シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

出題校にインタビュー!

関東学院六浦中学校

2020年08月掲載

関東学院六浦中学校の国語におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。

1.身近な問題に目を向けて、解決に向けて考える生徒を育てたい

インタビュー1/3

大学入試改革も意識した問題

出題の意図からお願いします。

佐藤先生 与られた問いに対して、本文から読み取った内容を踏まえて自分の意見を書いてもらうことで、問いの指示を読み取り理解する力、自分の考えを表現する力を部分点も設けて丁寧に評価しようという意図で出題しました。
本文の出典は日本経済新聞です。花粉の少ないスギ苗木の生産が拡大しつつあることを、折れ線グラフと棒グラフでも示していて、 2021年度の大学入試改革で問われる、複数の文章や資料の情報を的確に読み取る力を中学入試でも問いたいという意図もありました。

大学入試改革は意識しますか。

佐藤先生 私は今年、高3の担任であり授業も担当しています。大学入試改革はずっと身近に感じてきた問題で、小学校の段階から意識してほしいという思いがありました。複数の文章や資料の情報を的確に読み取る力は、社会に求められている力だと思いますので、中学入試に向けての学習で接するほうが、より効果的ではないかと思います。(小問の1つとして)文章中の空欄を、グラフから読み取って埋める問題も出しました。これからはこういう問題を増やしていきたいと考えています。

国語科/佐藤 芳恵先生

国語科/佐藤 芳恵先生

身近な人の悩みを解決できる方法を考えてほしかった

素材文に惹かれた理由を教えてください。

佐藤先生 花粉は入試が終わり、新入生が決まる頃に飛び始めますよね。受験生の中にも悩んでいる人がいると思います。ご家族、友人も含めて、多くの人を悩ませている、身近な問題を題材にしているので、まずそこに惹かれました。身近な人のための解決策を考えられる問題を作れると思ったのです。私は「花粉の少ないスギの苗木」を知らなかったので、どの程度知られているのかなと思いましたが、出題することにより関心を持ってもらえるのではないか、と考えました。

読み返したくなる文章ですよね。

佐藤先生 本校は「人になれ 奉仕せよ」という校訓のもと、社会に貢献できる人、他者のために努力できる人、の育成を目標としています。(この文章は)小学生が身近な誰かのために心を寄せる入口になるのではないかと思いました。自分も悩んでいる。身近にも悩んでいる人がいる。社会にも悩んでいる人がたくさんいる。あなたが悩みを解決できる方法を考えてみませんか、というような問いかけがしたかったのです。

文章を通して知る、未知の世界とつながる。それが国語の素晴らしさ

佐藤先生 文章を通して身近な問題を知り、それについて考える、というのは国語科ならではの学習です。自分が直接、接していなくても、文章を通して知ることができる。自分の知らなかった世界とつながれる。そういうところが国語の素晴らしさだと思います。
考えるには、しっかりと文章を読み取ることが大切なので、この問題の前に1つ、本文を整理するための空欄補充問題を用意しました。本文中の語句を入れて穴埋めすることにより、「国産材を使うことがスギ花粉対策に有効である」ということを論理の流れで押さえられるようになっていて、その上で「国産材の使い道を考えなきゃね」と、意欲をもって取り組めるような構成になっています。算数でも段階的に考えを深めていけるような出題の仕方をしていますが、それは国語科でも大事にしているところです。

考える方法としては、まず日常生活で目にするものと結びつけて考えることです。机、たんすなど家にある家具をはじめ、身近にあるものをいろいろと思い浮かべて、国産材が使えないかを考えるのです。また、本文にもヒントになるようなことが書かれているので、それをヒントに考えることもできたと思います。例えば、本文の傍線付近に「工務店や家具メーカーなど」ということが書かれています。「建築材はかつては高度成長期を支えた木材である」とも書かれていますので、そうしたことから家を作るとなったら木材をたくさん使うよな、と発想してもらう。マンションのような大きい建物の場合、普通は鉄筋ですが、木材で作れないかな、というように、柔軟に考えてもらえるとよかったと思います。
また、「新国立競技場にもふんだんに木材が使われた」と書かれています。このことはいろいろ話題になっているので、受験生の中にも知っている方がいたと思います。新国立競技場に木材をふんだんに使えるなら校舎や体育館も作れるのではないか、というように発想を広げることもできたと思います。

関東学院六浦中学校 校舎

関東学院六浦中学校 校舎

採点の鍵は「具体性」があること

受験生の反応はいかがでしたか。

佐藤先生 よく書いていました。空欄はあまり見受けられませんでした。ただ、「具体的な提案」を聞いているので、どれだけ具体性が反映されているか。そこを加えて採点しようと考えていました。出題意図を理解しているか、ということですね。

どのような解答が目立ちましたか。

佐藤先生 私たちも予測していたことですが、建物や家具に使うというモノを作る系の解答が多かったです。具体的な家具が書いてある答えが目立ちました。中には「家を建てる時にスギの国産材を使いなさいと法律で定める」という解答もありました。

採点はスムーズでしたか。

佐藤先生 この問題については、私を含めて2人の教員ですべての解答に目を通して採点しました。「家具」という言葉を具体とするか抽象とするか。その辺りの判断は難しいのですが、小学生ですので家具という言葉は具体と判断しました。「家」という言葉も同様です。
具体性が見られれば今回はすべて正解としましたが、残念ながら具体性に欠けるものがたくさん見られました。 具体的という意味がわからなかったのか、思いつかなかったのか。その辺のところはわかりません。この問題の後にもう1つ文学的な文章(大問)があったので、時間をかけて考えられなかったのかもしれません。

採点ポイントは「具体的」のほかにも設けていましたか。

佐藤先生 表現として適切に伝わるかどうかですね。主に助詞の使い方が正しくないものは減点しました。また、文章で書いてもらう問題ですので、箇条書きのような書き方をしている解答は減点の対象としました。

小学生ならではの解答が秀逸

印象に残っている解答はありますか。

佐藤先生 私が一番感心したのは、「スギの国産材を輸出し、海外の建物にも日本のスギの木材が使われることで、日本の木材の良さを世界に広めることができる」という解答です。
グローバルな視点で具体的に書かれています。本文中に「木材を輸入をしているから国産材の使用が減少している」と書かれているので、逆転の発想だな、と思いました。そういう逆転の発想で考えるのは小学生ならではだなと思いました。ある意味、先入観がないので、柔軟に考えられるのだなと思いました。
また、「鉛筆に使う」という小学生ならではの答えもありました。「スギの国産材で鉛筆を製造する技術を開発し、作った鉛筆を寄付する」という解答で、「作った鉛筆を寄付する」というところに、本校を考えてくださる時に、奉仕活動を重んじる学校であることをどこかで知ってくださったのかなと思って嬉しかったです。

今回の出題で、今後に向けてどのような手応えや課題を得ましたか。

佐藤先生 もう少し答えやすい問題を作れるかもしれないなと思いました。 空欄補充問題により、本文を読み取ることができているかを確認し、その上でこの問題に取り組むというように、段階的にしたことで、答えやすいのではないかと思ったのですが、もしかしたら問いかけが小学生には難しかったのかもしれません。そもそもは、本文を読んで知った身近な問題について自分自身の考えを書く、ということをしてほしかったので、問いはもう少し簡易なものにすればよかったかなと思っています。

関東学院六浦中学校 礼拝堂

関東学院六浦中学校 礼拝堂

受験生の平均は5点満点で3点に届かなかった

どのくらいできていましたか。

佐藤先生 5点満点の問題ですが、受験生の平均は3点に届かなかったと思います。記述問題では、部分点を設けてなるべく点数をあげたいと考えていますので、 もう少しできる問題にしたかったという思いはあります。
ただ、空欄が少なかったということは、書きたいと思わせる問題だったということ。それは嬉しく思っています。国語ですから、書こうとするだけで力を発揮していると思います。全く違うことが書かれていたら点数を差し上げられませんが、解答欄に解答を書いたという事実は、前向きな姿勢として評価したいと思っています。

毎年、記述問題を出題していますが、空欄が多い時もありますか。

佐藤先生 そうですね。これまでは、本文からさらに進んで考えさせる今回のような問題にはなっていなかったかもしれませんが、毎年書かせる問題を出しています。中にはあまり書いてもらえない問題もありますが、 こういう方向の問題は今後も出題していきたいと思っています。

文章があって問いがある。それをわかってほしかった。

ちなみにこの設問につながる前の問題はできていましたか。

佐藤先生 最初の空欄ができていませんでした。国産材の使い方を考える、という意味では、最初と最後のつながりがわかれば、できていなくても大丈夫かもしれませんね。ただ、本文の流れを図式化したものなので、この意味がわからないと、何のために考えるのか、ということはわからないかもしれません。問題同士のつながりをふまえることで、あなたの考えが花粉症の対策になるんだよ、ということを伝えたいという思いがありました。それが受験生に伝われば、「それならぜひ考えたい」と思ってもらえるのではないか。そう思って書いてほしい、という思いがありました。ただ問いがあるのではなくて、文章があって問いがある、ということをわかってほしかったのです。

関東学院六浦中学校 図書館

関東学院六浦中学校 図書館

受験生への配慮から、上段に文章、下段にその問題を配置

小学生が読む上で工夫したことはありますか。

佐藤先生 新聞の小見出しなどはそのままにしました。見出しがなくても文章を理解する上で問題はないのですが、見出しがあることにより、この文章にはこういうことが書かれているんだということがわかります。読解の助けになります。

国語の問題は用紙を二分割して、上段に文章、下段に問題という、中学入試ではあまり見ないレイアウトですが、これにはこだわりがあるのでしょうか。

佐藤先生 なるべく傍線部の下にその問いが来るように配慮しています。校正の段階でずれていると直してもらっています。文字の大きさを多少変えてでも、それにはこだわっています。文学的文章の方だと文章量が多いので下が空白になってしまうことがあります。 それでもかまわずにあえてそのままにしています。

作問に、学校として大切にしていることを意識

素材文を選ぶ際に、学校の考え方をどこかしらに持ちながら選んでいますか。

佐藤先生 国語科では、全部で5つの入試問題を作っています。教員それぞれが文学的文章と説明的文章を提出して、どの日程にどの文章を取り上げるかを、国語科の中で話し合って決めています。
学校として「長文2題のどちらか、あるいは両方に、人と人とのつながり、思いやり、奉仕などをテーマにした文章を入れることで、そのような内容に共感できる本校の生徒として望ましい力、そういう考えをもった受験生を獲得したい」という方針がありますので、その大きな方針に則って作問をするということを心がけています。
素材文を選ぶ時からそういうことを考えている、というよりは、設問の段階で考えていることのほうが多いかもしれません。その分野の専門の方が、あるいは取材などをした方が、あるテーマについて自分の考えを述べられている。それを小学生が身近な問題としてとらえさせることができるかを一番に考えています。

そういう方針は他教科にもあるのですか。

野本先生 はい。例えば算数では、基礎的な力を問うことはもちろんですが、「受験生が見たことのないような問題であっても、試行錯誤しているうちに解答の糸口が見えてくるような問題も入れましょう」という方針で作問しています。試しに手を動かせるマインドを持っている受験生を獲得したいという思いがあるので、そういう問題を含めて出題しています。
さらに算数では、途中式などを書いてもらう問題も必ず入れるというルールを設けています。先ほど佐藤も話していましたが、そういう問題では○か×かではなく、ここまでできているから何点あげよう、という採点の仕方をしています。それは入学後の定期試験でも同じです。

広報部長/野本 幸靖先生

広報部長/野本 幸靖先生

出題傾向や問題数は大きく変えない

その方針は話し合って決めるのですか。

野本先生 基本方針があって、それをもとに各教科で話し合い、作問しています。ベースには基礎的な力をつけて来てほしいという思いがありますので、国語の漢字の読み書きや、算数の計算問題などは変わりませんが、時代の変化に応じて、グローバルな視点を意識した問題を入れようか、などということを教科で話し合って作問しています。
(受験生が)知らなかったとしても、文章を読んだり問題を解いたりしながら「へー、そうなんだ。知らなかった。すごい」と言って帰ってもらえるような問題を出したいという思いは(どの教科にも)あると思います。

佐藤先生 そういう考えは理科や社会に多いですね。

野本先生 そうですね。理科の実験問題の中には、実際に教員が理科室で実験し、それをもとに作問しているものもあります。 そういう問題は(受験生が)見たことがなくても、文章を読みながら考えられる問題になっています。
ただ、出題傾向をそんなに大きく変える学校ではありません。ですから問題数が著しく変わることもないです。

佐藤先生 国語では、長い間、前半に漢字の読み書きの問題を出しています。これは不動です。

インタビュー1/3

関東学院六浦中学校
関東学院六浦中学校関東学院六浦中学校・高等学校は、その源流を横浜バプテスト神学校(1884年設立、校長A・Aベンネット、横浜山手)にさかのぼり、中学関東学院(1919年設立、初代学院長坂田祐、横浜市南区三春台)を経て、1953年現在の六浦校地に設立された。2003年には設立50周年を迎え、多くの卒業生を輩出する学校として、その歴史を形成してきている。
設立以来一貫して、キリスト教に基づいた学校教育を目的とし、キリスト教の精神をその基本としている。「人になれ 奉仕せよ」という言葉を校訓として、社会に貢献できる人材の育成を目標として掲げてきた。社会全体の変化に対して「共に励まし合う人」「社会に奉仕する人」「平和を尊重する人」という3つを教育目標としている。
6年間を「確立期」「定着期」「発展期」の3タームに分けてカリキュラムを作成している。オリジナル授業の「地球市民講座」では、地球規模の課題である「持続可能な社会」の実現に向けて、多文化理解と多文化共生について学び、主体的に行動できるための力を育む。また、大学が隣接しているメリットを生かし、さまざまな連携をしながら教育活動を行う。たとえば「大学理科実験講座」では、本校の中学生が大学の研究室に出向き、教授から直接指導を受け、大学での研究の最先端に触れている。
中学生の朝のHRでは、基礎学力の定着のため、国語(漢字)と数学(基礎力)で試験を行う。合格点を設け、基準に達しない場合には追試験や補習を行い、フォローアップ。平日の放課後、土曜日や長期休暇中には学習支援室Grace Roomで、苦手科目の克服や得意科目の力を伸ばすための補習・講習がある。自習エリアには個別ブース、オンラインでも質問ができる環境があり、各自の学習状況に応じた学びができる。1週間ごとの予定を書き込むことができる学校オリジナル手帳を全生徒が活用し、学習計画や面談の記録などを残す。定期的に組担任が生徒一人ひとりの様子を確認している。
海外研修も数多く、アラスカ研修では、オーロラ観測も行われる。施設訪問や地域清掃などの奉仕活動も盛んである。クラブ活動では、男女のラグビー部、弓道部、鉄道研究部などが、関東・全国大会で活躍している。