出題校にインタビュー!
渋谷教育学園幕張中学校
2020年11月掲載
渋谷教育学園幕張中学校の社会におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。
3.問いかけ続けることで生徒は考える
インタビュー3/3
国語科で鍛えた読解力が社会科でも生かされる
社会科の入試問題は、文章量が多く読解力も求められるように思います。読解力は入学してからどのように鍛えているのですか。
岩渕先生 読解力は国語科がかなり鍛えてくれています。教員によって教え方は異なりますが、高1の国語科の教員は、社会学がテーマの評論文などをどんどん読み込ませ、とことん考えるトレーニングしています。そうした積み重ねが、高2・高3で花開いていると感じます。
永井先生 授業の一例を紹介しましょう。例えば芥川龍之介の『トロッコ』は多くの中学で取り上げる作品です。トロッコにまつわる主人公の感情の変化を読み取る学習が一般的ですが、私はなぜ大人(26歳)になった主人公が、何の理由もないのに当時(8歳)のことを思い出したのか、現在の主人公はどのような社会で、どのような状況に置かれているのかということについても時間をかけて考えてもらいました。
また、教科書以外のプリント教材も積極的に取り上げて、高校生向けの哲学的なテーマも読むようにしました。
「多読」も読解力の養成に役立っています。中1からノートに読書記録を付けて、いつ、どんな本を読んだのか、あらすじと感想だけでなく内容のポイントを自由にメモして提出し、それに担当教員がコメントを付けます。すると、読書の習慣が身についてきます。
岩渕先生 生徒が「それは国語の授業でやりました」と言ったら、しめたものです。習ったことが他教科で生かされる場面が少しずつ増えてきています。
私は主に世界史を教えていますが、文化史のところで物理・化学分野に話が及ぶと、生徒は物理や化学の授業で習った知識を使って答えてくれます。自分で違う教科の知識をつなげられるし、いろいろなことに興味を持つようになるのは、こちらのねらい通りです。
校長補佐/永井 久昭先生
脱線から学べることは少なくない
岩渕先生 歴史分野は新しい年代になるほど、今現在のニュースに触れて脱線したとき、生徒が「おもしろい」と感じるのに時間がかかるような気がしています。
もちろんシラバスは完遂します。その上で、社会は教科書に書かれていないことがたくさんあるということを、生徒にきちんと伝えたい。教科書通りの“きちんとした”勉強だけが勉強ではない、雑談にも意味があることをわかってもらいながら、学ぶ楽しさを感じてもらいたいと思っています。
永井先生 生徒も「あのとき脱線した話はあのことだったのか」と、次第に雑談の意義がわかってきます。生徒は自分で気づく力を持っていますから、そのうち雑談が「どこかでつながる話」と思って耳を傾けるようになります。
男女差がお互いを成長させてくれる
男女差を感じる場面はありますか。
岩渕先生 男子は中2まで精神的に子どもですが、仲間内が変わると一気に変わります。変わるきっかけとして大きいのは、スポーツフェスティバルなどの学校行事です。一方、女子は友達に加え、家族を含めた社会を見て変わっていきます。精神的な成長は女子の方が先行する傾向にあります。
永井先生 “お姉さん”の女子が近くにいると、男子はそうそう“子ども”ではいられません。高校に上がると男子は精神的にもたくましくなります。そんな男子の成長に刺激されて、女子もがんばるようになります。
中学を開校して35年になりますが、進学校として短期間で急成長できたのは「共学だから」だと思います。性差による発達段階をお互いに補いながら大きく成長していくのではないかと思います。
岩渕先生 不思議なことに、男女比が2対1でうまくバランスが取れます。
永井先生 過去に男女が同数程度だったこともありますが、今の男女比2対1がちょうどいいと感じます。
岩渕先生 社会科の校外学習は、中1が野田へ、中2は鎌倉へ行き、班ごと(1班5~7人)に壁新聞を作成します。その際、女子主導で男子に役割分担を指示している班が多いですね。男子もそれを嫌がらずに自分ができることをやっています。
男子が結構細かいことを調べると、女子は「そこまでやってくれるんだ」と男子に一目を置くようになります。進捗状況など全体に目を配ることができるのは、低学年の段階では女子の方が優れています。同性同士とは違う側面から評価している点はおもしろいですね。
渋谷教育学園幕張中学校/図書館
問い続けると生徒は自分で考えるようになる
貴校の教育目標「自調自考」は有名ですが、「倫理観を正しく育てる」「国際人としての資質を養う」という教育目標について、社会科として意識して取り組んでいることはありますか。
岩渕先生 それに関しては取り組みが難しいと感じています。折に触れて話すのは「時代ごとにいろいろな考え方がある」ということです。その時代は正しかったかもしれないけれど、別の時代なら間違いかもしれません。そのことを踏まえて、「自分たちは何が正しいか」を問うようにしています。
高3の世界史で、第二次世界大戦中のヒトラーのユダヤ人迫害について、『自由からの逃走』などを踏まえつつ生徒に聞くと、非常にいい反応が返ってきます。不足部分はあるものの、時代背景を踏まえて、自分なりに咀嚼して考えを述べられるようになっています。高3を見ると力がついてきたなと感じます。
社会科としてできることは、歴史上の出来事や地理的な事柄、政治・経済の人の動きについて問うしかないと思っています。主権者教育はその最たるものです。「あなたたちがどうやって自分たちの未来を決めますか」と問い続けるしかありません。
やがて自分自身で問えるようになれば、やりたいことを見つけて自ら動くようになります。悩みながらも何かをつかもうとする姿を頼もしく思います。
渋谷教育学園幕張中学校/教育目標「自調自考」
「校長講話」から、自分のあるべき姿を考える
岩渕先生 本校の特長に「校長講話」があります。校長講話でしばしば話題になるのが、フランスの画家ゴーギャンの作品『我々はどこから来たのか? 我々は何者か? 我々はどこへ行くのか?』です。これはまさに社会科の問いではないかと思います。
「どこから来たのか?」は歴史や地理から、「何者か?」は社会の一員として公民から学びます。自調自考して、「どこへ行くのか?」一人ひとりが決める、そんな意図を感じます。
永井先生 将来、厳しい局面にぶつかっても、自分で決めて、自分の人生を切り拓いていけるように、中高6年間を通して生き抜く力を育てていきたいと思っています。
インタビュー3/3