シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

出題校にインタビュー!

桜美林中学校

2021年02月掲載

桜美林中学校の理科におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。

3.中学3年間、全員が取り組む理科の自由研究で試行錯誤を体験しよう

インタビュー3/3

理科の自由研究は、各自、異なるテーマに取り組むのですか。

遠藤先生 3年間取り組むので、段階を踏んで研究を深められるように工夫をしています。以前は中1にも複数の実験を提示し、そこから興味のあるものを選んで取り組む、ということをしていましたが、現在はテーマを1つに絞り、各自で条件を考えて実験を行う、というところから始めています。中2は、複数のテーマから興味のあるものを選んで実験を行います。必ずグラフを使って表現するようなテーマ設定を行っています。中3はまさに自由研究です。テーマから自分で考えます。1、2年生で取り組んだ研究テーマを発展させる生徒もいます。

自宅で実験を行うとなると、ある程度限られるのでは?

遠藤先生 購入するほどの量を使わない生徒に対して危険性のない薬品を貸し出したり、100度以上、あるいは0度以下を計測できる温度計や顕微鏡などの器具を貸し出したりしています。そのため古い顕微鏡も捨てずに保管しています。逆に紫外線測定器や塩分チェッカーなど、理科室にないものが必要な場合もあるので、実験に必要なものを貸し出せなくてもできるかどうかは、計画段階で確認しています。今年はコロナで十分な指導ができなかったのと、夏休みも短かったので、実験を行うかどうかは生徒に任せました。資料を読んでまとめるだけでも良しとしました。

桜美林中学校 理科室

桜美林中学校 理科室

実験が失敗に終わる場合もあるのが科学

同じ時期に3学年の研究テーマや手順を確認する作業は大変そうですね。

遠藤先生 そうですね。実験にしても、どこかに行って調べるにしても、ご家庭の理解や協力が欠かせないので、私は安全・安心に実施できるかどうかを第一に確認しています。失敗してもいいという考えなのですが、教員のなかにはきちんとしたものを作らせたい人もいます。指導には多少の違いがありますが、生徒とは「失敗してもしなくても1回の実験で終わらせない」という約束をしています。失敗しても、改善して、また実験してほしいのです。「もし、失敗したまま夏休みが終わってしまったら、そこでまとめて出しなさい」と言うのですが、なんらかの成果を得て終わりたいという生徒が多く、「テーマを変えてもいいですか」と相談される場合もあります。

良い失敗例はありますか。

遠藤先生 失敗例をまとめてくる子はほとんどいないんですよね。

若井先生 昨年度、ドミノの倒れ方を研究した生徒が「手で計測したらうまくいかず、カメラの連写機能を活用して1コマあたりの時間を計算した」と話していました。それは乗り越えた例ですよね。

遠藤先生 そうですね。普通は失敗したところを削ってしまうのです。

自由研究を機に理科好きになる生徒もいる

男女で意識の違いは見られますか。

遠藤先生 意識の違いはあまり感じません。男子だけでなく、女子のなかにも積極的に取り組む生徒はいます。ただ、テーマに違いはありますね。女子には、植物系や料理系のテーマが人気ですが、男子には力学系が人気です。「鰹節はなぜ踊るのか」というテーマはNHKの番組「チコちゃんに叱られる」でも取り上げられていましたが、2、3年前にそれを研究した生徒がいました。

たしかに、熱々のお好み焼きに振りかけると踊りますよね。

遠藤先生 そういう様子を見て、おもしろいな、と思ってほしいんですよね。生徒が取り組む研究には解明されているもの、解明されていないものがあるのですが、どちらを行うにしても中学生にはまず試行錯誤しながら手を動かしてみる、ということをやってもらいたいと思っています。

そういうことから理科に興味をもつ生徒さんもいるということですよね。

遠藤先生 そういう生徒は多いですね。小学校時代は理科が嫌いだったのに、本校に入ってから興味を持って、この自由研究で野菜をテーマに研究したことを機に、薬学部に進んだ卒業生がいます。その子のお母様には大変感謝されました。
大学1年生にも一人、中学の自由研究を活用して総合型選抜入試で東京工業大学に進学した卒業生がいます。その子は生物系の研究でした。外部のコンクールでは受賞に至らなかったのですが、学内の選考会では入賞して「探究心」に載りました。

若井先生 中学時代の経験を大学受験に生かせるのは中高一貫校の良さですよね。

遠藤先生 その生徒は学力レベルが高かったのでセンター試験でも点数をとっていましたが…。出願書類にその研究を提示して、そこからどう高校時代を過ごしたかをきちんと書いたのではないかと思います。

若井先生 2023年度から高校に「探求」が入ってきますから、中学校の自由研究で培った力を、そこで生かせるといいと思います。今後ますます、総合型選抜入試で志望校を突破する生徒が増えていくと思います。

桜美林中学校 生徒作品

桜美林中学校 生徒作品

自分で考えて表現する力を磨いてほしい

小学生に求める力として、理科のなかで共有していることがあれば教えてください。

遠藤先生 「自分で考えて表現する」というところは、作問者の間で共有しているところです。

それは自由研究にもつながっていますか。

遠藤先生 アイデアが良くても、表現力がないと、考えの段取りや論理的に考えを進めていく力がぼやけてしまって研究ができないということもありますし、研究はできても、自分で情報を整理する、相手に伝えるためには表現力も必要なので、そこはつながっていますね。

提出されたレポートなどを見て、学年を重ねるごとに感じる成長や変化などはありますか。

遠藤先生 「考察」に一番力を入れているのですが、中1あたりでは、何をどう書いていいのかわからないんですよね。おそらく小学校では「結果」が「考察」というイメージだと思うのですが、「結果」は「結果」であり、そこから考えられることが「考察」なので、その違いから話しています。「考察に結果を書いてもいいけれど、それに基づいて何がわかったのかをしっかり書きなさい」と、3年間かけて言い続けて、クラスの3分の1程度が書けるようになるという感じです。

ICTの環境が整い、授業でも活用が進む

ICT環境が整うことによって、学びは変わりつつありますか。

遠藤先生 電子黒板が導入されたので、メディア教材を使って、早く授業を進めることができるようになりました。その分、実験の数を増やしたり、授業の内容をふくらませるトークをしたりする時間が増えています。教室で演示実験を行う際も、以前は「前に出てきて~」という感じで行っていましたが、今はカメラを設置して、手元をスクリーンに映すことができるので、生徒を動かさずに済みます。

若井先生 パソコンも、今年度は中1、中2の2学年ですが、来年度から3学年で持つようになります。インターネット環境さえあれば、自分のクロムブックでなくても作業できるので、家で取り組んだ課題をUSBに保存して持って来なくても、学校で開いて見せることができます。

遠藤先生 ですから、課題を出した、出さない、ということもなくなりました。

若井先生 理科にしても追い風ですよね。

遠藤先生 クロムブックでレポートを作れるようなったので、紙を提出する必要がなくなりました。今年は発表もクロムブックから投影して行うことにしました。コロナが収束したら、手書きで清書してもらう形に戻すかどうかは、これから検討することになると思います。

若井先生 大人よりも子どものほうが柔軟に使いこなすので、さらに発展した学習ができると確信しています。

桜美林中学校 マルチメディア室

桜美林中学校 マルチメディア室

インタビュー3/3

桜美林中学校
桜美林中学校キリスト教の伝道師であった清水安三・郁子夫妻が、中国の北京で最初に恵まれない子女のために創立した「崇貞学園」が前身。終戦後日本に戻り、1946(昭和21)年に桜の美しい町田の地に桜美林中学校を創立した。校名はかって清水安三が学んだアメリカ、オハイオ州のオベリン大学から取ったものである。現在は、大学院までの総合学園となり、留学生も多く、多くの施設のあるキャンパスに発展している。
建学の精神は「キリスト教主義に基づいた国際人の育成」であり、他者のこころに共感し、共に生き、文化や意見の異なる人々と心を通わすことができる人格形成を目指す。新しくなったチャペルでの週一回の礼拝と毎朝のクラスでの礼拝を大切にし、一人一人が自分と向き合う時間としている。
自主的に学ぶ姿勢が身につくように、授業を大切にし、中学では学習指導部、高校では進路指導部が6年間一人一人の学習力の向上を計っている。勉強合宿、高1からのコース制、英語、国語、数学の基礎力定着のための年5回のコンテストなどを通して、各人の夢が実現する力を養っている。その結果、最近は難関大学への合格実績が大きく伸びている。併設大内部進学率は例年約10%前後。
中学3年以上の自由選択科目にコリア語、中国語の講座もある。また外国人の教員が副担任やクラブの顧問をし、英語の授業の時だけでなく、日常的に異文化に触れるような環境になっている。中学3年での「オーストラリア研修旅行」は中学での英語教育の仕上げとして全員参加である。また高校2年では「平和学習」として沖縄に行く。姉妹校のあるオーストラリア、中国,韓国をはじめとする色々な国との交流も盛んに行われている。その他にも、林間学校、サマースクール、文化祭、合唱コンクールなど行事も盛んである。
クラブ活動は中学では吹奏楽部、文化部の一部は高校と中学が合同で活動をしていて、年令の違う生徒間の親交もできている。美術部は全国レベル、吹奏楽部も都大会などで活躍。
20歳の「卒業生による成人式」では卒業生が暖かい雰囲気の桜美林に戻り、共に礼拝を持ちオビリンナーとしての絆を深めている。
大きな吹き抜けのある校舎には、元気で明るい生徒の笑い顔が今日も満ちている。