シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

出題校にインタビュー!

相洋中学校

2021年05月掲載

相洋中学校の算数におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。

2.社会問題を身近に感じられる問題を作ることも意識していることの1つ

インタビュー2/3

算数を身近に感じられる問題を出したい

算数の入試で問いたい力とは?

天草先生 入試問題は担当者がそれぞれ問題を持ち寄って精査していくのですが、持ち寄る段階では、小学生の教科書に則って作成するということと、一部に偏ることなく、いろいろな範囲をしっかり聞くということを共有しています。
また、受験生にとって算数が身近に感じられるような問題を作る、ということも大切にしています。なぜなら、問題を解きながらおもしろさを感じたり、新たな発見をしたりすることがあるかもしれない、と思っているからです。

本校では高校でSDGsをテーマにした探究活動を行っています。そこにつなげるという意味も込めて、今年はSDGsを意識して出した問題がいくつかありました。水、プラスチック製のビニール袋、海洋プラスチックゴミなどとつなげながら、算数の問題を解きながら、自分の身の回りのもので問題になっているものを使って考えてみよう、という意図からです。算数の問題はSDGsを絡めにくいのですが、日本のプラスチックゴミ量から日本人一人あたりのプラスチックゴミ量を計算させることによって、自分たちはこんなにゴミを出しているということを体験するなど、算数の問題を通して社会問題を身近に感じられることは大事なことだと思っています。

相洋中学校 校舎

相洋中学校 校舎

自身の経験をベースに数学指導

「数学は何に役立つの?」といがいます。

田島先生 それは永遠のテーマですよね。ひょんなきっかけで「楽しい」と感じた生徒は、数学にどんどんのめりこんでいくので工夫しなければいけません。

天草先生が数学にのめり込んだきっかけは?

天草先生 私は、自分がわかったことを友だちに教えて、友だちに「わかった」と言ってもらった時におもしろさを感じました。だから、生徒にも「わかったら誰かに説明してみよう」「相手が『わかった』って言ってくれたら嬉しいよね」と話しています。

授業の中でそういう場を設けることはありますか。

天草先生 本校ではグループ学習を大事にしています。数学科でも問題を与えて「みんなで話し合ってごらん」という形で授業を進めることがよくあります。2020年度はコロナでグループ学習はあまりできなかったのですが、「自由に動いていいから、解けた人は教えてあげて」という形で行ったことはありました。マグネットで、自分が理解できているかどうかをみんなに示して、「わかっていない人は残って。わかった人は教えてあげて」と言うと、生徒どもたちは主体的に動いて教え合っていました。

田島先生 私も対面せずに、横並びでできるだけ距離を取りながら、わかる生徒が教えてあげるという、対話による学習を行いました。毎回、席を変えて、隣にいる生徒が常に違うという状況を作って行っています。

相洋中学校 学校入口からの景観

相洋中学校 学校入口からの景観

数学がわからない、という生徒には寄り添う

田島先生の経験談も教えてください。

田島先生 私は、自分が「わからない」という壁に何度も直面して来たので、わからない友達がいたら寄り添って、すくってあげたいという思いがあります。生徒には「壁を突破すると見える景色が違うよ」ということを伝えています。

何度も壁に直面したのですか。

田島先生 私は努力で乗り越えて来たので、パッとひらめく生徒がいるとうらやましいなと思います。「すごいね」と褒めますが、一方で、努力している生徒もいるので、みんなで「わかった」という喜びを分かち合い、次に進んでもらうにはどうすればいいかを常に考えています。
現在の中3は、中1次から天草と2人で授業を担当しています。中2からは習熟度別のクラス分け(2クラス)でαクラスを天草が、βクラスを田島が担当しています。私のβクラスには中1次から数学が嫌いな生徒が集まっているので、寄り添ってあげる、共感してあげる、ということを大切に授業を行っています。
数学が苦手な生徒に対して、数学的なアプローチで苦手意識を払拭するのは難しいので、一旦、意識を下げて、身近な事例などを用いて解決できるところまで導いて、その達成感を味わってもらうという方法を取ると、そのやり方でうまくいく生徒が出てきました。その生徒の1年次の数学の平均点は35点でしたが、2年次から習熟度別クラスになり、自分に合うペースで学べる環境になると平均が上がっていき、今年度の学年末試験は73点でした。

すごい成長ですね。

田島先生 普通、35点だったら「数学も嫌だけど、先生も嫌だな」と思ってもおかしくないと思います。中2になっても同じ先生が担当で、最初はそういう印象があったと思いますが、その生徒が毛嫌いを捨てた時に、こんなに変化するんだということを痛感しました。

相洋中学校 地域研究 掲示物

相洋中学校 地域研究 掲示物

寄り添うことにより数学が苦手から得意に変わっていく

田島先生 数学的なアプローチももちろん大事ですが、こちらがその生徒の特性を理解し、現状を受け入れて接していくことにより、徐々に(対人関係の)壁を崩してくれて、授業に向かう姿勢が積極的になっていきました。発言が増えたことにより、周囲の生徒も刺激を受けて、「どうせ、僕はできないし…」という感じだった生徒が小声から始まって、最後はしっかり答えてくれるようになりました。基礎がわかると問題を解くことがおもしろくなるので、授業でやっていないような問題にも自発的に取り組むようになるんですよね。私は教員になって12年目になりますが、生徒とそういうキャッチボールができるようになって、今、すごく手応えを感じています。もちろん、まだまだくすぶっている生徒もいますが、15名程度のクラスなので、「できるんだ」ということに気づいてほしいという一心で、こちらから歩み寄り、一人ひとりに対応し続けています。

インタビュー2/3

相洋中学校
相洋中学校太平洋につながる相模湾と小田原城を眺めることができ、周囲には四季折々の自然があふれる、小田原の小峰と呼ばれる丘で、昭和59年より中高一貫教育に取り組んでいる。校訓である『質実剛健・勤勉努力』のもと、これまで育まれてきた先人たちの歴史・文化を学び、新しい社会の中で他国の人々に関わるときでも、自分たちの歴史・文化に誇りをもって語り、自ら考え・判断して行動することができるコミュニケーション力を養う。
中高一貫コースでは、すべての生徒が主体性を確立するとともに、創造的な思考や積極的な行動力を育成し、自主的に物事に取り組み、学んでいく姿勢を身につけながら、自らの能力を最大限に発揮することを目標にしている。そのため、生徒が常に新鮮な刺激によって感動し、多くの事柄に好奇心を持つことの大切さを自然に学べるように、運動会やPAA21、音楽会をはじめ、年間を通じて学校行事を体系的に配置して実施。
PAA21は、中2の『総合的な学習の時間』の集中講座D.C.(ディスカバリー・キャンプ)研究で行われる。ゲームやアスレチック的なプログラムを通して、速さを競うことなく時間をかけてそのプログラムを達成させるといった集団的問題解決プログラムで、グループの親睦や信頼を深めるとともに協力性を高め、難問解決による達成感も味わう。最近では各メディアでも紹介され、一般的になってきたPAA21であるが、相洋中学校が先駆けだ。
中3の夏期学習合宿は、中学3年生~高校3年生の希望者を対象。各学年とも講義(授業)形式と自習形式で勉強に取り組む合宿です。講義は主要5教科についてそれぞれ、“ハイグレード”“スタンダード”“プライマリー”の3段階で開講され、学年に関係なく自分の実力や目的に合わせて受講できるようなカリキュラムになっている。大学受験を控えた高校3年生でも、予備校などに通わずこの合宿に参加する生徒が多い。普段教わり慣れている先生方から指導してもらえるということが大きな要因で、先生と生徒の距離の近さや、相互の強い信頼感がうかがえる。
勉強面だけではなく、クラブ活動も盛んで、中学生は全員が参加している。空手・柔道・陸上などの強豪運動クラブや、文化系でも吹奏楽・和太鼓など、全国大会レベルで活躍している。