シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

出題校にインタビュー!

麻布中学校

2020年10月掲載

麻布中学校の理科におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。

3.議論好きな生徒が多く授業は活発

インタビュー3/3

教科書通りにならない理由を考察する

山廣先生 実験後はレポートを提出してもらいます。形式は学年や課題によって異なります。書き込み式もあれば、目的から実験方法、実験結果、考察まですべて自分で書くスタイルも中2から取り組んでいます。最も重視するのは考察です。

中2で行う発熱実験は、温めた金属を水に入れて水温の上昇を測り、金属の比熱を求める典型的な実験ですが、教科書通りの答えは出ません。
教科書通りにならなかったのはなぜか。「熱のやり取りはここでしか起こらない」という大前提に気づいてもらいたいのです。他のところで熱のやり取りがあったなら、それはどれくらいの大きさか、自分で考えられるかどうかをレポートでチェックします。こちらが求めている考察ができていないと、「そうなるのはなぜ?」と書いて返します。

実は、教科書の内容をきちんと理解するだけでも大変ですし、結構おもしろい。「きちんと理解する」ために大事なことは、一度疑ってみることです。
「なぜ?」の裏付けは多くの場合、実験データです。演示実験をして、データ処理までやって見せて、現象をグラフ化して示すと生徒も納得しやすい。実験事実はよく使います。

林先生 私は地学を教えています。例えば、地球の内部の構造を説明するときは結論だけでなく「このような観察結果があった」と示して、そこから言えることを一通り挙げてから、「教科書ではこう書かれている」と話します。教科書的な事実と観察結果の考察の積み重ねを分けてとらえてほしいので、意識的に分けて説明しています。

麻布中学校 教室

麻布中学校 教室

「聞きたいことを聞ける」生徒が教員に信頼感

山廣先生 自分の意見をはっきり述べる生徒が多く、特に中2の授業は良くも悪くもにぎやかです。生徒の熱量に負けないようにと思って接しています。

林先生 「うるさい」で終わらせず、よい方向へ持っていくように努めています。

山廣先生 授業中、あちこちから疑問や質問が飛んでくることもあります。私は全部答えます。まるで“格闘技”です。

林先生 私も全部答えますが、「他の人の話も聞こうか」とは言いますね。

山廣先生 高校になると一転して静かになるので、ちょっと寂しいですね。

林先生 中3になると周囲の目を意識し始めます。高1はもっといろいろ聞いてくれていいのにと思います。

山廣先生 中1は入学当初から元気いっぱいです。

林先生 授業では誰よりも先に手を挙げて何でも発言しようとします。

山廣先生 「何でも聞いていいんだ」と思ってくれているのかもしれません。これは推測ですが、小学校では聞きたいことがあっても教員に遠慮していたのかもしれません。すべての疑問に教員が答えられるわけではありませんから。疑問をぶつけてくるということは、ある程度信頼してくれているのだと思います。また、どれくらい答えてくれるのか確かめているのかもしれません。教員も答えに窮することがあります。そのとき教員がどのように対応するか、生徒は見ています。
自分が聞きたいことをクラスメイトに先に聞かれると、「自分も」と思うでしょう。すると、授業は活気が出てきます。

林先生 議論好きな生徒が多いのは、小学校のリーダー格が入学してくるというのもありますね。おとなしい生徒もいますが、そうした生徒を尊重する空気があります。

麻布中学校 図書館

麻布中学校 図書館

社会問題をとらえる上で理科的な視点は重要

中高6年間でどんな理科の力をつけてもらいたいと思っていますか。

林先生 高校で地学を選択した生徒(文系)には、社会問題を語る上での理科的な視点の重要性を伝えたいと思っています。地学の気象と地理の気候は、学習内容にさほど違いはありません。例えば世界の貧困問題には地球の気候というシステムが背景にあり、関連性があります。

山廣先生 地理で扱っている内容は理科の範囲と重なる部分があります。理科だから文系は関係ないというわけではありません。

林先生 この問題も、最後に漁業(地理)の話題に触れています。広い視野で物事をとらえられるようになってほしいと思います。

麻布中学校 体育館

麻布中学校 体育館

インタビュー3/3

麻布中学校
麻布中学校1895年、江原素六によって創立された。明文化された校則もない、自由闊達な校風が伝統。責任のともなう自由が重視され、一人ひとりの多様性や自主性を伸ばす教育が行われている。自発的な研究も盛んで、お互いを高めあう気風がある。OBも、政治家、作家、ジャーナリスト、俳優、経済界など、幅広い分野の第一線で活躍する。
中3国語の「卒業共同論文」、高1社会科の「基礎課程終了論文」など、各教科とも書くこと、表現することが重視される。その集大成が「論集」である。高1・高2では土曜日の2時間、教養総合として約30のテーマから選択する授業がある、OBなど学外の複数の講師が担当する講座もある。カナダ、中国、韓国など、海外学校との国際交流も活発に行われる。
クラブ活動や行事も盛んであり、文化祭、運動会とも大変な盛り上がりを見せる。将棋や囲碁は全国レベル。オセロ部、バックギャモン部、TRPG(テーブル・トーク・ロールプレイング・ゲーム)研究会など、他の学校ではめずらしいユニークな部活動もある。
2015年には、ランニングコースも備えた新体育館が完成した。また、放課後や休み時間に多数の生徒が訪れる図書館は、100周年記念館の2F、3Fにあり、蔵書は8万冊を超える。自発的に学ぶ意欲が育つ、個性的な私立男子校の代表格である。