シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

出題校にインタビュー!

相洋中学校

2021年05月掲載

相洋中学校の算数におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。

1.大学入学共通テストでも重視される「統計」分野を身近なことから学ぼう

インタビュー1/3

学習指導要領の変更が出題のきっかけ

この問題の出題意図からお話しいただけますか。

天草先生 今回の問題は、統計分野における処理能力、分析能力を測る問題として出題させていただきました。きっかけは学習指導要領の変更です。中央値、平均値、最頻値は、これまで中学校の数学で扱っていましたが、2020年度より小学校で扱うようになったため取り上げました。

小学校の教科書を見てみると、この内容は最後に載っています。コロナの関係で、もしかすると授業で扱えなかった可能性もあります。それを踏まえて、最初に中央値、平均値、最頻値がどういうものかを紹介し、これらを知らなかった受験生にも「そういうものなんだ」ということを把握した上で、取り組んでもらえるようにしました。そのため、(問1)では具体例を紹介して、中央値、平均値、最頻値がどのように使い分けされるのかを考えてもらい、それをヒントに具体的なデータを使っての計算、そこからの分析、という形で出題させてもらいました。

入試広報委員長/天草 大輔先生

入試広報委員長/天草 大輔先生

(問1)の正答率は約50%、(問3)は約25%

正答率はいかがでしたか。

天草先生 (問1)の正答率は半分よりも少し上ですね。(ア)を選んだのは2人に1人くらいです。(問2)は、中央値、最頻値を知らないということもあって、平均値の正答率が高かったのですが、計算ミスが多かったので、同じくらいの割合で正答していたように思います。若干、最頻値の正答率は低かったと思います。(問3)の正答率は約25%でした。

それは予想通りでしたか。

天草先生 (問1)は半分よりも少し落ちる程度かな、と予想していました。ほぼ意図通りの結果でした。中央値、平均値、最頻値が小学校できちんと扱われるようになれば、少し変わってくるのかなと思います。

どのような誤答が目立ちましたか。

天草先生 (問2)の平均値は大きな数字が入っていたからか、わり算での計算間違いが目につきました。最頻値はデータの中でもっとも多く表れた値なのですが、最大値と間違えている受験生が非常に目立ちました。また、(問2)のデータの単位は「冊」ですよね。それが明記されているため、答えとしては「○冊」となりますが、単位が明記されていなければ「5人」と答えたかったのだろうな、と想像できる解答もありました。

無解答はありましたか。

天草先生 無解答は少なかったです。特に平均値は受験生にとって身近なものなので、無解答はありませんでした。

記述問題は、言葉の意味を再確認してから解こう

(問3)は、小学生にとっては何を書けばいいんだろう、と悩んだ問題だったのではないかと思います。

天草先生 そうですよね。この問題では「平均値は小数だから代表値として適当ではない」という誤答が目立ちました。中央値、最頻値は整数で出ることが多いので、平均値にはあやふやな感じが印象としてあるのかもしれないですね。「数字がバラバラだから」「他の数字と比べてすごく大きな値があるから」などという解答には、言いたいことはわかるので途中点をつけました。

田島先生 最初に言葉の説明があるので、記述問題では、冷静になってもう一度、問題を最初から見てみるということができるといいですよね。45分の中で、この大問だったら10分弱でやらなければいけません。限られた時間の中で、初見の問題への対応力が試される問題になったと思います。

天草先生 こういう問題では、言葉の意味をしっかりと確認してから解こうということは、これから受験する小学生へのアドバイスに付け加えたいと思います。

数学科/田島 和幸先生

数学科/田島 和幸先生

大学入学共通テストでも重視される「統計」分野

入試ですが学べる問題で、おもしろかったです。

天草先生 実は、中1の数学でこの単元を授業でやると盛り上がるのです。小学生はどうかな。入試で体験してもらえたらおもしろいんじゃないかな。そんなことを考えて出題したのがこの問題でした。
例えば「平均24.5cmの上履きをたくさん用意しました。でも売れませんでした。なぜだと思う?」と聞くと、「男子にはきつ過ぎて、女子にはぶかぶかすぎるんだよ」という声があがります。「おこづかいを月に5万円もらっている、お金持ちの子がいると、平均値はすごく上がってしまうよね」という話をすると、生徒たちは、「平均値で考えることは、必ずしも正しいことではない?」という疑問を持ちます。

授業を反映した問題だったのですね。

天草先生 私は本校に赴任して15年になりますが、当初、中央値、平均値、最頻値は教科書に載っていませんでした。学習指導要領が変わってきて、7、8年くらい前から中学校で教えるようになりました。それが2020年から小学校に下りたわけです。
改めて小中高の教科書を見てみると、これからは統計の力が大切になると感じます。中央値、平均値、最頻値などの計算はコンピュータに任せて、我々人間は(中央値、平均値、最頻値の)どれを使うのかを考えることが仕事になるのだろうと思った時に、入試問題を通して考えてもらうのもおもしろいのかなと思い、出題しました。

田島先生 大学入学共通テストでも、今回統計分野のウエイトが大きかったですよね。

天草先生 ここ数年、その傾向は顕著に表れていますよね。

田島先生 さらに小学校に下りたということは、かなり重要性が高いと言えます。

相洋中学校 学校入口

相洋中学校 学校入口

中学数学では統計は比較的身近な分野

数学で統計を扱うことについては、意見が2つに分かれているような気がするのですが…。

天草先生 確かにそうですね。二次方程式、二次関数、三角比など、高校数学の他の分野とつながらないところがあるんですよね。反対意見を唱える人は、「高校で学ぶ数学に別物が入ってきた」「邪道だ」と思うのでしょうね。でも、中学数学の中では生徒が比較的身近に感じやすいところだと思います。

先ほどのおこづかいの話など、身近なことを題材にして学ぶと興味を持ちやすいかもしれませんね。

天草先生 例えば、平均年収で比べることが本当に正しいのかな、と思うんですよね。すごく稼いでいる人が少しいて、普通の人がたくさんいると、平均年収は最頻値よりも上になる。そういう感覚をもってほしいですね。それも、生徒に問うたらどう答えるのかなと思いました。
SDGsも、豊かな国の平均だけで比べていいのかな、ということは、強く思っています。平均値が高ければみんなが豊かなのか、というとそんなことはありません。平均値がすごく高くても、一部の人がすごくお金持ちで、貧困者がたくさんいるのであれば、豊かな国ではありません。そういうことに疑問を持ってもらうためにも、統計はすごく大事なものだと思います。

田島先生 他の各回でも割合を出して比較して、という問題を出しています。それが大学入試でも問われるのであれば、ここからどんどん準備していかなければいけない、と思っています。

相洋中学校 体育館

相洋中学校 体育館

インタビュー1/3

相洋中学校
相洋中学校太平洋につながる相模湾と小田原城を眺めることができ、周囲には四季折々の自然があふれる、小田原の小峰と呼ばれる丘で、昭和59年より中高一貫教育に取り組んでいる。校訓である『質実剛健・勤勉努力』のもと、これまで育まれてきた先人たちの歴史・文化を学び、新しい社会の中で他国の人々に関わるときでも、自分たちの歴史・文化に誇りをもって語り、自ら考え・判断して行動することができるコミュニケーション力を養う。
中高一貫コースでは、すべての生徒が主体性を確立するとともに、創造的な思考や積極的な行動力を育成し、自主的に物事に取り組み、学んでいく姿勢を身につけながら、自らの能力を最大限に発揮することを目標にしている。そのため、生徒が常に新鮮な刺激によって感動し、多くの事柄に好奇心を持つことの大切さを自然に学べるように、運動会やPAA21、音楽会をはじめ、年間を通じて学校行事を体系的に配置して実施。
PAA21は、中2の『総合的な学習の時間』の集中講座D.C.(ディスカバリー・キャンプ)研究で行われる。ゲームやアスレチック的なプログラムを通して、速さを競うことなく時間をかけてそのプログラムを達成させるといった集団的問題解決プログラムで、グループの親睦や信頼を深めるとともに協力性を高め、難問解決による達成感も味わう。最近では各メディアでも紹介され、一般的になってきたPAA21であるが、相洋中学校が先駆けだ。
中3の夏期学習合宿は、中学3年生~高校3年生の希望者を対象。各学年とも講義(授業)形式と自習形式で勉強に取り組む合宿です。講義は主要5教科についてそれぞれ、“ハイグレード”“スタンダード”“プライマリー”の3段階で開講され、学年に関係なく自分の実力や目的に合わせて受講できるようなカリキュラムになっている。大学受験を控えた高校3年生でも、予備校などに通わずこの合宿に参加する生徒が多い。普段教わり慣れている先生方から指導してもらえるということが大きな要因で、先生と生徒の距離の近さや、相互の強い信頼感がうかがえる。
勉強面だけではなく、クラブ活動も盛んで、中学生は全員が参加している。空手・柔道・陸上などの強豪運動クラブや、文化系でも吹奏楽・和太鼓など、全国大会レベルで活躍している。