シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

今月の額面広告に掲載されている問題はこれだ!

中村中学校

2021年05月掲載

中村中学校【社会】

2021年 中村中学校入試問題より

世界保健機関によると1人1日あたり約50ℓの水が必要とされていて、何時間もかけてその水を得るために水汲(く)みに行く人もたくさんいます。国連児童基金の資料によると水汲みの仕事は主に女性と子どもの仕事となっていて、水汲みの仕事をする約75%の人を占めています。1日に必要とされる水を壺(つぼ)やタンクに入れて何往復もすることは時間がかかるだけではなく、事故の危険性も増す大変な仕事です。重い水を運ぶ時は頭の上に壺を載(の)せて運ぶことも多く、体に対する負担も増しています。そこで写真にあるQドラムという道具が発明されました。このQドラムを使用することで水汲みの仕事の苦労が大きく改善されると期待されていました。
しかし実際にはQドラムは普及(ふきゅう)していません。それは生産にかかる費用が高く、アフリカの人々には購入できる金額ではなくなってしまったことです。デザインは実際に使用する人のことをよく考えてあり、評価も高かったのですが、残念な結果となっています。このように一つの困難を乗り越えるためには多くの試行錯誤(しこうさくご)が必要です。
しかしその試行錯誤をし続けなければ物事は解決しません。そこには多くの人の協力が必要です。私たちも国連のSDGsを自分に関わりのある事としてとらえていく必要があるのです。

下線部の「Qドラム」に関連して、以下の各問いに答えなさい。

(問1)Qドラムを使用すると、水汲みの仕事の大幅な改善が期待されたのはなぜか、Qドラムの使い方を示した写真を参考にして40字以内で答えなさい。

(問2)水汲みの時間が短縮されると発展途上国の女性や子どもにとってそれぞれどのような可能性が広がると考えられるか。60字以内で答えなさい。

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには各中学の「こんなチカラを持った子どもを育てたい」というメッセージが込められています。
では、この中村中学校の社会の入試問題には、どういうメッセージが込められていたのか、解答・解説と、日能研がこの問題を選んだ理由を見てみましょう。(出題意図とインタビューの公開日については更新情報をご確認ください。)

解答と解説

日能研による解答と解説

解答例

(問1)ドラムが転がる力を利用して、たくさんの水を小さい力で運ぶことができるから。

(問2)女性は他の仕事や自分のために使える時間ができる、子どもは学校に通って学ぶことができるようになるなどの可能性が広がる。

解説

(問1)文章と写真の情報から、水の入った壺を頭にのせて運ぶのではなく、地面を転がして運ぶことができるようになると推測できます。

(問2)一日の大半を費やしていた水汲みの時間が減少すれば、その分の空いた時間を何に使えるのかを考えてみます。解答例以外にも、さまざまな可能性が解答としてあり得ます。

日能研がこの問題を選んだ理由

Qドラムは、水汲みの仕事の苦労を改善するために生まれた道具です。本文には、アフリカ諸国の女性や子どもが、何時間もかけて水を汲みに行き、水の入った重い壺を頭の上に乗せてまた帰る、それを時には何往復もする……ということが書かれています。写真を見るとQドラムは車輪のような形をしていて、地面を転がるように動くことが推測できます。ひもかロープのようなものを通すために中央に穴があることもわかります。文章からわかる情報、写真からわかる情報の両方を手がかりに、そのしくみが考えられそうです。さらに水汲みの仕事にかかる時間が減少すれば、その分の空いた時間で女性や子どもに何ができるかも考えていきます。

この問題は、Qドラムについての知識を求めるものではありません。初見の題材や状況に関する問題であっても、しめされた情報をその場で使って取り組めるように工夫がされています。中学受験生はもちろん、日本に住んでいる私たちは、蛇口をひねれば清潔な水が出るのが当たり前の中で生活しています。この問題のような途上国の現状は、「実感をともなって」理解することはなかなか難しいでしょう。しかし、問題を通じてイメージし、考えてみることで、世界の課題を自分に関わりのあることとしてとらえることにつながります。文章の後半に、Qドラムの問題点がしめされ、試行錯誤と多くの人々の協力が必要だと書かれていますが、直接問題を解くためには使わないこの部分にも、学校の先生のメッセージを感じることができます。このような理由から、日能研はこの問題を□〇シリーズに選ぶことにいたしました。