シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

今月の額面広告に掲載されている問題はこれだ!

芝浦工業大学附属中学校

2021年04月掲載

芝浦工業大学附属中学校【国語】

2021年 芝浦工業大学附属中学校入試問題より

次の俳句を読んで、後の問いに答えなさい。

①蛍狩(ほたるがり)われを小川に落(おと)しけり

②初夢や金も拾は(ワ)ず死にもせず

③行(ゆ)く年や膝(ひざ)と膝とをつき合(あわ)せ

④有(あ)る程(ほど)の菊抛(きくな)※げ入れよ棺(かん)の中(※「抛げ」は「投げ」に置きかえてよい。)

⑤腸(はらわた)に春滴(したた)るや粥(かゆ)の味

(『漱石全集』岩波書店)

(問)①~⑤の俳句から一句を選び、その俳句から自分が想像した物語を書きなさい。ただし、次の条件に従って書くこと。
(A)選んだ俳句の番号を書くこと。
(B)俳句から想像した出来事を書くこと。
(C)俳句の作者の気持ちを書くこと。
(D)俳句の作者になりきって書くこと。
(E)八十字以上、百二十字以内で書くこと。ただし、出だしの一マスは空けないで書くこと。

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには各中学の「こんなチカラを持った子どもを育てたい」というメッセージが込められています。
では、この芝浦工業大学附属中学校の国語の入試問題には、どういうメッセージが込められていたのか、解答・解説と、日能研がこの問題を選んだ理由を見てみましょう。(出題意図とインタビューの公開日については更新情報をご確認ください。)

解答と解説

日能研による解答と解説

解答例

選んだ俳句:⑤
暖かく穏やかな陽気になってきたというのに、風邪をひいてしまうとは、残念なことだ。だが、さきほど持ってきてもらったこのできたての粥は、少し濃いめの味付けで、作ってくれた妻の心遣いを感じる。一口食べると、身も心も温まる。まるでこの陽気のようだ。
(120字)

解説

17音で表現された俳句を、80字~120字の物語にするということは、設問文にもあるとおり想像が重要であり、しかもそれを膨らませていくことが必要になります。
そのために、俳句に書かれている言葉や表現に着目して、様々な疑問を持ちながら自分なりにイメージしていきましょう。

  • 「小川に落しけり」ってどういうこと?
  • 「金も拾はず」ということは良いことはなかった。でも「死にもせず」ということは悪いこともなかった。結局何が言いたいんだろう?
  • 「膝と膝とをつき合せ」って、どこでのこと?他にも人がいる?
  • 「菊」「棺」ってことは、誰かのお葬式なのかな?
  • 「腸に春滴るや」ってどういう意味?

それぞれの俳句に書かれている1つ1つの言葉、表現に着目し、その意味を考えたり連想される情景を思い描いたりすることで、物語を書く上での様々な材料を集めることができます。

また、この問題の前で、それぞれの俳句の季語と季節を選ぶ問題があります。それらの問題に取り組んだことで得られた季節感も、物語を作る上での大事な要素になります。

日能研がこの問題を選んだ理由

この問題で子どもたちが主に取り組むことは、「俳句から自分が想像した物語を、俳句の作者になりきって書く」ということです。俳句という素材や、そこから物語を想像することが身近になっている子どもは、それほど多くないでしょう。

しかし、この問題で取り組むことは現代に通じるものがあります。たとえば、Twitterや Instagram、LINEといったSNS。このSNSでは、文章、写真やイラストを使って自分の見たもの、聞いたことと、それに対する自分の気持ちを表現します。載せる情報の制限がかかっているものもありますが、SNSを使っている人は文字量や写真・イラストの数をしぼりがちです。それは、俳人が、心を動かされた情景を17音の俳句に凝縮させようとすることと重なる部分があるのかもしれません。

SNSはまさに日進月歩。今あるものをすでに古いと感じ、使っていないという人もいるでしょう。しかし、たとえ使うSNSが変わっても思考することは大きく変わりません。自分が見たもの、聞いたもの、感じたこと。それらを言葉や写真、イラストを使って、シャープに、ダイレクトに発信したい――。その気持ちに、生まれた時代や環境は関係ないのでしょう。

この問題に取り組むことを通して、子どもたちは過去の表現に親しみ、現代の様々な表現ツールとのつながりに気づく。そして、未来に思いをはせながら進学していく――。まさに、過去・現在・未来をつなぐ問題であり、未来を生きる子どもたちへの強いメッセージがこめられていると感じました。

以上のことから、日能研ではこの問題を□○シリーズに選ぶことにいたしました。