シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

出題校にインタビュー!

麻布中学校

2020年10月掲載

麻布中学校の理科におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。

1.入試問題を通して科学的思考を学ぶ

インタビュー1/3

入試問題の土俵は小学校の教科書の範囲

林先生 中学入試の生物分野の学習は特に暗記に終始しがちです。どの分野にも当てはまりますが、材料そのものを考える大切さを伝える出題を心がけています。

山廣先生 小学校で習う以上の知識は求めていません。持っている知識を土台に、与えられた情報と結びつけて考える力を試す問題づくりを心がけています。

林先生 特定の受験生が有利になるようなことは避けたいので、土俵はあくまで小学校の検定教科書。このことはかなり意識しています。新出の内容はリード文で説明してフェアになるようにしています。

山廣先生 入試問題の正答率は個別にはお答えできませんが、全体の出来具合はよかったように思います。

林先生 この問題の出来具合が特に悪かったとは聞いていません。

山廣先生 難問というわけではありませんからね。

理科主任/山廣 真之先生

理科主任/山廣 真之先生

ウナギの生態を知らなくてもリード文を読めば解ける

この問題のテーマは「ウナギ」です。最近ウナギが獲れなくなってきて値段が高くなっているというのは、受験生もなんとなく知っていると思いますが、それ以上は知らないでしょう。

山廣先生 ウナギの生態を知らなくても、リード文をしっかり読めば解けると思います。

リード文には「海流に乗って」「川をさかのぼる」というように考えるヒントがちゃんとあります。ヒントと写真を照らし合わせると、「そうか」「なるほど」と気づけると思います。

林先生 文章の内容をきちんと解釈して事実として受け取った上で考える、という基本ができること示してもらいたいですね。

麻布中学校 校舎

麻布中学校 校舎

リード文には伝えたいメッセージがある

山廣先生 問題を解くためだけなら、リード文はもっと削れるかもしれません。でも、問題のための文章にはしたくない。伝えたいこと、知ってほしいことを文章にしているので、どうしても長めになってしまいます。それでも「おもしろい」と思って読めるように作っています。家に帰って再度読んでくれたらうれしいですね。

林先生 長いリード文でも興味を失わずに最後までトライしてほしいですね。入試のように頭をフル回転しているときはメッセージが印象に残りやすい。私は定期試験のリード文に伝えたいメッセージを盛り込むことをしています。

生き物の姿形には意味がある

この問題は文章記述問題です。理科の文章記述問題は、「これを聞かれたらこう答える」といった知識力で対応できる定型的な問題が一般的です。つまり、覚えたことを書いているだけに過ぎません。ところが貴校の問題はそういうわけにはいきません。

山廣先生 この問題では、まず「生き物の姿形には意味がある」というメッセージを受けとめてもらいたい。写真を見ると、ウナギは生まれたばかりと稚魚では形が違います。平たい形、細長い形にはそれぞれどんな意味(利点)があるのかに注目して再度リード文を読み返すと、見えてくるものがあると思います。

リード文の「海流に乗って西に移動」することから、レプトセファルスは「海の流れに乗りやすい」と解釈できます。それには平たい形が有利です。リード文から読み取った情報と写真を結びつけて考えて表現することが求められます。

山廣先生 「形」という科学的な視点を提示しているので、文章記述においても科学的視点で書くことが大前提です。麻布の入試問題は最初から最後まで、科学的視点を意識できているかどうかを重視して出題しています。

例えば小学4年生に植物の育ち方を聞くと、「元気よく育つ」と答えます。「背が高くなる」「緑色が濃くなる」といった理科的な表現がまだできません。理科の世界に踏み込んだ言葉を使えるようになると、客観性のある、他者にも伝わりやすい表現ができるようになりますね。

麻布中学校 図書館

麻布中学校 図書館

ニュースで見聞きしただけでわかったつもりにならない

山廣先生 ウナギについては、最近になって産卵場所など少しずつわかってきました。世の中で話題になっているテーマの方が問題に入り込みやすいと思います。とはいえ、常時ニュースをチェックしてもらいたいわけではありません。興味・関心は持ってほしいですが、入試のためにニュースをチェックする、暗記するようなことは望んでいません。

林先生 ウナギの漁獲量が減って値上がりしているニュースは見聞きしているでしょう。それだけの情報で「わかったつもり」になると、「漁獲量を減らそう」で終わってしまう。これでは思考停止に陥ります。
そうならないように、資源としてのウナギと、魚類としてのウナギとの“行間”を埋めてほしいですね。問題では生物の不思議さにも触れているので、おもしろがって解いてくれたらと思います。

山廣先生 入試問題を通して、研究者の考え方、科学的思考を学ぶことができるのではないかと思います。

林先生 入試では実際に実験・観察することはできません。リード文を読んで観察したつもりで取り組んでもらいたいと思います。

インタビュー1/3

麻布中学校
麻布中学校1895年、江原素六によって創立された。明文化された校則もない、自由闊達な校風が伝統。責任のともなう自由が重視され、一人ひとりの多様性や自主性を伸ばす教育が行われている。自発的な研究も盛んで、お互いを高めあう気風がある。OBも、政治家、作家、ジャーナリスト、俳優、経済界など、幅広い分野の第一線で活躍する。
中3国語の「卒業共同論文」、高1社会科の「基礎課程終了論文」など、各教科とも書くこと、表現することが重視される。その集大成が「論集」である。高1・高2では土曜日の2時間、教養総合として約30のテーマから選択する授業がある、OBなど学外の複数の講師が担当する講座もある。カナダ、中国、韓国など、海外学校との国際交流も活発に行われる。
クラブ活動や行事も盛んであり、文化祭、運動会とも大変な盛り上がりを見せる。将棋や囲碁は全国レベル。オセロ部、バックギャモン部、TRPG(テーブル・トーク・ロールプレイング・ゲーム)研究会など、他の学校ではめずらしいユニークな部活動もある。
2015年には、ランニングコースも備えた新体育館が完成した。また、放課後や休み時間に多数の生徒が訪れる図書館は、100周年記念館の2F、3Fにあり、蔵書は8万冊を超える。自発的に学ぶ意欲が育つ、個性的な私立男子校の代表格である。