シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

出題校にインタビュー!

森村学園中等部

2020年09月掲載

森村学園中等部の算数におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。

1.お金の出し入れの状況を整理する

インタビュー1/3

「空売り」という経済活動に触れる

この問題で受験生のどんな力を試したいと思われましたか。

池田先生 この問題はお金の出入りがあります。問題を解くにあたり、状況を正確に把握しなければなりません。また、「こう考えるから、この計算をする」というように、段階を追って論理的に考える力も測りました。さらに、(問3)は答えを文章で説明しなければならないので、表現力も試しました。

(問3)に「空売り」という経済用語が出てきます。小学生は初耳だと思います。

池田先生 空売りは、市場の売り買いという経済活動に触れつつ、聞き方を工夫すれば問題を易しくも難しくもできる素材だと思い取り上げました。算数は経済という実社会に応用できることに気づいてもらえたらと思いました。
空売りの用語を残すかどうかずいぶん議論しましたが、この問題の背景にあることなので残す決断をしました。ただ、空売りを知らなくても解けるように作問したつもりです。

森村学園 校舎

森村学園 校舎

(問2)・(問3)は合否を左右した問題

出来具合はいかがでしたか。

池田先生 合格者・不合格者別の正答率(得点率)は、(問1)~(問3)の順に、合格者が98%、86%、45%だったのに対し、不合格者は80%、47%、22%でした。この結果は予想通りでした。(問1)はリード文を読んで理解できれば暗算でも解ける問題ですが、(問2)、(問3)で大きく差がつきました。
お金が出たり入ったりするので、お金を借りているのか、支払ったのか、状況をきちんととらえていない解答が目立ちました。途中の計算ミスも結構見られました。(問3)を完全解答できた受験生は数えるほどでした。

支払うべき手数料を売り上げに加えてしまった

池田先生 (問2)は、「売り上げ」から「手数料」と買い戻したときの「支払い」を引いて、「利益」を求めます。答案を見ると、手数料を払わずに“もらって”いた間違いが目立ちました。
手持ち0円でスタートして、商品を借りるのに手数料を払えばマイナスになります。小学生はマイナスの概念がありませんから、どう考えればいいか難しかったのでしょう。

森村学園 校舎内

森村学園 校舎内

計算はできた。さて、答えは以上?以下?

池田先生 (問3)の解答で印象的だったのが、「25円以上」という誤答です。段階を踏んで計算すると「25」という数字が出ます。(問3)は文章で答えなければなりません。「25円以下」とすべきところを「25円以上」としてしまい、減点された答案が結構あったのです。そもそも「25」にたどり着けなかった受験生が大多数でしたが、考え方も計算も合っているだけに、もったいなかったですね。

市場で商品の値段を「予測する」ことの意味

池田先生 (問2)が解けた受験生は(問3)に取り組むことができていました。ただ、合格者は(問2)の得点率からすると、(問3)はもう少しできてもよかったように思います。

どのあたりが難しかったのでしょうか。

河合先生 1つは、設問文が長いことが挙げられます。始めの2文は「空売り」の説明ですが、ここで引っかかった受験生もいたのではないでしょうか。

池田先生 この2文はなくても解ける問題です。なかったら、得点率はもう少し高くなったかもしれません。

林先生 そのあたり、小学生は情報の取捨選択など情報を処理する力がまだ未熟です。
始めの2文が「問題を解くのに必要ない」と割り切れず、「空売りとは、何のことだろう?」と引きずった受験生は問題に入り込めなかったかもしれません。

河合先生 「予測する」ということが想像できなかったかもしれませんね。「ものの値段は決まっている」というイメージがあるので、毎日値段が変動すること、それを予測することの意味がわからなかったのではないでしょうか。

池田先生 確かにそうですね。未来の2月3日に損をしない条件を、2月2日の時点で考えるところが難しかった要因かもしれません。

森村学園 English Camp

森村学園 English Camp

解答のプロセスは計算式のみがほとんど

問題用紙に、「(問2)・(問3)は答えのみでもいいが、答えを出すまでの計算や図、考え方がかいてあれば部分点をつけることがある」とあります。解答欄も大きく設けていますが、部分点はもらえていたでしょうか。

林先生 最終的な答えは間違っていても、問題を解く過程をできるだけ評価するようにしました。ひと言付け加えながら考え方をうまく説明できる受験生は少なく、計算式だけが並ぶ解答がほとんどです。それでも何とか受験生の意図を読み取るようにしました。たぶん、この値はこのことを言いたいのだろうと、こちらが読み取ることができれば部分点をあげました。

インタビュー1/3

森村学園中等部
森村学園中等部大実業家であり、立志伝中の人物でもある森村市左衛門は、日本を担う人材育成の必要性を痛感。「独立自営」を建学の精神として掲げ、「社会の役に立つ人をつくる学校に」と1910(明治43)年、港区高輪に自宅の庭を開放し幼稚園と小学校を創立。幾多の星霜を経て78(昭和53)年現在地へ。
総面積8万m2の広大な緑地に、幼稚園・初・中・高等部がグランドを囲むように建つ。2010年に現在の校舎が完成。パソコン教室やホールなど、最先端の設備で一貫教育をより充実させる。図書館の蔵書は5万5千冊、自習室のパソコンでは予備校のサテライト授業が受講できる。
校訓は創立者自身が実業家人生のなかで学んだ「正直・親切・勤勉」。人間を磨き、学力や体力、情操を養いながら、真の国際人を目指して、幼稚園から高等部まで、それぞれの年齢に応じた教育を展開している。明るく品の良い家族的な雰囲気が情操教育の基盤。家庭とも連携を保ちながら、一人ひとりを把握した教師が、進路・進学指導にあたっている。
2019年度から導入した「未来志向型教育」は、「言語技術」を基礎に、「外国語(英語)教育」「課題解決(PBL)型授業」「ICT環境」の3要素から成り立つ独自の教育システム。予測不可能な未来社会をたくましく生き抜くために、教養ある自己表現を獲得し、自国はもとより国際社会に貢献する人財の育成を目指す。
「言語技術(Language Arts)」とは、世界標準の母語教育で、その特徴は、言語を用いる様々な手法を生徒の参加と作文によって指導する点である。それは、対話・物語・説明・論証に分類され、「問答ゲーム」を通して型に則って発信する方法を指導した後、大量の質問を浴びさせて対象を分析的に捉え、自ら発問する能力を獲得させている。これを基盤に全ての授業がアクティブラーニング(思考し発信する形式)で行われる。森村学園の言語技術は、「つくば言語技術教育研究所」と提携している。
「外国語(英語)教育」の特徴は、6年間の英語学習を2年ずつ段階的にアプローチを発展させながら「聞く・話す・読む・書く」の4技能の習得を目指すことにある。中1・中2では、英語を使えるようになることを目指す「コミュニカティブアプローチ」、中3・高1からは、より論理的に英語で考え、意見を述べる力を育む「ロジカルアプローチ」、高2・高3では、批判的・分析的に物事を捉え、自らの考えを発信でき、創造的で知的な英語の獲得を目指す「クリティカル・アナリティカルアプローチ」が指導の柱になる。2020年度の中1から「ルート別授業」が始まった。
入学前の英語学習歴に配慮し、海外製テキストを用いて「オールイイングリッシュ」で学ぶルートと、ニュートレジャーを用いて基礎から学習するルートを選択できる。さらに英語に磨きをかけたい生徒は、放課後に「イマージョンクラス」に参加でき、また海外大学を目指す高等部生用の講習もある。
ICTの利用環境整備を着実に進められている。2in1PCを授業に取り入れ、Microsoft(Teams)をハブとした連絡事項を一元化し、授業動画の閲覧や課題等の配布回収、データ共有、PBL型授業、プレゼンテーション、オンライン面談等において活用している。