シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

今月の額面広告に掲載されている問題はこれだ!

学習院女子中等科

2021年01月掲載

学習院女子中等科【算数】

2020年 学習院女子中等科入試問題より

同じマンションに住むAさんとBさんは、マンションから1080m離(はな)れた図書館に9:50に到着(とうちゃく)するために、何時何分にマンションを出発すればよいのかそれぞれ考えました。しかし、Aさん、Bさんともに予定とは異なる時刻に図書館に到着してしまいました。

(問)Aさん、Bさんは最初にどこでどのように考え方を間違えてしまったのか、それぞれ説明しなさい。また、正しい出発時刻を答えなさい。ただし、Aさん、Bさんともに歩く速さは時速3.6kmとします。

【Aさんの考え方】
1080mは1.08kmなので、マンションから図書館までの所要時間は、1.08÷3.6=0.3(時間)
0.3時間は30分なので、9:50より30分前の9:20にマンションを出発しました。

【Bさんの考え方】
時速3.6kmを分速に直すと、3.6×60=216より、分速216m
マンションから図書館までの所要時間は、1080÷216=5(分)
よって、9:50より5分前の9:45にマンションを出発しました。

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには各中学の「こんなチカラを持った子どもを育てたい」というメッセージが込められています。
では、この学習院女子中等科の算数の入試問題には、どういうメッセージが込められていたのか、解答・解説と、日能研がこの問題を選んだ理由を見てみましょう。(出題意図とインタビューの公開日については更新情報をご確認ください。)

解答と解説

日能研による解答と解説

解答

【Aさんの間違い】 例 0.3時間を30分としたこと
【Bさんの間違い】 例 時速3.6kmを分速216mとしたこと
【正しい出発時刻】 9時32分

解説

正しい出発時刻を求めるには、「1080mの道のりを時速3.6kmで進むと、何分かかるのか」を求める必要があります。そのときに、「時間=道のり÷速さ」の式を使います。
ただし、使われている単位に気をつけます。
そのまま1080÷3.6と計算してしまうと、正しい値が求められません。
使われている道のりの単位は「m」で、速さの単位は「km/時」なので、道のりの単位を「km」に換算するか、速さの単位を「m/分」に換算するなどの必要があります。

【Aさんの間違い】
Aさんは、道のりの単位を「m」から「km」に換算して、1080m=1.08kmとしています。この単位換算は正しいです。
そして、「マンションから図書館まで進むのにかかる時間」を求める式である「1.08÷3.6=0.3(時間)」も正しいです。
ところが、「0.3時間=30分」としているところに間違いがあります。
正しくは、1時間=60分なので、60×0.3=18より、0.3時間=18分です。
ですから、正しい出発時刻は、9時50分の18分前である9時32分です。

【Bさんの間違い】
Bさんは、速さの単位を「km/時」から「m/分」に換算しようとしています。
「時速3.6km」は「1時間=60分で、3.6km=3600m進む速さ」です。ですから、「時速3.6km」を分速に直すと、3600÷60=60(m/分)となるはずです。
ところが、Bさんは、「時速3.6km」を分速に直すのに、「3.6×60」という式を立ててしまっています。ここがBさんが間違っているところです。
正しい分速は「分速60m」なので、「マンションから図書館まで進むのにかかる時間」は1080÷60=18(分)となり、正しい出発時刻は、9時50分の18分前である9時32分と求められます。

日能研がこの問題を選んだ理由

考えたプロセスに目を向け、間違いから学ぶことがテーマとなっています。問題を解いて、間違えてしまったら、すぐにもう一度やり直そうとするのではなく、まず、自分の答案をながめ、「何をどのように間違えてしまったのか」を探ることが大切です。そして、間違えている部分を見つけたら、「なぜ、そのような間違いをしてしまったのか」「次に間違えないようにするためには何が必要か」を考えます。このように、答えの正誤だけでなく、プロセスに目を向け、自分の間違いから何かを学び取ろうとすることは、ひょっとすると、何事もなく正解するときよりも多くの学びのチャンスがあるのかもしれません。この問題は、そのようなことに気づかせてくれます。Aさん、Bさんという、他者の答案が素材となっていますが、他者の間違いを客観的に探ることによって、「自分もよく似た間違いをしたことがある。」「自分がいつも間違えないようにするために、無意識に気をつけていたことが明確になった。」など、この問題を通して新たに気づくことがあるのではないでしょうか。

この問題は、プロセスに目を向け、間違いから学ぶという学び方についても受験生に問うている気がします。学習院女子中等科の算数の問題は、ほぼすべての問題に、考え方や式を記述する欄が設けられています。ここにも、「答えに至るまでのプロセスに目を向けるために、自分の考えた跡を残すことが、算数・数学の学びにおいて大切である。」というメッセージが、入試問題から伝わってきます。

このような理由から、日能研ではこの問題を□○シリーズに選ぶことにいたしました。