シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

出題校にインタビュー!

世田谷学園中学校

2021年07月掲載

世田谷学園中学校の社会におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。

2.自分の言葉で説明できる力を身につけよう

インタビュー2/3

来年度の高校カリキュラム変更を見据えて改革へ

山岸先生 「総合社会」に変えた背景をお話すると、今年の中3が、来年度、高校に上がる時にカリキュラムが変わります。教科横断型になることを見据えて、社会科では大きな決断をしました。入口からそういうものに慣れてもらいたいと考え、入試や授業を変えたのです。それ以前も記述問題を出していましたが、知識の確認という意味合いが強く、採点基準が比較的明確で、答えが一致しやすい問題でした。しかし、将来的に教科横断型のカリキュラムになり、求められる学力を考えた時に、「自分の考えを述べよ」「問題点を指摘した上で、解決策を提示せよ」などという、答えが無数に出てくる問題も必要なのではないか、と考えて入試を変えました。

今回の入試問題を見ていただいても、地理、歴史(大問1、2)はいわゆる中学受験に必要な知識を問う問題ですが、総合問題(大問3)についてはもしかすると習っていない内容かもしれません。それでも、リード文や統計資料から必要なことを読み取り、その場で考えることができれば答えられます。持っている知識や、読解力、判断力を活用して解ける問題を作ったり、総合社会の授業を作ったりすることには時間がかかましたが、我々教員も勉強になりますし、地理・歴史・公民の全方向から伝えたいことが伝わる授業ができていると思います。

世田谷学園中学校 コンピュータルーム

世田谷学園中学校 コンピュータルーム

合格者は普段からニュースや新聞を見ていると感じた

3年間、そのような入試を実施してきて、何らかの手応えを感じていますか。

山岸先生 正答率等を見ると、中には手こずっているな、と感じる問題もありますが、合格者の平均点で判断すれば、概ねこちらの意図通りだと思います。決して難問奇問ではない、ということがわかります。

高瀬先生 今回の問3の記述問題に関しては、合格者と不合格者で分かれたところがありました。他の2問は合格者と不合格者の差はさほど見られなかったのですが、問3に関しては合格者と、受験者全体とでは10%くらい差がつきました。それだけでは判断できませんが、合格者は普段からニュースや新聞を見て、こういう話が知らず知らずのうちに頭の中にあったのではないでしょうか。だから対応できたのではないかと思います。

自分の言葉で説明する習慣づけをしてほしい

小学生にはどのような学習をしてきてほしいですか。

山岸先生 最初の地理、歴史は従来の学習で大丈夫です。教科書の太字に注意して、地理なら場所を、歴史なら因果関係を覚える、ということになると思いますが、大問3に関しては読解力、思考力、表現力が大事になります。それらはすぐに身に付くものではありません。日頃から気になったことを自分の言葉で説明する、見つけた問題に対して自分なりの答えを見つける、そういう習慣を身につけていただくと対応できるのではないかと思います。「リーマンショック」という単語は覚えていても、「それってどういうことなの?」と聞いた時にわかる子は多くありません。本質的なことを自分の言葉で説明できるようになる、問題点について自分だったらこうするのにな、と考える習慣などを身につけることによって、こういう問題にも対応できるのではないかと思います。

思考力、判断力、表現力を育む「総合社会」

総合社会の授業で使うテキストはオリジナルですか。

山岸先生 はい。分担して各教員が作ったものをたたき台に、いろいろな意見を出し合ってオリジナルの教材を作っています。今年が3年目なので、一巡したら、授業をやってみて感じたことを出し合い、ブラッシュアップしていくことになると思います。

世田谷学園中学校 オリジナルテキスト

世田谷学園中学校 オリジナルテキスト

アクティブラーニング型の授業を行うにも基礎知識が欠かせない

おもしろそうですね。

高瀬先生 他にもプレゼンテーションやディベート、発案など、いろいろなことをしています。ただ、いわゆるアクティブラーニング型の授業に寄り過ぎるのは良くないと思っています。基礎知識がないと身勝手な主張になってしまうこともあるので、一斉授業の良い点を生かしながら、バランスよく進めていく、ということを心がけています。

身勝手な主張とは?

高瀬先生 例えばディベートを行うにしても、根底に同レベルの理解や教養がないと、ただ衝突するだけで終わってしまうということです。建設的な議論にはならないと思います。
今回の問題もまさにそれで、リード文がなくてこの問題を出されたら、おそらく答えは自分視点というか、かなり狭い視野での答えになると思います。受験生は首都圏に住んでいる男の子。自分たちは何でも手に入って、高校、大学に行くのは当たり前と思っているかもしれませんが、広い視野で見るといろいろな問題点があることが分かります。リード文を読むと、当事者の立場を踏まえ、客観的に考えた答えが出てくるのではないかと思います。

読解力はトレーニングをすれば身につく

高瀬先生 定期試験でも、一問一答形式の出題だけではありません。知識を問う問題に加えて、資料の読み取りや、100字程度の論述問題を組み込んでいます。その問題は、まさに今回の大問3のような問題です。生徒が初めて目にする資料やデータを示した上で、授業の内容を踏まえて「あなたはどのように考えますか」「どのような政策が適していると思いますか」などという問いを設けています。

文章を読み解く力が高まるオススメの学習方法はありますか。

高瀬先生 私は教員になって8年目になりますが、最初の頃はどうすれば生徒の読解力を上げられるのか、模索していました。そこで、中学の歴史を担当していた時に、授業の内容や文章を100字、200字に要約する、ということを始めました。トレーニングを重ねると、要点をつかんでうまくまとめられるようになります。また、定期試験では200字程度の論述も出し始めました。高校の日本史では1年を通して小論文を書かせました。学内での取り組みなので、本を読んだりネットから情報を収集したりして、それを再構成し、小論文としてまとめました。そして最後は一人ひとり前に出て自分の研究成果を発表しました。「総合社会」の授業でも、「意識的にたくさんの情報を読み取った上で、自分の言葉として使いこなさなければいけない」と話しています。今はプレゼンテーションやディベートをなるべくたくさん取り入れると同時に、単元が終わるごとにその単元で学んだことをまとめて、タブレットを使って提出するということをしています。

世田谷学園中学校 教室

世田谷学園中学校 教室

インタビュー2/3

世田谷学園中学校
世田谷学園中学校学園の理念である“Think&Share”は、お釈迦様の「天上天下唯我独尊」に基づく。「Think」は知的好奇心をもって思索する力を極限まで深め、自己の確立をはかること、「Share」は人の意見に耳を傾け、助け合う心を育てること。仏教の精神に立脚し、生徒に人間として生きることの尊さを自覚させ、国際的視野に立って、積極的に行動できる人間形成を目指している。
1592(文禄元)年創始の曹洞宗吉祥寺の学寮“旃檀林”が前身。1902(明治35)年曹洞宗第一中学林と改称。1947(昭和22)年、世田谷中学校開設。1983年、現校名に改称。積極的な国際交流を推進するとともに、1995(平成8)年には高校募集を停止し(スポーツ推薦を除く)、1998年完全中高一貫体制を固める。2001年に創立100周年を迎えた。駒澤大学は系列校。
都内校のなかでは校地は比較的広く、放光館(理科実験室や講義室、音楽室)や修道館(総合体育館)、三心館(食堂)、グラウンドなど施設も充実。修道館には柔・剣道場、温水プールなどが完備されている。2001年、創立100周年を記念して建設された新校舎には、学園が誇る禅堂や、図書館・コンピュータルームなどもある。
世田谷学園では、2021年度から「本科コース」「理数コース」の2コースを募集している。本科コースは、じっくりと幅広く学び、高校2年次に文理選択をする。理数コースは、中学入学段階から理系学部進学を決めている生徒を対象に、理系プログラムを充実させたコースである。カリキュラムでは中1・2を前期、中3・高1を中期、高2・3を後期と位置づけ、効率的な先取り教育を行っている。本科コースでは、中3から学年ごとに特進クラスが1クラス設けられ、進級時に入れ替えが行われる。夏期集中講習、放課後のステップアップ講習も実施。毎年、難関大学へ多数の合格者を出し、現役合格率も高い。
クラブ活動は盛んで、なかでも空手道部は全国大会で数多くの優勝経験をもつ。硬式野球部も甲子園出場経験がある。活躍は運動部だけにとどまらず、吹奏楽部はアンサンブルコンテストで全国大会の金賞を受賞したこともある。
国際交流にも力を入れ、希望者は中学2年でシンガポール研修、高校1年では全員参加のカナダ研修が行われる。また、希望者は選抜で3ヵ月のニュージーランド派遣留学がある。
12月には有志の生徒たちが約1週間の早朝坐禅を行い、仏教・禅の心にも触れる。