出題校にインタビュー!
麗澤中学校
2021年07月掲載
麗澤中学校の算数におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。
1.小数と分数の違いを知ってもらうのに最適な問題
インタビュー1/3
まずこの問題の作問意図についてお聞かせください。この問題は流れがあり、子どもの思考のプロセスに沿っていて、率直にいいなと思いました。子どももびっくりするような問題ですよね。
室谷先生 以前、生徒たちから「中学生になってからどんどん小数の計算が減っていくけれど、どうしてなのか?」という質問があったんですね。生徒たちからすると中学入試に至る過程でかなり小数の計算はやってきたのに、中学に上がると小数の計算がなぜ減っていくのか自分自身も疑問だったのです。
分数は全ての事象が表しやすいのですが、小数だとどこまでが限界かわからないので、彼らは「1÷3とか無限小数で続いてしまうものがどこまで続いていくのか?」「小数と分数は何が違うんだろう?」といったことについて、そこまで深く考えたことがないんじゃないか、と思ったのが作問のきっかけです。
そこで、この問題ができる・できないではなく、問題を通じて少しでも小数と分数の違いに気づいたり、「同じ計算のはずなのに」違いに目が向いてくれたら楽しいのではないか、と思いました。
麗澤中学校を受験した日能研の生徒の中には、入試後に「この問題よくわかんなかったんだけど・・」と教えてくれた受験生もいたんです。中には「(問3)を解いたあとに(問2)に戻り、はじめは等しいと思っていたけど等しくないに書き換えてしまった」と悔しがる子もいて、(問3)をきっかけに思考に刺激を受けたんだな、と思いました。
室谷先生 おっしゃる通りで、明らかに消しゴムで消して「等しくない」と書き換えている受験生もいました。(問3)で問題を解きながら(問2)を書き換えてしまったんだと思います。(問3)で説明を書きながら、本当は違うのか?等しくないのか?と思ってしまったのでしょう。
出題側としては「等しいんだけど、分数と小数で違いがあるよね」ということを学んでもらえれば、と思うところですね。
数学科/室谷 康生先生
無答が少なかったことは素直にうれしい
(問2)や(問3)の正答率・誤答率はどれくらいでしたでしょう?
室谷先生 (問2)の正答率はかなり高かったと思います。そこに惑わされずにA×CとB×Cは等しいと書いてくれた子が多かったです。(問3)で無答はほぼなかったですね。白紙だった子は全体の1割もいないと思います。9割以上が何かしら書いて、何かしら考えてくれているんだと感じました。採点には時間がかかりましたが、嬉しかったですね。
(問2)まで出来ればいいな、(問3)を白紙で出す子もいるかな、とは思っていましたが、かなり書いてもらっていて、いい意味で期待を裏切られました。「気になること」を聞いている問題なので、「同じはずなのに違う」という答えでも問題ないんです。「1と0.999は違う」「1と0.999は同じだと思う」とか、何かしら書いてくれていたので、採点は楽しかったです。みんなきっちりやってくれていたと思います。図で描いてきた子も何人かいました。
今回採点で迷った答案はありますか?
室谷先生 この子が「何に気になったんだろう?」という視点で答案を見ていました。「ここが気になったのか」というところが読み取れれば○にしていたので、特に迷いは生じなかったです。
答案を何度も戻って考えるうちに、パニックになってしまったり悩んでしまったりした子はいたようですね。そんなに悩まず、気になったことを素直に書いてくれれば良かったのに、とは思いましたね。
最初からこの問題を作ろうと思っていたんですか?
室谷先生 はじめは(問1)と(問3)だけのつもりでいましたが、「そもそも同じ数字をかけることが等しいということなのか?」と疑問に思って後から(問2)を付け足しました。
(問2)が効いていますよね。概念崩しというか流れが上手くできているなと感じました。これは先生方の話し合いで決めたのですか?
室谷先生 そうですね。話し合いの中で周りの先生も「いいんじゃないか」と言ってくれました。
「同じ数をかけても等号は成り立つ」という一次方程式的な観点でやってしまうと、小学生の観点と大きくズレてしまうので、中学や高校で教えていることとは切り離して作らないといけない、と思って作成したのがこの部分です。
最近は、小学生が記号をどう捉えているか?という点も気になっていたので、等号についても何か考えさせたいなと思いました。
ほとんどの子が空白を作らず、問題を見て、読んで、考えて、きちんと取り組んでいるのがこちらとしては一番嬉しかったです。出題した意味があったなと感じます。
麗澤中学校 校舎内
大問を5→4問に絞ることで、最後まで手が回らない状況を解消する
問題全体の構成に関して、麗澤中学校の数学科の方針としてはどうでしたか?
室谷先生 2021年の入試は方針を変えて、大問を1つ無くしました。
過去、入試の場面を見ていて、解いている途中で終了時間を迎えてしまう受験生を多く見てきました。
取り組んでもらいたい問題があるのにもかかわらず空白がある理由は、単に手が回らないからなのかな?と思いまして、大問を絞って重点的に取り組んでもらうように時間配分を作りました。
そうしたら今年の受験生はかなり書いてくれたんです。やはり手が回らなかっただけではないか、と感じましたね。
今後(問1)に関しては、計算ができるかどうかを見るために、丁寧に取り組めば終わらせられる計算問題にしたり、低学年からでも取り組める計算量にしたりすることで、ミスをしないということを重点的にやってもらおう、と思っています。
(問2)で聞きたいことは「その問題を見てどう反応するか?」でした。そこで(問1)で計算問題を入れたのに、(問2)で計算をまた入れると大変なので、計算問題は(問2)においてはそれほど入れないようにしようと考えました。(問3)は図形の問題として立体を出題し、(問4)は考えを書かせる問題、という大問4つ構成として、次年度もこの形を踏襲しながらやっていく予定です。
最近は昔に比べると計算問題において間違いが多い、という話も聞きますが、正答率はどうでしたか?
室谷先生 今年は正答率が高かったです。先に入試に関する資料をお渡ししており、大問が1つ減ったということを知っていた子も多くいたので、例年よりゆっくり取り組めたのではないか、と思います。
最も低かったものでも正答率57%で高かったと思いますし、それ以外のところは80%以上出来ていたと思います。計算ミスは誰もがするものなので、8問あれば満点取るほうが難しいと思うんです。1問くらいのミスはあると思う前提での出題でしたが、やはり今年の正答率は特に良かったと思います。
難しい問題だと間違えても諦めもつきますが、計算ミスは頭を抱えてしまいますしね。本当は解けたはずなのに、というのは勿体ないです。
麗澤中学校 校内
インタビュー1/3