出題校にインタビュー!
芝浦工業大学附属中学校
2021年04月掲載
芝浦工業大学附属中学校の国語におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。
1.韻文だから測れる言葉の力がある
インタビュー1/3
韻文の出題は芝浦工大附属中の伝統
今井先生 韻文(詩、短歌、俳句)の出題は本校の国語入試の特徴の1つです。韻文だからこそ試すことができる言葉の力があると考えて継続して出題しています。
この問題は100字記述です。「書く力」としては、与えられた文章の内容に沿って書く力、想像力をふくらませて適切な表現でまとめる力を確認しています。
模範的な解答は期待していません。借りてきた言葉ではなく、自らの経験や感性を含めた自分の考えを自分の言葉で表現してもらいたいし、そうした力のあるお子さんに入学してもらいたいと思っています。

国語科/今井 正道先生
物語性のある漱石の俳句から想像を広げる
5つすべて夏目漱石の俳句です。理由は何でしょうか。
今井先生 私は漱石が好きで『漱石全集』を持っています。1つは、手元に漱石の俳句があったというのがあります。小説家だけあって漱石の俳句には物語性が感じられます。そんな漱石の俳句から物語を再現できないか、発想を広げる力を試したらおもしろいのではないかと思いました。
受験生が選んだのは(1)の句が多かったですね。ただし(1)に偏ったわけではなく、まんべんなく選んでいました。どの句に関心が向くか、発想がふくらむかは、経験や感性によって異なります。受験生が取り組みやすいように、5つの句から選べるようにしました。
結構高度な作業を求めているので、どこまでできるだろうと思っていましたが、白紙は少なく、予想よりもよくできていたと思います。いろいろな解釈があって楽しく採点できました。こうした入試問題はできるだけ続けていきたいと思っています。
作者の気持ちを書くには論理性が必要
今井先生 得点の分かれ目は条件に従って書けているかどうかです。5つの条件のうち、特に、(B)「俳句から想像した出来事」、(C)「作者の気持ち」、(D)「作者になりきる」という条件を満たしていることが大事です。
(D)「作者になりきる」条件で目立った減点は、「作者はこういうことを書きたかった」と第三者の視点で説明してしまい、物語になっていなかった解答です。
(C)の「作者の気持ち」が難しいのは論理性が求められるからです。なぜそうした気持ちになったのか、因果関係をつかまなければなりませんね。
今井先生 本文(俳句)を無視しないで本文の内容に沿って書くこと。本文の読み取りができていれば因果関係をつかむことができると思います。
(B)「俳句から想像した出来事」として、受験生は俳句の情景を読み取れていたでしょうか。
今井先生 (1)の句の場合、「夢中になっていた」というように作者の気持ちをとらえていました。蛍狩が「楽しかった」というのもあるし、「つい見とれて小川に落ちてしまった」という気恥ずかしさ、滑稽さをとらえた解答もありました。

芝浦工業大学附属中学校 校舎
言葉の意味を正確にとらえる力で差がついた
今井先生 減点で多かったのは言葉の意味を取り違えた解答です。
(1)の句の「蛍狩」を「蛍を捕まえる」とした受験生が何人かいて、「蛍をやっつける」という極端な解釈もありました。これでは言葉の意味が違いますし、俳句で表現する題材としてもふさわしくありません。「捕まえて鑑賞する」など「蛍の光を楽しむ」のであれば点をあげられます。
(3)の句は「膝と膝とをつき合せ」の意味や状況かわかっておらず、「並んで歩いていたら近づきすぎて脚がぶつかった」とした解答がありました。(4)の句も「棺」を“空き缶”とイメージしたのか、「空き地で棺に菊を投げて遊ぶゲームをした」という話を書いていました。言葉の意味がよくわからなければ別の俳句を選ぶという判断も必要です。
漱石がお粥を食べたのは春ではないけれど……
今井先生 発想をふくらませた解答が多かったのが、(5)の句です。「病気になって、お母さんが作ってくれたお粥が心に染みた」といった話です。
七草粥を連想した受験生が多かったですね。漱石がこの句を詠んだのは胃潰瘍を患い療養していた秋であり、春ではありません。けれど、この問題は俳句から発想を広げてもらうのがねらいです。漱石の事実通りである必要はなく、「春」という言葉から七草粥を連想するのは許容の範囲内です。
七草粥を食べて身も心も「春のように温まった」という春の暖かさをイメージした解釈でもいいわけですね。
今井先生 そうです。一方で、「嫌いな七草粥を食べる時期が来てしまった」と書いた受験生がいました。これでは七草粥は春のイメージにそぐわないし、「七草粥が嫌い」という自分の気持ちを書いており条件に合いません。
(2)の句はどうでしたか。
今井先生 比較的無難な答えが多かったでしょうか。この句は良くも悪くも解釈でき、解答は両方ありました。前向きにとらえるか否定的にとらえるかは性格が出るかもしれません。

芝浦工業大学附属中学校 校歌
巧みな表現は豊富な読書量があればこそ
今井先生 言葉の意味を正確にとらえて、指定した条件を満たしていれば、8割程度は得点できます。残り2割は表現力です。物語として読み手を引き込む表現の巧みさも得点要素の1つです。
小学6年生にとっては難しいですね。
今井先生 表現力の点数はなかなかつきません。説明的な記述があった一方、巧みな表現で物語として読み手を引き込む記述もあり、満点を取った受験生もいました。満点の解答は、比喩や倒置法を使うなどして文章に工夫が見られました。これは意識的にテクニックを使ったというよりも、おそらく読んだことがある物語の中から表現を真似たのではないかと思います。入試でアウトプットできるということは相当な読書量だと思います。
想像と創造が求められる理系こそ韻文で鍛える
この問題は、「想像力」と「創造力」という2つの「そうぞうする力」が試されますね。
今井先生 まさにその点を大事にしています。中学に入学したばかりの生徒にも「想像力」と「創造力」の大切さを話します。
本校の生徒は「ものづくりをしたい」と多くが理系に進学します。イノベーションを起こすには想像力、発想力が必要です。私は「理系こそ韻文」だと思っています。韻文という字数が限られた表現から発想を広げる力は、理系だからこそ鍛えたい力です。

芝浦工業大学附属中学校 ロボット技術室
インタビュー1/3