シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

出題校にインタビュー!

森村学園中等部

2020年09月掲載

森村学園中等部の算数におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。

3.主体的に自分で学び進む

インタビュー3/3

言語技術で問題を解くプロセスに目が向くようになった

貴校の教育の特徴の1つに「言語技術」があります。これは、数学の学習にどのように生かされているのでしょうか。

林先生 言語技術は、母語による読む・書く・聞く・話すの4技能に加え、表現力などの「言語の運用力」を伸ばします。中1~中3を対象に、週1時間行っています。
数学の第1式、第2式、第3式…というのは、すべて因果関係でつながっていきます。一方、言語技術は「○○だから××」という因果関係を読み取ったり、文章を構築したりします。文章の組み立ても数式の組み立ても、構造的には同じです。そのことを生徒に話すと結構納得してくれます。

文章を書くときは、自分の考え(主張)に、「それはなぜかというと~」と必ず理由を付けます。式の構成はこれと同様です。数学の場合、証明のように、始めに結論、次に理由というパターンが結構あります。

河合先生 言語技術は「型」を使って説明しますが、数学の合同や相似の証明にも「型」があります。
導入前は「答えが出ればいい」「正解できるとうれしい」と結果に目が行く生徒が多かったのですが、導入後はプロセスに目を向けるようになり、言語技術を受け入れてくれていると感じます。「面倒だ」という声を聞かないのは、数学以外の教科でも取り組む中で「どれでも当てはまることなんだ」と納得感があるからでしょう。

森村学園 生徒作品

森村学園 生徒作品

問題集の提出&チェックで理解度を確認

授業の様子を教えてください。

溝手先生 中1の1学期は負の数、文字式の計算演習が中心です。カッコの処理などが正確にできるように徹底させます。
中1は、教科書の解説をした後、問題集で演習に取り組みます。予定のところまで授業内に終われば宿題はなし、終わらなかったら宿題になります。どんどん自分で進める生徒はプラスαの問題を与えます。
以前は小テストを行っていましたが、あまり効果が見られませんでした。早く解けた生徒は時間をもてあましていました。今は教科書を全員が消化した上で、時間と範囲を決めて自分のペースで問題集に取り組んでいます。数学が苦手な生徒にも目を配ることができます。

林先生 昨年度の高2の文系クラスでは「いきなり定期試験を受けるのは自信がない」「短い期間で習ったことを確認したい」という生徒の要望があり、小テストを実施しました。生徒に合わせて対応しています。

森村学園 校舎内

森村学園 校舎内

自分でふり返ることで、学力が伸びる

池田先生 問題集は宿題の都度、集めてチェックすると、生徒の理解度や取り組み方を細かく見ることができます。
生徒は単に○×を付けるだけでなく、間違えたところの振り返りを自分でします。「一度と解いたら終わり」ではありません。自己採点をして、間違えたら解き直したり、ミスを見つけたり、対策を考えたりするのが本来の勉強です。

林先生 入学前の春休みの課題から、間違いを自分で振り返るように指示しています。ですから中1でも自分で振り返りができる生徒はいます。問題集の振り返りができれば、テストのときも同様にできますし、教科書を読んで先の単元を予習したり、問題集もどんどん解き進んだり自分で学び進める生徒は、最終的に伸びます。
小学校のときは面積図が苦手だったけれど、自学自習の習慣がついて、方程式は得意な生徒もいます。それが学力の伸びるきっかけになります。

森村学園 部活動

森村学園 部活動

高校生は生徒主体の教え合いで授業が回る

河合先生 高校ではテストの結果により習熟度別に分割・少人数とし、質問しやすくしています。

林先生 本校では中2までに中学の全課程を修了し、通常の高1の課程を、中3から高1の15カ月くらいかけて取り組みます。時間をかけることで苦手な生徒も授業についていくことができていると思います。
途中式を見直したり、考え方を表現したりできる生徒が増えてくると、互いに教え合いができるようになります。そうなると、教員の説明が5分、残り45分を生徒の時間として授業を進行できることもあります。

「2in1PC」を1人1台に配布開始

河合先生 昨秋から、タブレット端末としてもノートパソコンとしても使えるパソコン「2in1PC」を導入しました。学年80台の共用から始めて、今年度は、まず4月に高1全員に、9月には中1から中3全員に2in1PCを1人1台配布しました。数学におけるICTの活用はこれからで、試行錯誤しているところです。

池田先生 画面上だけの作業では思考が途切れるような気がします。PCを活用する一方、手を動かすことも大事にしたい。私が教えている高1は、課題は紙に書いて、それを撮った画像を提出する形式を取っています。

森村学園 2in1PC授業風景

森村学園 2in1PC授業風景

「平均」の背景にある状況をとらえられるようになろう

中高6年間でどんな数学の力を身につけてもらいたいと思っていますか。

池田先生 数学の学習は「考える訓練」です。訓練を積むことで社会のさまざまなデータを考えられるようになってもらいたいですね。例えば、新型コロナウイルス感染症のニュースでいろいろなデータが示されますが、それが意味するところをしっかり考えて、状況を把握できるようになるといいなと思います。

溝手先生 生きる手段の一つとして数学を学び、学んだことを実生活に生かしてもらえればと思います。数学を通して考える習慣をつける、その手助けができればと思っています。

林先生 社会では「平均いくら」という数値がよく使われていますが、平均が“多数派”のような錯覚に陥りやすい。分布の山は1つと思いがちですが、2つあるかもしれません。背景を見誤ると適切な対策が取れません。社会人になったとき、学んできたあらゆることを駆使して、データの背景にある状況を正確にとらえられるようであってほしいですね。

河合先生 数学が得意で経済学部に進学した生徒がいます。彼は学年集会で「日本の景気をよくしてみんなの生活を豊かにしたい。そのために経済学部に進学します」と自分の目標を表明してくれました。目的意識を持ち、そのための進路を考え選択した姿を頼もしく感じました。数学の学びが少しでも生徒の将来に役立てばと思っています。

インタビュー3/3

森村学園中等部
森村学園中等部大実業家であり、立志伝中の人物でもある森村市左衛門は、日本を担う人材育成の必要性を痛感。「独立自営」を建学の精神として掲げ、「社会の役に立つ人をつくる学校に」と1910(明治43)年、港区高輪に自宅の庭を開放し幼稚園と小学校を創立。幾多の星霜を経て78(昭和53)年現在地へ。
総面積8万m2の広大な緑地に、幼稚園・初・中・高等部がグランドを囲むように建つ。2010年に現在の校舎が完成。パソコン教室やホールなど、最先端の設備で一貫教育をより充実させる。図書館の蔵書は5万5千冊、自習室のパソコンでは予備校のサテライト授業が受講できる。
校訓は創立者自身が実業家人生のなかで学んだ「正直・親切・勤勉」。人間を磨き、学力や体力、情操を養いながら、真の国際人を目指して、幼稚園から高等部まで、それぞれの年齢に応じた教育を展開している。明るく品の良い家族的な雰囲気が情操教育の基盤。家庭とも連携を保ちながら、一人ひとりを把握した教師が、進路・進学指導にあたっている。
2019年度から導入した「未来志向型教育」は、「言語技術」を基礎に、「外国語(英語)教育」「課題解決(PBL)型授業」「ICT環境」の3要素から成り立つ独自の教育システム。予測不可能な未来社会をたくましく生き抜くために、教養ある自己表現を獲得し、自国はもとより国際社会に貢献する人財の育成を目指す。
「言語技術(Language Arts)」とは、世界標準の母語教育で、その特徴は、言語を用いる様々な手法を生徒の参加と作文によって指導する点である。それは、対話・物語・説明・論証に分類され、「問答ゲーム」を通して型に則って発信する方法を指導した後、大量の質問を浴びさせて対象を分析的に捉え、自ら発問する能力を獲得させている。これを基盤に全ての授業がアクティブラーニング(思考し発信する形式)で行われる。森村学園の言語技術は、「つくば言語技術教育研究所」と提携している。
「外国語(英語)教育」の特徴は、6年間の英語学習を2年ずつ段階的にアプローチを発展させながら「聞く・話す・読む・書く」の4技能の習得を目指すことにある。中1・中2では、英語を使えるようになることを目指す「コミュニカティブアプローチ」、中3・高1からは、より論理的に英語で考え、意見を述べる力を育む「ロジカルアプローチ」、高2・高3では、批判的・分析的に物事を捉え、自らの考えを発信でき、創造的で知的な英語の獲得を目指す「クリティカル・アナリティカルアプローチ」が指導の柱になる。2020年度の中1から「ルート別授業」が始まった。
入学前の英語学習歴に配慮し、海外製テキストを用いて「オールイイングリッシュ」で学ぶルートと、ニュートレジャーを用いて基礎から学習するルートを選択できる。さらに英語に磨きをかけたい生徒は、放課後に「イマージョンクラス」に参加でき、また海外大学を目指す高等部生用の講習もある。
ICTの利用環境整備を着実に進められている。2in1PCを授業に取り入れ、Microsoft(Teams)をハブとした連絡事項を一元化し、授業動画の閲覧や課題等の配布回収、データ共有、PBL型授業、プレゼンテーション、オンライン面談等において活用している。