シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

出題校にインタビュー!

東邦大学付属東邦中学校

2021年03月掲載

東邦大学付属東邦中学校の社会におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。

3.授業の中で蒔かれる興味のタネから発芽し、自分の進路が見えてくる

インタビュー3/3

地理・歴史を土台に、現代社会を考える

授業で工夫されていることはありますか

上野先生 社会科でいうと、覚えていただくための授業ではない、というのは確かです。知識を暗記させ、一問一答に強くなる生徒を育てる授業ではないということですね。
正直に言えば、わかりやりやすい授業は目指していません。 わかりやすい授業というのは、そこで完結してしまうからです。
よく分かるというのは、わかっていることを教えてもらったからじゃないかと思うんですよね。みなさんに言うのは「わからない授業こそ大切にしてほしい」 ということです。わからないことが、その次につながると思うからです。

また社会科に答えはあるのか、と思っているのが正直なところです。社会科は未来に向かって創造していく教科なので、生徒に答えを創り上げてほしいと思って授業をしています。それは三部作です。まずは地理・歴史というベースメントをしっかりと確立していただきます。 その上で、現代社会がどうなっているのかを知っていただきます。世の中は問題だらけです。そこを知ることが非常に大切なので、私は「問題だらけの世の中だ」というところから授業を始めています。「大変申し訳ないが、今はここまでしかできてないけど、昔よりはベターになっている」とここまで言えなければ大人として努力不足ですよね。そして「ここから、よりベターな状態にするには、みなさんにも参加してもらって、改革をする不断の努力が必要だ」と。そういうメッセージを伝えた上で、こちらからあれやこれやと疑問を投げかけています。

私たち社会科としては、正しいことを教えているというつもりはありません。現状をお伝えしているというところに尽きます。だから疑問ばかりが残る授業になるのです。そこで出てくるのが問題解決です。「私にもなんとかできそうだ」「私はこうしてみたい」など、疑問から感じたことを起点に自分なりの解決方法を考えていきます。

図書館内の自習スペース

図書館内の自習スペース

授業を通して世の中の疑問に気づかせたい

上野先生 私は授業の中でこんなことを投げかけてています。「学校からの帰りの道で暗い道を帰る人もいるよね。家でお父さんお母さんは心配されている。自分も暗いと怖い。毎日、暗いな、と思って帰るのではなくて、『それは問題だ』と判断し、どういうふうに解決すればいいかを考えてみて」と。

私は授業の中でそういうことを聞いて、生徒に解決方法を考えてもらっているのです。「道を照らすMy街灯を作る」という東邦らしい解答があれば、「『街灯をつけて』という要望に対する署名を集めて持って来ます」という公民的な解答、極め付きは「街灯をつけることを公約にして、僕が立候補します」という解答まで、さまざまな方法が出てきます。それぞれが自分の専門分野の中で問題を解決していてもらえればかまいません。目指してもらうのは、今の社会の現状に対して疑問を持ってもらうことなので、疑問を残すということを授業の中で心がけているのです。

国際交流室前にある案内ボード

国際交流室前にある案内ボード

勝者をつくるディベートは好まない

上野先生 本校の社会科では、それぞれの意見表明や問題をあぶり出すのにディベートの形式を取ることはありますが、それは従来型の対決的なものとは異なります。エンターテインメントとしては楽しいのですが、すべての問題に白黒つけることが必要と思っていただかなくてもよいからです。むしろ、我々がしたいのは「解決が難しい問題もあり、それに耐える力を身につけてほしい」ということです。生徒が積極的に参加する授業を行うこと大事なことです。そういう意味でいうと、エンターテイメント性のあるアクションは適しているかもしれませんが、良い議論するには、まず我々が伝えなければいけません。その中で生徒がその都度疑問をぶつけてくれるような授業を展開していますので、こちらのやり方を大事にしています。

アクティブラーニングという言葉もありますが、我々はアクティブに活動するのは授業ではなくて、その後なのだろうなととらえています。彼らが社会の中でアクティブに活動できる様に欲するためには、能動的に学んでくれる、その様な授業を考えています。
また、先生の話をよく聞き、ちゃんと実践する生徒が「よい子」の様に誤解されている人が多いですが、そうではありません。先生の話は嘘かもしれないと、半分「うっせえわ」と授業に参加してほしいですね。現代を担う私たちと、新時代をつくる生徒とのディベートが、一番アクティブラーニングだと思います。

岡田先生 国語も同様です。1つの表現形式としてディベートを取り扱うことはありますが、ディベートが上手になることがゴールではありません。それを入口としてさまざまな学びの場面で豊かな表現力を醸成していくことが大切です。

図書館内の蔵書スペース

図書館内の蔵書スペース

「学び続ける」姿勢を持つ子に入って来てほしい

最後に受験生と、その保護者の方にメッセージをお願いします。

岡田先生 本校は建学の理念として「自然・生命・人間」を掲げております。かけがえのない自然と人間を守るための心豊かな人間性と、バランスの取れた知性を養おうとする教育理念がここにあります。少しかみ砕いて言いますと、謙虚に学び続けようということです。その思いを共有できる方々にぜひ本校にご入学いただきたいというのが私たちからのメッセージです。実際に今もそのような方々によって本校での学びが展開されています。その6年間で培ったものを土台にして、大学進学もそうなのですが、10年後、20年後の将来、社会に貢献できる人物となってもらいたい、そういう思いを持って我々教員も毎日生徒と過ごしています。

たしかに東邦の授業は、探求のタネがたくさん蒔かれているという感じがあります。そこで心が動くと、自分の進路につながっていきます。

上野先生 そう。タネをなるべく多く、何回でもパーッと蒔きます。発芽するのは、おそらくそのうちのほんの少しかもしれない。でも、我々が伝えたことで、1本でも発芽してくれれば大成功ですね。たくさんの実をつけてくれることを期待します。我々としては「永遠の命を持ったな」と思う瞬間です。

本館ホール内に掲げられる建学の精神

本館ホール内に掲げられる建学の精神

インタビュー3/3

東邦大学付属東邦中学校
東邦大学付属東邦中学校建学理念である『「自然・生命・人間」の尊重』は、創立者の額田豊・晉兄弟医学博士の自然観・生命観・人間観に基づいている。「感性」で捉えたものを「理性」に高めて理解できたとき出会える学ぶ喜びを重視する「プロセス重視の学習」を象徴する言葉である。
高1までの授業はリベラルアーツ型で幅広く学び、高2から文系と理系に分かれてより深く学ぶ。主要教科以外の時間も充実しており、たとえば「自分探し学習」。中学では各学年ともⅠ~Ⅲ期に分け、Ⅰ期は校外学習(中3は修学旅行)に関するテーマ学習、Ⅱ・Ⅲ期はそれぞれの30の講座を開設し、その中から各自が選択する。高校では、提示されたテーマの中から、あるいは、生徒自らが設定したテーマ、このいずれかを選択してレポートを作成。
また、大学付属校としてもメリットを生かした講座も豊富にある。「学問体系講座」は東邦大などとの連携授業で、中学生が参加できる講座もある。医学部志望者には、外科手術体験セミナーまである。部活動も盛んで、中学校で8割強、高校で7割弱が、学業との両立を図りながら元気に活動している。近年、めざましく躍進している部活も多く、東邦生の学びの場の一つとして心身を鍛えている。こうした部活動や、その他にある行事も、生徒達にとっては「自分探しの場」である。
2020年度はコロナ禍等諸般の事情により、文化系部活動・同好会の各種大会や発表会が中止となったが、学校HPで文化系団体の日頃の活動の成果を発表できるよう、作品や発表が公開されている。生徒たちの日々の取り組みが伝わる内容となっている。