シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

出題校にインタビュー!

渋谷教育学園幕張中学校

2020年11月掲載

渋谷教育学園幕張中学校の社会におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。

1.身の回りの出来事に目を向けよう

インタビュー1/3

多機能トイレが増えている社会の変化に気づく

岩渕先生 最近、多機能トイレが増えています。なぜ増えているのか、考えたことがあるでしょうか。社会科の入試問題で時事問題を多く出題しているのは、このような日常生活で目にする変化に気づいてほしいからです。
利用対象者の具体例は、1つなら知識から挙げることができるでしょう。2つ挙げてもらうことで、受験生が自分の身の回りの出来事にどれだけ意識を向けているか、どのように社会を見ているのかを知ることができます。基礎的なところを押さえた上で、もう一歩踏み込めるかどうかで差がつく問題だと思います。

社会科/岩渕 慎先生

社会科/岩渕 慎先生

多かった解答は「車いすを使用している人」

どんな解答がありましたか。

岩渕先生 多かったのは「車いすを使用している人」です。それは、多機能トイレのピクトグラムに「車いすマーク」がよく使われていて、目にしたことがあるからでしょう。
「車いすを使用している人」に代表される「体が不自由な人」という答えは想像しやすい。ただし、これは習ったことをそのままアウトプットしており、自分の経験が解答に生かされていない、生活とつながっていないのではないかと気になりました。知識と経験がつながるまでには時間がかかるのかなと思いました。
「ベビーカーを押している人」を挙げてくれたらいいなと思っていましたが、予想よりも少なかったですね。自分自身が乗っていた記憶はないでしょうが、お父さんやお母さんと会話する中で、「こんなとき大変だった」という話をしていたかどうか、こちらとしては気になるところです。

見たことと知識をつなげて理解する

この問題の解答から、受験生の生活ぶりを垣間見ることができそうですね。

岩渕先生 例えばお腹が弱い子は、塾に通うなど電車を利用する際、駅のどこにトイレがあるかをチェックしているかなと想像しました。自分の生活体験から何かしらつかんでくれるといいなと思います。
多機能トイレに入ったら、車いすを回転できる広いスペースや、子どもを座らせるためのベビーチェアなどに気づくでしょう。社会科としては、見たことと知識を結びつけて理解してもらいたいところです。SGH指定校(2014~2018年)の取り組みで「食」をテーマにしたとき、私は国内外のトイレ事情について話しました。多機能トイレについても、設置されている機能は何のためか、なぜそのようになっていると思うか、生徒に聞きました。

渋谷教育学園幕張中学校/校舎

渋谷教育学園幕張中学校/校舎

入試問題は学校と受験生との「対話」

得点できないのはどんな解答でしょうか。

岩渕先生 備わっている機能がなくても済む場合、例えば、お腹が弱い人の利用を想定した答えは正解にはできません。
設問文に「このトイレの広さと設置されている主な機能の両面から考えて」とありますから、一般の人が緊急で利用するのに、あの広さは必要ありません。設問文をきちんと読めば出てこないはずの答えを書いていないかも見るようにしています。
入試問題は学校と受験生との「対話」です。こちらが伝えたこと(出題)を、どのように返してくれるか(解答)を見ています。設問の一部だけで判断するのではなく、本文をきちんと読み、内容を踏まえて答えるように心がけましょう。

疑問を持ち、自分で調べて、考え、伝える

岩渕先生 社会科では、自分で調べ、考えて、自分に落とし込んで(消化する、納得する)、自分で導き出したことを他者に伝わるように文章化する、ということを目標の1つにしています。
習ったことをそのまま出そうとするのではなく、習ったことを身の回りのことと結びつけて考えたことを表現してもらいたい。そのためには普段の生活を大切にしてほしいと思います。社会は頭の中にあるのではなく身の回りにあることを実感してほしいですね。
入学した生徒を見ると、興味関心が高い生徒が多いように思います。例えば、鉄道なら「ここの路線が好き」というのではなく、「なぜその地域を走っているのか」といった疑問を持ち、自分で調べ、考えることができるように思います。

渋谷教育学園幕張中学校/創立者 田村哲夫像

渋谷教育学園幕張中学校/創立者 田村哲夫像

インタビュー1/3

渋谷教育学園幕張中学校
渋谷教育学園幕張中学校高校は1983年に創立され、中学は1986年に開校した。中3でニュージーランドホームステイ、高2で中国への修学旅行、シンガポールやベトナムへの研修も実施され、国際人としての資質が養われる。帰国生も数多く在籍し、幅広い教養も身につける環境が整っている。その結果、国内難関大学だけでなく、海外難関大学への進学者も数多い。また、模擬国連国際大会で、毎回、優秀な成績を収めている。2015年には「第4回 科学の甲子園全国大会」で優勝。全米各州の代表チームが集った「サイエンス・オリンピアド2015」に特別参加し、日本初の5位入賞を果たしている。
教育目標である「自調自考」の精神が学校生活全体に行きわたる。日本でいち早くシラバスを導入し、自ら進んで学習する姿勢を形成した。高1・高2では自調自考論文を作成する。スポーツフェスティバルや文化祭などの行事や宿泊研修など、すべてが生徒主体で行われる。自ら学ぶための校内設備も充実しており、たとえば、6部屋の実験室がある理科棟では、大学と同等以上の高度な実験ができる環境が整っている。
勉強面だけではなく、サッカー、水泳、ハンドボール、テニス、空手など強豪クラブがそろうほどにクラブ活動が盛んである。また囲碁将棋は全国レベル。校内に一歩入った瞬間に、生徒の自分で判断し行動する姿を見ることができ、学校の教育目標が学校全体に広がり、そして生徒の一人一人にふかめられていることを感じさせる。