シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

出題校にインタビュー!

関東学院六浦中学校

2020年08月掲載

関東学院六浦中学校の国語におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。

3.中学の「地球市民講座」で学ぶSDGsが、高校でも生徒主導で広がりを見せている

インタビュー3/3

授業中にビブリオバトルを行うなど読書を推進

佐藤先生 国語科では読書を推進しています。アウトプットするためには、知識が蓄えられなければいけないと考えているからです。読むことは、国語科だけのものではありませんが、国語科では読書を推進し、中学に入学してからどんな本を読んだかがわかるように記録を録らせています。また、授業中にビブリオバトルを行ったり、本のPOPを作ったりしています。本のPOPは文化祭で発表しています。読んだ本を発表する、という楽しみや、友だちが紹介した本を読む楽しみが本を選ぶことへの興味につながっています。読書を重んじることにより、さまざまな文章に触れる、それについて発表する、自分の考えをもって他者と意見を交換する、他者の意見を聞いて自分の世界を広げる…。そういうことができていると思います。

関東学院六浦中学校 教室

関東学院六浦中学校 教室

授業で図書館を多様。生徒にとって身近な存在に

今日は図書館で取材をさせていただいています。利用率は高いのでしょうか。

佐藤先生 図書館は、国語科だけでなく、いろいろな教科と結びついています。特に中学生は授業で使うことが非常に多いです。聖書の時間などでもよく使います。

野本先生 司書教諭が必ずいますので、図書館で授業を行う際には力を貸してくれます。発表やディスカッションを行うにはちょうどいい部屋なんですよね。生徒が黙って本を読んでいるだけという図書館ではありません。自習室は他にあるので、様々な活動するために活用しているという感じです。

私学の図書館には本当にいろいろな本があってわくわくします。

佐藤先生 教科からお願いして入れていただいている本もありますし、学年からお願いしてコーナーを作ってもらうこともあります。

野本先生 コーナーはつど変わります。例えば1年生が総合学習で横浜に行くとなると、横浜エリアのコーナーができます。図書委員が中心になってレイアウトするのですが、司書教諭と一緒になって気軽に足を運びやすい環境づくりを意識しています。

佐藤先生 授業で図書館に来ると、関連のある本のコーナーができているので、そこの本を手に取る生徒が多く見られます。自分から意識的に図書館に来る生徒も多数います。

野本先生 ポイントカード制やメルマガ(図書館通信)の導入も、読書の推進に一役買っています。生徒たちは皆、パソコンを持っているので、プリントしたものも配布しますが、メールでも届くのです。

ポイントを貯めるとメリットがあるのですか。

野本先生 借りた冊数に応じてポイントがつくのです。ポイントがたまると借りられる冊数が増えたり、雑誌を購入すると付録などがついていますよね。それをプレゼントしたりしています。「今回の賞品はこれです」とグッズが紹介されるので、生徒はそれを見て、ほしいなと思えば読書に励むわけです。
授業で図書館を使う回数は多いと思いますね。必然的に生徒は図書館を知ることになります。そこに行けば調べたいことが調べられる、ということを体験的に学ぶので、本を身近に感じているのではないかと思います。

広報部長/野本 幸靖先生

広報部長/野本 幸靖先生

全員登校でも密を避ける意味でオンライン授業を実施

休校期間中にオンライン授業は行いましたか。

野本先生 はい。グーグルミートを使って実施しました。教科によっては演習量が少なく、内容の定着が弱かった部分はありますが、休校期間中に著しく進度が遅れている教科は少ないと思います。休校が開けた後、1ヶ月くらい分散登校の期間がありましたが、登校している生徒が受けている授業を配信し、登校していない生徒は自宅で参加する、という方法を取りました。ですから同じ授業を2回やる、ということはなかったです。グループ学習も、複数人が同時にアクセスして文書を編集することができるので、自宅にいても協働学習ができるんですよね。課題の配信・提出はグーグルクラスルームで行いました。

端末は全員持っていますか。

野本先生 はい。全員クロムブックを持っています。1年生は手にしたばかりの端末でしたが、大きな混乱はなかったです。現在は全員登校になっていますが、校内での密をできるだけ避けたいので、学校にいてもインターネットでつないで密にしない状態で授業を行っています。生徒の中には発言することが苦手な者もいますが、オンライン授業では積極的に意見などを入力する姿もみられ、引っ込み思案の生徒も意見を出していたようです。それは新たな発見でした。

パソコンやスマホで必要な情報にたどりつく上でも言葉は重要

佐藤先生 クロムブックを導入したのは3年前です。その前から生徒にとってはスマートフォンが身近で、学校では使用できませんが情報を活用できていると思っていました。
ところが、クロムブックで国語の時間に調べ学習をすると、なかなか目標の情報にたどりつけないのです。検索のワードが的確ではないんですね。それを知って、情報を活用する力にも背後に言葉があるのだな、と感じました。

言葉を知らないと、的確に情報も検索できません。たどり着いた情報が自分に必要な情報かそうではないかを取捨選択するにも、判断するための読解力が必要です。そういうところにも国語の役割がますます大きくなっていると感じています。
調べ学習では、どのグループが一番早くたどり着けるかを競わせるようなこともしています。いかに早く的確な言葉を使って検索し、5つの空欄を埋められるかを競うのです。遅かった生徒は、自分ができていないということを痛感します。そこで教え合いが生まれます。検索1つとっても、良い学習機会になっていると思います。

以前、ICTが始まった頃は、紙の辞書か、パソコンで検索か、というような議論もありましたが…。

佐藤先生 紙には長く使われてきた、紙の辞書ならではの良さがあります。その引き方は授業中に指導していますが、それと同時に、スピードをもって必要な情報にたどり着ける、ということも重要な時代です。インターネット上には辞書よりも圧倒的に多い情報があふれています。その中から自分の欲しい情報を見つけることができる力は社会に出てからも必要になる力なので、学校の中でも体験させるようにしています。

関東学院六浦中学校 図書館

関東学院六浦中学校 図書館

SDGsを切り口に探究学習に取り組む「地球市民講座」

「地球市民講座」はどのような講座ですか。

野本先生 「地球市民」としての素養を身につけ、地球規模の課題である「持続可能な社会」に向けて主体的に行動するための学びを行う講座です。この国語の問題も、身近な問題にどう主体的にアプローチさせるか、というところを考えての出題でしたが、それは最終的に世界に目を向けさせたいからなのです。そのためには世界を見る視点が必要だろうということで、まずは「そもそもSDGsとは何か」というところから始めています。そしてSDGsの17の目標から、自分の興味のある分野を選別し、自分の身近な人の身の回りの問題と結びつけて、さらに探究活動を進めていきます。

佐藤先生 その成果は六浦祭(文化祭)でも発表します。今の高3は「地球市民講座」は受講したものの、SDGsは扱っていないので、高1の時にグローカルについて学びました。特に金沢区に注目し、身近な問題を考えて、高2でSDGsの問題を考えました。高校生の取り組みなので、進路に結びつくSDGsにしよう、と考え、自分の進みたい学部、学科で解決できる問題は何か、ということを考えさせました。興味があるから、というだけでなく、大学で学ぶことにより、どのように社会に奉仕できるのか、を認識した上で大学に進んでほしいので、そういうことを考えさせる機会を作り、文章を書かせました。そこで手書きではなく、グーグルドキュメントを使用しました。

進路とSDGsを結びつけて、大学で学ぶ目的が明確に

その生徒さんは現在高3ですね。進路とSDGsを結びつけた効果を感じますか。

佐藤先生 スポーツに取り組んできた生徒が、進路としてスポーツ・健康系の学部、学科を考えていました。ところがSDGsを結びつけて、「自分の進みたい学部、学科で解決できる問題はなんだろう」という切り口で考えさせると、競技を行うにはものすごくお金がかかることを知り、スポーツを支える「経済」を学ぶ必要があることに気づきました。
皆で取り組むことにより、世の中の問題には文系理系の枠組を超えた、さまざまなアプローチの仕方があることを知る機会になったと思います。例えば、保育士になって保育の問題を考えたいという生徒もいれば、女性の社会進出という視点で保育の問題を考えたいという生徒もいます。その生徒は社会学部を志望しています。
SDGsのような問題を考えさせると、生徒同士でよく話します。皆が将来、誰かの役に立ちたいという気持ちをもっていて、だから大学に進学して学ぶのだということを認識できる機会になりました。私も担任として、生徒の進路に対する考えが変わっていく様を目の当たりにして、勉強になりました。

実は最初、学部・学科から考えさせていました。「あなたの志望は経済学部だから、こういうテーマはどう?」と、こちらから提案しているうちはうまくいきませんでした。生徒自身が本当に考えたい目標ではなくなってしまうからです。もしかしたら違う方法があるのかな、と思っていたら、進路のことは後回しで「この問題を考えたい」という生徒が出てきました。それに対してどういうアプローチができる?と考えさせたら俄然進むようになりました。

関東学院六浦中学校 グラウンド

関東学院六浦中学校 グラウンド

生徒の何気ない会話から6年間の学びの醍醐味を実感

野本先生 高校からはGLEクラスがあります。そのクラスの英語の授業には、クラスの中に企業を作って、一連の経済活動を実際に行ないながら、ビジネスに必要な力を英語を活用しながら身につけるプログラムがあります。そこで生徒が「会社の目標を何にするか」をグループで相談して決めることになったのです。
すると、誰からともなく「SDGsでやろうよ」となって、「去年使った資料を使えるんじゃない?」と、発展していきました。担当教員は、生徒達がこれまで学んできたことをつなげて考えている様子に感心していました。その学年は「地球市民講座」に取り組んだ学年です。SDGsを知るだけではそこで止まってしまいます。そこからどう広がるか、を大事にしたいと思っています。

インタビュー3/3

関東学院六浦中学校
関東学院六浦中学校関東学院六浦中学校・高等学校は、その源流を横浜バプテスト神学校(1884年設立、校長A・Aベンネット、横浜山手)にさかのぼり、中学関東学院(1919年設立、初代学院長坂田祐、横浜市南区三春台)を経て、1953年現在の六浦校地に設立された。2003年には設立50周年を迎え、多くの卒業生を輩出する学校として、その歴史を形成してきている。
設立以来一貫して、キリスト教に基づいた学校教育を目的とし、キリスト教の精神をその基本としている。「人になれ 奉仕せよ」という言葉を校訓として、社会に貢献できる人材の育成を目標として掲げてきた。社会全体の変化に対して「共に励まし合う人」「社会に奉仕する人」「平和を尊重する人」という3つを教育目標としている。
6年間を「確立期」「定着期」「発展期」の3タームに分けてカリキュラムを作成している。オリジナル授業の「地球市民講座」では、地球規模の課題である「持続可能な社会」の実現に向けて、多文化理解と多文化共生について学び、主体的に行動できるための力を育む。また、大学が隣接しているメリットを生かし、さまざまな連携をしながら教育活動を行う。たとえば「大学理科実験講座」では、本校の中学生が大学の研究室に出向き、教授から直接指導を受け、大学での研究の最先端に触れている。
中学生の朝のHRでは、基礎学力の定着のため、国語(漢字)と数学(基礎力)で試験を行う。合格点を設け、基準に達しない場合には追試験や補習を行い、フォローアップ。平日の放課後、土曜日や長期休暇中には学習支援室Grace Roomで、苦手科目の克服や得意科目の力を伸ばすための補習・講習がある。自習エリアには個別ブース、オンラインでも質問ができる環境があり、各自の学習状況に応じた学びができる。1週間ごとの予定を書き込むことができる学校オリジナル手帳を全生徒が活用し、学習計画や面談の記録などを残す。定期的に組担任が生徒一人ひとりの様子を確認している。
海外研修も数多く、アラスカ研修では、オーロラ観測も行われる。施設訪問や地域清掃などの奉仕活動も盛んである。クラブ活動では、男女のラグビー部、弓道部、鉄道研究部などが、関東・全国大会で活躍している。