シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

出題校にインタビュー!

青山学院横浜英和中学校

2020年09月掲載

青山学院横浜英和中学校の社会におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。

1.身近なものや話題に興味関心をもって親子で話す機会を増やそう。

インタビュー1/3

リード文を読み解く力が鍵になる問題

出題意図からお話いただけますか。

恩田先生 日常的なことに興味をもって、「なぜなんだろう」と考えてほしい、というのが社会科の願いです。この問題の意図は、意味を考えることが習慣づいているかを問うことにありました。今回はリード文全体が自販機の話でした。リード文をしっかり読んで内容を理解できれば解ける問題だったと思います。論述に関しては 、他者の立場に立って考えることを大切にしてほしい、というメッセージを込めました。

社会科では知識だけでなく、その先に想像力を働かせる、ということがとても大切です。そういう意味では、知識にプラスされる部分を受験生はよく考えてくれていて、正答率は全体的によかったです。とろみにどのような効果があるのか、わからなかったとしても、飲み物の自販機についているのだから何か理由があるはずだ。きっと飲食しやすくなるのだろう、と想像して、解答を導き出した受験生もいたと思います。表現のしかたは色々ありますが、内容は十分に汲み取れるものが多かった印象です。

生徒会部部長 社会科/恩田 有紀子先生

生徒会部部長 社会科/恩田 有紀子先生

いろいろな人の立場に立って考えることが重要

受験生にとって難しかったのはどのようなところでしたか。

恩田先生 病院と老人ホームでとろみが必要な理由を、整合性が取れるように表現することが難しかったようです。病院や老人ホームのどちらにも必要とされている、ということを考えるのには時間が必要だったと思います。

採点の基準は決めていましたか。

恩田先生 基準は決めていました。答えも見据えて出題していますが、採点時に受験生の目線に気づかされることが多かったです。

2つの地図記号のうち、解答はどちら寄りのものが多かったですか。

恩田先生 病院よりも老人ホームの方がイメージがしやすかったようです。年をとると飲み込みにくくなる、ということをよく認識していて、「飲み込みにくい時に少しでも飲み込みやすくする」など、出題意図を汲んだ解答が目立ちました。
飲み手側の立場に立った解答に加え、「家族の手間が省ける」という趣旨の解答も少しありました。おそらくご家族にそういう経験をされた方がいらっしゃるのでしょう。

青山学院横浜英和中学校 校内

青山学院横浜英和中学校 校内

普段から身近なことに意識を向けよう

大人は「誤嚥性肺炎を防ぐ」などという表現をしてしまいがちですが、子どもの解答にはその言葉はありましたか。

恩田先生 (誤嚥性肺炎は)福祉の現場ではとても大きなことだと思います。少しでもリスクを減らすという意味での設置ではあると思いますが、当然と言えば当然ですが「誤嚥性肺炎」という単語はほぼ出ないです。

身近にある当たり前のものをテーマに大問を作問をする、というのは珍しいと思いました。

恩田先生 社会科では、身近なことにどれだけ意識を向けられるかを大事にしています。この問題を作ったのは私ではないので想像になりますが、病院や老人ホームの自動販売機は災害時に電力供給源になる、飲料を無料で出せる、ということが、震災以降、話題になりました。さらに「とろみボタン」がついている、特徴のある自販機であるということが念頭にあっての出題ではないかと思います。

入試問題でニュースを取り上げることが多いのですが、単なる話題性だけではありません。ニュースには遠い世界のこともあれば、身近なこともあります。身近なニュースを題材に、家族の方と話す機会を増やしてほしいという意図があります。小6が大人向けのニュースを見て、すべてを理解することは難しいと思いますので、中学受験をきっかけに親子でニュースを見たり聞いたりして、自分の意見を言える場が家の中に生まれると嬉しいです。

ニュースを話題に親子で話す機会をもとう

恩田先生 中学生にも同じことを伝えています。保護者の方が忙しく、ニュースを話題に話す機会はなかなかないかもしれませんが、時々生徒のほうから「このニュースについて話した」という報告を受けると嬉しくなります。保護者の方がどう思ったのか。それを受けて自分はどう思ったのか。そういうところから話がふくらむと、保護者の方からプラスアルファの話を引き出すことができるのではないかと思います。

そういうことが苦手な親もいると思います。その場合はどうすればいいですか。

恩田先生 私にも子どもがいます。子どもが疑問に思うことの中には、答えられるかな、と思うような疑問もありますが、わからなければ「わからない」と言えばいいと思います。大人が「わからない」と言った時に、その子がどうするかも1つの力だと思います。自分で調べるのか、「一緒に調べて」とお願いするのか、「じゃあ、いい」と投げ出してしまうのか、そこをよく見て、投げ出してしまったときには、保護者の方から「一緒に調べてみようか」と声をかけてあげてください。保護者の方が一緒にやってくれると嬉しいと思います。「先生に聞いてみて。わかったら私にも教えて」という対処の仕方でもいいと思います。少し時間ができるので、その間に調べることもできます。

青山学院横浜英和中学校 ハインツ庭園

青山学院横浜英和中学校 ハインツ庭園

リード文を最後まで読んでほしい

恩田先生 私たちは、入試本番も学習の機会にしてほしいという思いをもって作問しています。この問題のリード文は長かったので、どのくらいの受験生が最後まで読んでくれたかなと、気になっていました。家に帰ってからでも読み返して、新たな知識を吸収したり、気づきが生まれたりしてくれれば、合否に関係なく、本校で入試の数十分を過ごしてもらった価値を感じてもらえるのではないかと思います。

受験生はリード文を読んでいない、という印象ですか。

恩田先生 この問題の前の問題はリード文の中に答えがありました。該当する段落を読んで意味を理解していれば、たばこなのか、食べ物なのか、飲料なのかが、わかるのです。その問題の出来が悪かったわけではありませんが、正答率が100%でもおかしくない問題だったので、読み飛ばしてしまった方もいるかなと感じました。

比較すること、相違点を見つけることは社会科を学ぶ上で必要な技能

共通点に目を向ける、ということも大事にされていることですか。

恩田先生 そうですね。以前、森林を題材にした大問を出題されました。リード文の中の「古代から環境破壊が始まっていた」という話は、おそらく昔は森ばかりだと思っている受験生にとって衝撃だったと思います。竪穴住居は柱が腐りやすく、たくさんの木を定期的に伐採して、柱を入れ替える必要があったのです。その大問の論述では、武器と大仏、両極にあるような物でもつくる際には燃料として同じく木材が必要である、ということを考えてほしいという思いが込められています。

比較をすることや、相違点を見つけることは、社会科を学ぶ上で必要な技能だと思っています。実は、大人が思っている以上に子どもたちはこういう問題が得意です。今回の問題も、とろみと病院や老人ホームを結びつけて考えることは少し難しいかもしれない、と思っていましたが、当たり前のこととしてできていました。それはおそらく勉強によって身につくばかりではないと思います。学生生活がそういうことの連続なので、自然と身につけているのだと思います。本校の生徒を見ていても、得意・不得意、あるいは友だちとの関係や授業を受けている中で、大人が考えている以上に共通点を探して何かをしたり、違いを実感して落ち込んだり、嬉しくなったりする、ということを繰り返して生活しています。なのでそういう力は日常において育っていると思います。

青山学院横浜英和中学校 校内

青山学院横浜英和中学校 校内

インタビュー1/3

青山学院横浜英和中学校
青山学院横浜英和中学校横浜英和学院は、1880年(明治13年)、アメリカ人宣教師H・Gブリテンによって、横浜山手居留地に創立された。1916年に現在の蒔田の丘へ移転し、100年後の2016年4月より青山学院大学系属校となり、2018年度からは共学校となった。
「キリスト教に基づく人格教育を行う」という建学のもと、今後の社会を、希望と喜びをもって他者と社会に貢献していく人格の育成を、教育方針としている。「神を畏れる」「自立する」「隣人と共に生きる」の3つの教育目標は、キリスト教教育、キャリア教育、グローバル教育として、6年間の教育プログラムの中で具体的に実践されている。
神の前に自立した自己として立つこと。お互いを大切にし、認め合いながら相互理解を深めること。この2つのことを、今後彼らが活躍する社会やコミュニティーで生きていくための準備教育として大切にしており、「自分らしさ」、「私らしさ」を探求し、神から与えられている賜物を用いて、謙虚に自分の使命に生きる人生を志向していく人を育てることを目指す。
青山学院大学との系属校化により、大学出張講義や学問入門講座への出席、渋谷キャンパス、相模原キャンパス訪問、キャリアガイダンスの実施や青山学院大学への系属校推薦など、高大連携事業も年々より確かなものとなっている。
毎日の授業は、プロジェクターとスクリーンで展開。生徒は1人1台chromebookをもち、学びに活かす。講義形式の授業だけではなく、生徒自らが考えてつくる授業を展開しており、総合学習や海外研修報告、英語のレシテーションや各教科の研究発表などchromebookを用いて発表する機会が多くある。
給食があることも大きな特徴。栄養のバランスを考えた温かな食事を、クラスでみんなと一緒にとる。生徒も教職員も同じメニューで、クリスマスのケーキなどの特別メニューが出ることもある。幼稚園、小学校、中学校、高校、職員、1700食以上を管理栄養士と調理員計16名で作っている。