPO法人からありました。

関田先生 「BLUE EARTH PROJECT」の活動をしている時、地球環境問題を扱っているNPO法人から「箱根をテーマにしたものにお手伝い願えないか?」とお声掛けを頂いて、全国の生態系を基にしたカードゲームの「箱根バージョンを作りたい」というお話に本校も参加させてもらいました。

このカードゲームには箱根に生息している動物や箱根で問題となっている環境のことを取り上げ、ゲームを通じて近隣の小学生などに「箱根の生態系を守っていくこと」や「環境問題」を学習してもらうための活動なのですが、そのカードがもうすぐ出来上がります。箱根町の観光協会も協力してくださって、地域の観光施設などで販売していく予定となっています。

柳先生 簡単に言うと子どもたちも当事者なんですね。ある意味被害者的であり、大人は加害者であるわけです。我々が同世代の利益だけを考えていたら、未来世代にこんな借金を置いていってしまった、ということになっているので、今の子どもたちはその中を生きなければならない。

たとえば自分たち世代だと、水族館へ行くと言えば珍しい生物を見るために行ったものでしたが、今は海洋プラスチック問題を調べるために水族館に行くとか。だいぶ視点も変わってきましたね。

函嶺白百合学園中学校 掲示物

函嶺白百合学園中学校 掲示物

解答から子供たちの生活がわかる

子どもたちの答案はどのような内容が書かれていたのでしょうか?

関田先生 本文を踏まえたもので「電気の無駄遣いをしない」というのが一番多かったです。中にはエアコンの設定温度を具体的な数値を挙げて「夏は28℃、冬は26℃に設定する」と記載している生徒もいましたし、「エコバッグやマイボトルを持つ」「コンビニでスプーンを貰わない」といったものが多かったように思います。

子どもたちの実生活がそのまま表れていて、函嶺白百合学園の取り組みに繋がるきっかけともなるような問題ですね。

関田先生 本校では説明会の段階で「説明文か小説かのどちらかに50字程度の自分の考えを述べる問題があるので、自分の考えを持っておくようにしてください」と伝えています。「エアコンの設定温度」「プラスチックスプーンを貰わない」「近所の川でゴミを拾う」など自分のやっている取り組みを答えたものがありました。みんな何かしら書いていましたが、時間が足りないように見受けられた児童も数名いました。

函嶺白百合学園中学校 理科室

函嶺白百合学園中学校 理科室

環境問題を自分のこととして捉えて欲しい

採点で△がついたような回答はありましたか?

関田先生 「字数」「係り受け」「内容」の3点を踏まえて採点をするのですが、「自分のこととして環境問題を考えているか?」という姿勢が読み取れるものは高評価としています。

正答率では〇になったものが41.5%、△は36%、両方で7割強が書けていました。×となったのは全く書いていないか、質問の答えになっていないものを書いた場合です。いつもより正答率は良くて、白紙解答は少なかったように思います。

子どもたちが自分事として捉えてほしいというのは、函嶺白百合学園の取り組みと繋げたいというところが大きいのでしょうか?

関田先生 確かに子どもにとっては「私たちのせいではない」と思うかもしれませんが、生徒会の生徒たちを見ていると、「自分の孫やひ孫がこれからどうなってしまうんだろう」「一体平均気温が何度の中で生きていくんだろう?」というようなことを言っているんです。自分たちのやっている取り組みを「子どもたちは自分事として捉えているんだな」と大人が気づかされることが多いです。

インタビュー1/3

函嶺白百合学園中学校
函嶺白百合学園中学校箱根強羅の地で70余年の歴史を刻むカトリック女子校・函嶺白百合学園の朝は、箱根の森の小鳥のさえずりとともに、生徒・教職員の、「ごきげんよう」の挨拶から始まる。
教育理念である「一流の国際人におなりなさい」は、社会に奉仕するために、「国や人種を超えて互いの違いを認め合い、愛しあうことの出来る人」、そして、「自己の才能を伸ばす努力を怠らない人」のことを表す。学園の初代校長である山本ムメ先生が、いつも生徒たちに「一流の国際人におなりなさい」と呼びかけていたことから、本校の教育の理想として大切に受け継がれている。
創立当初より少人数制を導入しており、中学校では基礎学力の充実を目指し、英語・数学で習熟度別授業やティームティーチング(TT)を実施。高等学校では、学力の応用と発展を追及した選択授業を実施し、特に高校2・3年では各自の進路に応じて、ごく少人数でも開講される選択授業を行っている。
カトリック学校として、毎日の学校生活の中で祈りの時間は大切にされている。朝礼・昼食前・終礼時には必ず祈りをささげる。中1~高3まで、週1時間の必修として宗教の時間があり、聖書や講話を通して人間としての生き方を考える。
毎週火曜日はEnglish Day、英語を校内で積極的に使う日。朝礼でのお祈りや聖歌歌唱、先生のお話が英語であるほか、職員室での挨拶や授業・ホームルームでの挨拶、お昼のお祈り、終礼のお祈りも英語で行う。中学生は、週1回iPadを活用し、フィリピンの先生とオンライン英会話を行う。とっさの英会話力やコミュニケーション能力が自然に養われる。
高校2・3年生は、選択授業でフランス語を受講することができる。フランス語独自の文法や発音を身につけ、フランス語検定に挑戦する生徒も少なくない。また、中国語圏の地域・人々とのコミュニケーションに役立つ中国語は、中学校3年間に必修科目として学ぶ。
ボランティア活動も盛ん。毎週水曜日、中学1年生~高校3年生の縦割りグループが分担で強羅駅付近と学校周辺の清掃活動を行う。また、生徒会と宗教委員会を中心に、箱根町社会福祉協議会の方々と協力し、10月に小田原駅と箱根湯本駅にて「赤い羽根共同募金」を行う。また、毎月11日は「節約白百合ランチ」と称し、東日本大震災の被災者の方々が受けた苦しみを忘れないため、おにぎりだけの質素なお弁当をいただき、募金を行う。
「Blue Earth Project」とは、環境問題を切り口に、社会をデザインするキャリア教育の一つ。「女子高生の視線で地球環境を守ろう!」というもので、代々木公園で開催された「エコライフ・フェア」、テレビ朝日主催「六本木ヒルズ夏祭り」、「Blue Earth Project 全国活動報告会 2019in神戸」、「神奈川県知事と対話」などに参加した。