シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

出題校にインタビュー!

西武学園文理中学校

2021年06月掲載

西武学園文理中学校の理科におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。

1.与えられた情報を基に仮説を立てる

インタビュー1/3

「発熱する植物」に興味が湧いて作問

加藤先生 この問題を作問した出発点は、高2の授業準備をする中で、宮崎大学のプレスリリースで「発熱する植物(ソテツ)」を知ったことです。おもしろそうだといろいろ調べるうちに関東圏(秩父にも生息)にもザゼンソウという発熱する植物があると知り、ザゼンソウに俄然興味が湧いてきました。
事前に生物以外の理科教員に問題を解いてもらったところ、「私はこう思う」と嬉々として答えてくれました。受験生もドキドキ、ワクワクしてくれたらうれしいですね。

理数科長/加藤 礼先生

理数科長/加藤 礼先生

小学校4年間の理科学習を追体験する

加藤先生 ザゼンソウが発熱すること、また、においを発することから、私はアロマポットを連想しました。ただしそのにおいは「肉が腐ったような」悪臭です。しかも発熱するのは早春の雪解けの頃。なぜ生物にとって非常に負荷がかかることをするのか、疑問を持ちました。
周囲の雪をとかし、強烈な臭いを発して、他の植物よりもいち早く昆虫を呼び寄せて受粉を完了させようというザゼンソウの生存戦略を知ると、「ザゼンソウすごい!」と感心しました。

このように生き物の特徴の不思議を思考することは、小学生でも可能ではないかと考え、入試問題に取り入れることにしました。受験生が小学3~6年生の各段階で身につけたことを追体験できるようにしたいと思い、「文太君」という架空のキャラクターが、実在するザゼンソウの特徴について調べるという設定にしました。調べることで、知らなかったことを知り、それはなぜかを考える探究の形式を取りました。

「温度」という観点で動物と植物を考える

加藤先生 いきなり未知のザゼンソウを問うわけにはいきません。そこで、「生き物と温度(体温)」という大テーマからアプローチしました。この問題の前に、変温動物が冬眠すること、植物が冬を越して発芽するのに必要な3要素(空気・水・適度な温度)を知識問題で確認。また、身近な植物の受粉方法も聞きました。
虫媒花が昆虫を呼び寄せる具体的な方法については聞いていませんが、知識を引き出せるように工夫したつもりです。小学校では必ず植物を育てます。「花が咲いたら虫が寄ってきて種ができる」過程を観察した経験を、入試問題を通して思い出してくれたらと思いました。

こうして知っている生き物について聞いてウォーミングアップしてから、本題のザゼンソウに入ります。動物と植物を比較することは実はあまりしません。動物と植物を二項対立のように扱わず、温度という観点で見ると、全く別ものではないこと、多様だけれど共通点があることに気づくのではないかと思います。

西武学園文理高等学校 校舎

西武学園文理高等学校 校舎

「効率よい受粉」とはどういうことか

加藤先生 この問題の最終ゴールは、仮説を立てることにあります。では、どのようにして仮説を立てるか。大前提として、生物にとって、「親が子を作る」ことが生存上極めて重要なことを押さえます。植物がうまく受粉できなければ(子を作れない)絶滅の危機に瀕してしまいます。
早春の頃に発熱するとどうなるでしょう。周囲は雪で覆われています。このままでは受粉できないので、ザゼンソウは発熱して雪をとかすことで受粉できるようにします。

「効率がよい」とは短時間にたくさんの仕事ができることを指します。ザゼンソウが開花のとき特有の臭いを発することと、虫媒花の知識を結びつけて「効率よい受粉」とはどういうことか考えます。
発熱するとにおいが拡散して昆虫が呼び寄せられ、多くの昆虫が集まるほど短時間にたくさん受粉できます。すなわち、ザゼンソウの発熱は、直接的には雪をとかし、間接的にはにおいを拡散させて昆虫を呼び寄せて効率よく受粉するために必要だと考えられます。

西武学園文理高等学校 校舎内

西武学園文理高等学校 校舎内

得点の分かれ目は「雪がとけたらどうなるか」

出来具合はいかがでしたか。

加藤先生 受験生は何かしら書こうと頑張ってくれました。総じて予想以上に健闘してくれたように思います。答案を見ると、「雪をとかす」という第一段階はほとんどがクリアしていいましたが、「昆虫を呼び寄せる」ところまでたどり着けた受験生は少数でした。雪がとけたらどうなるか、ザゼンソウがなぜ発熱というユニークな特徴を持っているのか、その意味を考えられたかどうかが得点の分岐点になりました。
また「存在感を主張する」という解答がありましたが、存在をアピールしてどうするか、昆虫を呼び寄せることまでは書かれていませんでした。

頭の中でザゼンソウの情景を映像化する

この問題が満点取れた受験生はどんな力があると思われますか。

加藤先生 キーワードの1つが「映像化」です。「ハエが寄ってくる」と具体的な昆虫を挙げた受験生は、映像化できているなと思いました。わざわざ「肉が腐ったようなにおい」と書いていることに注目できている、必要な情報が読み取れているとわかります。

映像化は与えられた情報に基づいて、頭の中で、あるいは手を動かして、情景を描いていきます。早春の頃はまだ雪が残っている、ザゼンソウは雪で覆われている、発熱すると雪がとける……という過程は、はじめから論理的に文章にするよりも、映像を動かしていく方がイメージしやすいでしょう。
イメージをつかむのに、高校では4コマ漫画を描いたり、グループで紙芝居を作ったりします。「見える化」すると、頭の中だけで処理しきれなかったところが処理できるようになります。「DNAがほどける」と言葉で書くよりも、二重らせんがほどける様子を絵にした方が一目でわかりやすいし、教科書の説明が「こういうことだったのか」と腑に落ちます。

西武学園文理中学校・高等学校 大勇館(体育館)

西武学園文理中学校・高等学校 大勇館(体育館)

インタビュー1/3

西武学園文理中学校
西武学園文理中学校栄養士、臨床検査技師などの専門学校を系列にもつ西武学園が1981(昭和56)年に高等学校を開設。93(平成5)年には満を持して中学校を開設。短期間で東大などの難関大学に合格者を輩出するほどの進学校として成長してきた。2004(平成16)年には小学校も開校。緑あふれる武蔵野の台地、入間川のほとりの恵まれた自然環境のなかに、レンガタイル貼りの校舎が建つ。中学校校舎は「銀河館」、高等学校校舎は「大志館」「希望館」「躍動館」など、建物ごとに名称がついている。多目的ホール、総合学習センター、情報館(I・I・YOU館)、LL教室など施設は充実している。キャンパスのあちこちに彫刻作品が飾られている。「誠実・信頼・奉仕」を校訓とし、中高一貫教育をとおして、全員が目標とする大学に進学することができるような教育を行うとともに、“世界を見つめ、人を想い、未来を創る”ための、6年間のさまざまな出会いやプログラムを通じて、不確実な未来社会をたくましくしなやかに生き抜く人材を育成する。シンボルマークは熊(BEAR)で、これには英語の「耐える」という意味も込められている。
2021年度から、中学1年生のクラス編成が変更となった。将来、東京大学や京都大学、国公立大学医学部などの難関大学への現役進学を希望する生徒を対象としたグローバル選抜クラスと、高度な英語力と知的土台をベースに、グローバルシチズンシップを備えたグローバル人材の育成をめざし、多彩な進路を希望する生徒に合わせた、きめ細かい指導を行う、グローバルクラスの2つのクラスから編成されている。また、朝のSHR前の時間を利用した確認小テスト(S時限)、理科実験の2人1組での指導など、密度の濃い授業で生徒の向学心を引き出している。基礎学力の定着に英検・漢検などを活用している。
高校進学については、2021年度から内部進学者は高校進学時に高校入学生との混成クラス編成がスタート。新たな人間関係の中で切磋琢磨し合える環境を構築し、将来社会で求められる協働力の育成と新たな価値観の発見、創造を可能とするため、高校の全クラスにおいて、高校入学生との混成クラスを編成している。また、内部進学者は高等学校進学時には希望や成績等により「グローバル選抜クラス(普通科)」、「グローバルクラス(普通科)」、「先端サイエンスクラス(理数科)」のいずれかのクラスに進学。そして、混成クラス編成にともない、数学・英語の授業では習熟度別授業を展開。中高一貫生と高校入学生の入学時の学習進度が異なるため、生徒個々に合わせたきめ細かな学習指導を実施している。
令和3年度より中学校、高等学校共に新たなグローバル教育プログラムをスタート。その一つが「GLOBAL COMPETENCE PROGRAM」だ。タブレットパソコンを利用するこの授業は、全て英語で行われる。予習・授業・振り返りのサイクルの中で、コミュニケーション手段としての実用的な語学力、異文化を理解する幅広い知識・教養、多角的な視点に基づいた高度な思考力、相手の考えを受け入れ相互に伝え合う力やホスピタリティの精神、世界をリードするグローバルな行動力の6つのコンピテンスを身につける。
また、中学校3年生でイタリア研修旅行、高校2年生でも海外研修旅行(グローバル選抜クラスとグローバルクラスはオーストラリアまたはマレーシア・シンガポールの選択、先端サイエンスクラスはアメリカ)を実施し、2度の海外研修を通じて、日本とは異なる言語、歴史、習慣などの文化の違いを肌で感じ、地球規模で物事を考えることが出来るような視野を養っている。
その他、中2のグローバルクラスではセブ島語学研修を行い、高1でネイティブスピーカーと寝食を共にするイングリッシュ・サマーキャンプなどメニューが多彩。また、中2では古都鎌倉を散策するほか、奈良・京都研修旅行を実施する。一方中学校のクラブ活動は、他校には少ないクラブ活動も盛んで、文化系では奇術研究部が“南京玉すだれ”などの古典芸能に挑戦するのをはじめ、体育系のライフル射撃部も活発に行われている。また、全国大会出場のスキー部や硬式テニス部、県大会出場の女子バレーボールも目覚ましい活躍をしている。毎週土曜日には、探究授業の一環として行われる、生徒の自主性や創造性を育むアクティブ・ラーニングとして、CA「Creative Activity創造的活動」授業(50分)を開講。中学1年生から3年生が各CAに混在するため、学年の枠を超え、お互いに協力しながら自主的に活動し、課題解決のための資質や能力を育みます。20講座の中から1講座を選択し、必修授業として1年かけて探究活動に取り組んでいる。