出題校にインタビュー!
世田谷学園中学校
2021年07月掲載
世田谷学園中学校の社会におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。
1.社会問題の解決策を自分事としてとらえて考えることが大切
インタビュー1/3
コロナをきっかけに「格差社会」に着目
この問題の出題意図からお話いただけますか。
高瀬先生 社会科の入試では、地理、歴史、公民の3分野から出題することが多いと思いますが、本学園では3年前から地理(大問1)、歴史(大問2)の基礎問題と、地理、歴史、公民の総合問題(大問3)を出題しています。この総合問題は、私が作成した問題を社会科の教員全体でブラッシュアップして出題しました。
「格差社会」をテーマに選んだ理由は、昨年の新型コロナウイルスの拡大がきっかけでした。職を失って困窮している人がいることや、子どもたちの学びが止まっていることなどが報道されて、日本社会が抱えている格差問題が浮き彫りになりました。休校期間中に本をたくさん読んでいたので他にも出したいテーマはあったのですが、小学生に短い文章で伝えられるテーマが望ましいということもあり、「格差社会」を選びました。
「貧困の悪循環」で問題を作ることにしたのは、寄付がきっかけでした。昨年、緊急事態宣言が出されたとき、本学園はオンライン授業で学習ができましたが、一方で ICTが普及していない学校ではこの期間にほとんど学習対応ができなかったという話も聞きました。そこから教育格差に興味を持って調べていく中で、様々な理由で塾や学校外活動などに参加できない子どもたちがいることを知り、そうした子どもたちの力になれないものかと考え、寄付を始めました。寄付を始めると、寄付をした先から広報誌が送られてきます。そこで「貧困の悪循環」を知り、問題にしたいと考えました。
社会科/高瀬 邦彦先生
リード文は読んでもらうための工夫も
リード文も高瀬先生が書かれたのですか。
高瀬先生 はい。もっとたくさん書きたいことがあったのですが、この問題の後に思考力を問う問題を出していたので、時間配分を考えると長い文章は控えたほうがいいと思いました。また、文章が長すぎるとじっくり読んでもらえない、ということもあるので、凝縮した文章を心がけて1ページに収めました。
入試ではありますが、受験生にとってリード文を読んだり問題を解いたりすることが学びになってほしい、という意図をもって作っています。この問題を通して新しい学びができたのではないかと思います。合否にかかわらず、こんなこともあるんだ、おもしろいな、と楽しみながら入試に臨んでもらいたいですし、試験を受けた時間が有意義になれば非常に嬉しいです。
コロナ禍が仕事の格差や教育の格差を浮き彫りにしたということがわかる文章ですよね。
高瀬先生 格差による困窮は、私立中学を受験するお子さんにはあまり関係のないことだからこそ、知ってほしいと思いました。コロナ禍の当初、困窮している人たちに対して、SNSなどでは自己責任論が出ていました。努力や勉強が足りなかったからそうなっている、という考え方に、本当にそうなのかな、と疑問を持ちました。そして、必ずしもそうではない、ということを示したいと思いました。
世田谷学園中学校 校舎
社会問題の解決策を考えてほしかった
高瀬先生 本来、資本主義は機会の平等です。スタートラインは同じで、出身に関係なく、頑張れば豊かな暮らしができるというのが資本主義の考え方なのですが、実際は格差の固定化が起きています。ある意味、身分的なものができてしまっています。 この問題では自己責任ではなくて、努力したくてもできない、勉強したくてもできない、この悪循環から抜け出したくても抜けられない、自分の力だけではどうしようもない現実があるということを示しています。
今、その悪循環の中にいないから関係ないのか、と言うと、そうではありません。現代社会ではこうした問題に共感し、理解して、一緒に考えることによって豊かな社会をつくることが求められます。貧困の悪循環という構造をなくすことによって皆がより活発な経済活動をできるようになれば自分たちにも返ってきますから、こうした問題の解決策を自分事としてとらえて考えることは、今後、社会の一員になる上ですごく重要なことだと思います。
「育児手当」「学習支援金」という解答が多かった
社会科の問題では、この問題だけでなく全体的に、人のためにあなたはどうしたい?ということを問う問題が多いように思います。そこは意図していますか。
高瀬先生 世の中にはいろいろな人がいます。異なる性格、能力、環境を認め合った上で、お互いに何ができるのかを考える、ということを本校の教育ではもっとも重要視しています。それが社会科の問題に表れていると思います。
本校の教育理念は「Think & Share」(一人ひとりがかけがえのない価値を持っている)です。各クラスには「違いを認め合って、思いやりの心を」という言葉を掲げています。私はこの学園のOBなので、問題を作る時にも多くの人の目に触れることを想定して、そういう考え方を念頭に置いて作っています。
解答は予想どおりでしたか。
高瀬先生 親世代の援助として「育児手当」、もしくは子ども世代への「学習支援金」という解答が多かったです。公共事業など、「雇用を増やす」や「賃金の上昇」という発想は、小学生にはなかなか出てこないのかなと思いました。
世田谷学園中学校 グラウンド
中学校の授業も3年間「総合社会」
大問3の問題作成は担当制ですか。
山岸先生 大問3に関しては、いろいろな視点で問題を作成したいという思いから、基本的に輪番制で行っています。
先生が変わっても、根底にあるものは共通しているのですね。
高瀬先生 それは中学の授業が大きいのではないかと思います。数年前までは、中1で地理、中2で歴史、中3で公民という流れでしたが、広い視野で物事をとらえることを目的に、3つの分野を融合し、中1から中3まで「総合社会」として社会科の授業を行うことにしたのです。もちろん、地理、歴史、公民の学習指導要領で求められている用語や内容は扱いつつも、社会的事象を取り上げて関心を高めています。
普段から大問3のような授業を行っているということですか。
高瀬先生 そうです。社会科の全教員で幾度となく集まって、いつ、どんな内容を扱うか、ということを決めて、意見を出し合いながらおもしろい授業作りを目指しています。ミーティングの中で「日本史の視点ではこうだ」「世界史の視点ではこうだ」という意見が出てきます。私は日本史が専門なのですが、地理、世界史、公民を専門とする先生方の視点に触れる中で改めて気づくことが多く、それを授業で生徒に伝えています。
私自身、社会問題に関しても、興味はあったのですが浅かったんですよね。知ってはいても、実情まで踏み込んでいなかったので、他分野の先生の生の知識に触れることがなければ、おそらくこの問題は作れなかったと思います。踏み込んで考える、という体験を生徒にもしてほしいと思っています。
世田谷学園中学校 修道館
インタビュー1/3