シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

今月の額面広告に掲載されている問題はこれだ!

日出学園中学校

2021年03月掲載

日出学園中学校【算数】

2021年 日出学園中学校入試問題より

ある映画館は座席数が60席であり、営業時間の8:30~21:00の間、映画の上映を40分、客席の清掃を20分とし、次のようなスケジュールで映画を上映しています。

8:30 開館
8:30~9:00 準備
9:00~9:40 上映
9:40~10:00 清掃
10:00~10:40 上映
10:40~11:00 清掃


20:00~20:40 上映
20:40~21:00 清掃
21:00 閉館

しかし来月から、次のような衛生ルールに基づいて営業するよう行政から指示がありました。

衛生ルール
(1)上映の後には必ず毎回消毒をすること
(2)上映の合間には10分間の換気をすること
(3)座席数の半分で入場制限をすること

この映画館では毎回の消毒にかかる時間は10分で、これは清掃の時間とは別に取ることにしました。また、換気の時間はもとからある清掃の時間に含めることにしました。入場制限によって、1回の上映で入れるお客さんの人数は30名になりました。

(問1)来月も開館時刻と1日の上映回数を変えないようにするには、閉館時刻を何時にすればよいですか。ただし、最後の上映の後にも消毒と清掃は行い、それが終わる時間を閉館時刻とします。

(問2)1か月このように営業していましたが、行政のチェックが入った結果、10分間の換気を清掃の時間とは別に取るように指導されてしまいました。また、夜遅くまで営業すると人件費がかさむので、消毒や換気、清掃の時間をルール通り取った上で、営業時間をもとの8:30~21:00に戻すことにしました。このとき1日の上映回数は何回になりますか。

(問3)(問2)の条件のもと営業をすると、衛生ルールがないときと比べて1日のお客さんの数は何人減りますか。ただし、すべての上映で満席になり、同じお客さんが複数回来ても別々に数えることとします。

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには各中学の「こんなチカラを持った子どもを育てたい」というメッセージが込められています。
では、この日出学園中学校の算数の入試問題には、どういうメッセージが込められていたのか、解答・解説と、日能研がこの問題を選んだ理由を見てみましょう。(出題意図とインタビューの公開日については更新情報をご確認ください。)

解答と解説

日能研による解答と解説

解答

(問1)23:00 (問2)9回 (問3)450人

解説

(問1)通常営業時、1回目の上映開始時刻は9:00、2回目の上映開始時刻は10:00、…と、1時間に1回ずつ上映されます。
9:00から閉館時刻の21:00までは12時間あるので、1日の上映回数は12回あることがわかります。
上映開始時刻から次の回の上映開始時刻までの時間は、次の通りです。
【通常営業時】
上映40分 → 清掃20分
60分
【衛生ルールがあるとき】
上映40分 → 清掃20分(このときに10分間の換気をする) → 消毒10分
70分
衛生ルールがあるときは、上映開始時刻から次の回の上映開始時刻までは、通常営業時より7060=10(分)長くなることがわかります。
したがって、1日に12回上映をすると、時間の遅れは合わせて10分×12=120分=2時間になります。ですから、来月からの閉館時刻は、通常の閉館時刻の2時間後、つまり、23:00とわかります。

(問2)行政指導後は次のようになります。
【行政指導後】
上映40分 → 清掃20分 → 換気10分消毒10分 
80分
また、この期間は21:00までしか営業できないので、1回目の上映開始時刻から閉館時刻までの時間は、21時-9時=12時間、つまり、60×12=720(分)です。
720÷80=9より、このときにできる1日の上映回数は9回とわかります。

(問3)通常営業時は、1日の上映回数は12回で、1回あたりの観客数は60人です。
(問2)の条件のもと(行政指導後)では、1日の上映回数は9回で、1回あたりの観客数は30人です。
ですから、1日の観客数は、60×12-30×9=450(人)減ることがわかります。

日能研がこの問題を選んだ理由

新型コロナウイルスによって、客数の上限が設けられたり、営業時間を短縮したりと、様々な業種で営業のしかたに制限がかかりました。その結果、売り上げが落ち、経営に苦労している様子をニュースなどで見た人も多いでしょう。様々な制限によって、経営が苦しくなることは理解できても、それが具体的にどれぐらいの損失を生んでしまっているのかをシミュレーションするとき、算数の力が役に立ちます。

この問題は、そのシミュレーションをすることが素材となっています。具体的な時間や客数など、数値を計算して求めることによって、制限がかかると、通常時と比べてどれほどの差が生まれてしまうのかが実感できます。ものごとを実感する際に、数量が持つ役割の強さが感じ取れます。

この年の受験生は、コロナ禍での受験という、今まで誰も経験したことがない状況に直面しました。様々大変なことがあったとは思いますが、この経験を、自分自身を成長させる糧にした子もいるでしょう。将来、自分が受験した入試問題をもう一度見る機会があったとき、この問題を見ると、当時の記憶や感情が思い出され、自分が受験生としてどのように逆境を乗り越えてきたのかということにまで思いを馳せるかもしれません。

このような理由から、日能研ではこの問題を□○シリーズに選ぶことにいたしました。