シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

出題校にインタビュー!

清泉女学院中学校

2020年07月掲載

清泉女学院中学校の社会におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。

1.「SDGsはよくわからない」という声からヒントを得て生まれた問題

インタビュー1/3

授業でも積極的に取り組んでいる教員の思いが強い「SDGs」

この問題の出題意図を教えてください。

山内先生 もともとSDGsというものには興味がありました。昨年中学2年を野澤と一緒に担当していまして、1年間ロングホームルームを行っていく中で、何を目標に行っていくのが良いか考えた時「SDGsではないだろうか?」と思い、そこから取り組んでまいりました。

SDGsを取り組んでいるうちに気づいたのですが、SDGsは掲げているものの、実際話してみると「正直よくわからない」という声もあり、SDGsを当たり前に考えていくには低学年のうちから意識させていくということが必要だと感じ、今回の入試でもSDGsを取り上げました。

ある行動がいろんな視点によって良くも悪くもどちらにもなる、と私は思っており、この問題の「電気機器を新しいものに買い替える」ことのマイナス面は「ゴミが増える」ということだと言えます。その部分を肯定的に捉えてほしいという思いもあって、小学生でも解けるにように自分の生活のレベルに落としていったところ、今回のような問題の形に落ち着きました。

野澤先生 SDGsについては授業でも年間を通して取り組んでいまして、たとえば、中学1年生の世界地理の授業では世界で活躍するような人を紹介するプレゼンテーションプログラムを行いました。

山内先生 世界で活躍する人の中で、ノーベル賞を受賞したような有名な人以外に3人書きなさい、といったお題を出したりしました。このように実際に世界平和にしようと取り組んでいる人を紹介し、質疑応答し合う授業を社会科では取り組んでいます。

野澤先生 中学2年生を対象にした授業では「SDGsで○○をつくろう」というコンセプトで、自分たちで項目を選んでSDGsのホテル・イベントを考えてみるなど、どういう風に社会や世界に貢献できるかを考えさせ、発表する機会を設けました。
また、その発表と併せて「SDGsを身近に捉えられたものの、それをどうやって周囲に伝えていくか」という視点で、SDGsを啓発するようなポスターをクラスごとに作成し、校内のみんなが意識してくれそうな箇所に掲示していきました。

社会科/山内 雄矢先生

社会科/山内 雄矢先生

自分の考えを「論理的に相手にきちんと伝えられるかどうか」を見たかった

山内先生 現在の中学3年生もかなりSDGsへの関心が高く、1年間かけて調べたテーマをまとめるプログラム(今年度からはこれまでの論文から表現方法を自由に選ぶことができる「マイストーリープロジェクト」に発展)を行っておりますが、ここでもSDGsに関わる内容を希望する生徒もいます。中学1年生の時にまいた種がだんだんと根を張ってきて、自分たちからその視点を伸ばしていこうという様子が見られます。
教員側の思いが強くなればなるほど、入試問題にも反映されていきますね。

入試問題でもそうですが、制約は設けずに、生徒には自由な発想で書いてもらいたいと思っています。本来は何個でも書いてもらっていいのですが、採点のこともありますので、問題としては2つとなっています。

受験生の解答で多かったのは、7番の「エネルギーをクリーンに」と、8番の「働きがいも経済成長も」でした。
こちらもそのあたりが多いだろうという予測を立てて作ってはいましたが、そこだけにとどまらない、自由な発想でどれを選んでも論理的に書くけるかどうか、採点においては「自分から相手に文章できちんと伝えられるか」という点を一番重要視しました。

面白い解答だと4番の「質の高い教育」について書いた生徒がいて、今回のコロナ禍を見越していたのか「最新の機械を使うことによって、教育を受けられない子にも教育を受けさせることができる」というのがありました。

清泉女学院ではクロームブックを中学3年生以上に1人1台渡していますので、コロナ禍による休校中には動画配信やGoogleのMeetを使用したりと、コロナ禍の状況下でもそれらのツールを使って授業を行うことができました。そんなこともあってか、こうした解答における発想は非常に柔軟に感じていて、印象に残っています。

また「女性の働きがい」というものですと、最近テレビのCMでも時短で料理を作るとか、社会に出て帰ってきて子どもとの時間を重視したいとか、そういうメッセージがうたわれています。そうした視点から、働きがいや経済成長、ジェンダー、平等などの問題について、自分の行動を肯定的にとらえてほしいという思いはありますね。
自分の行動は、マイナス面もあるかもしれないけど絶対にプラスに転じるんだよ、もっと行動できるよね、という思いを伝えていきたいですね。

社会科/野澤 俊介先生

社会科/野澤 俊介先生

制約を持つことで自由な発想が生まれる

瀧先生 出題としてよかったのは、解答が1つではなくて2つという点です。自由な発想を求めたという点について、条件をかなり厳しく出したからこそ、子ども達の自由な発想が出てきたのだと思います。
たとえば、美術作品の感想を書く場合、「美しい」「キレイ」と言った言葉をあえて使わないという制約を加えることで、自由な発想が引き出されることがあります。
今回の場合、「2つ」という制約が子どもの自由な発想を生み出しているなと感じました。

山内先生 この問題を全く書けなかった子もいますが、番号と文章が適切に書けて満点を取った生徒は4分の1ほどいました。知識だけではなく「これはなんだろう?」「何を意味するんだろう?」と考えられる子が思ったより多くて嬉しかったです。改めて清泉女学院ではそういう子を育てていきたいなと感じました。

清泉女学院中学校 校舎

清泉女学院中学校 校舎

ふだんの授業と入試問題はリンクしている

SDGsを自由な発想で考えてポスターで掲示する活動は、見るだけでなく具体的なアクションを重視しているんだと感じましたし、入試問題にも関連していると思いました。授業でされていることが入試問題にも落とし込まれている印象を受けました。

山内先生 この取り組みで面白かった点は、職員室の入口に「私たちの未来はどうなるの?」というポスターを掲示したことですね。生徒には「ダメだよ」ではなく、「面白いね!」「いいね!」と声かけをしました。

授業でやったことが実生活にもつながっていくというのは教員冥利に尽きますし、授業でも話し合いでも、まずは教員側が楽しむこと、大人のほうから「魅力的でしょ」とアピールすることが大切ですね。

橘先生 「清泉女学院には、生徒の自由な発想と行動をなんとか実現させようとする教員がいる」というのは強調したい点です。

文字数が重要なのではなく「番号と中身の整合性」が重要

この問題は30文字ぐらいで解答すればよかったのですか?

山内先生 採点はルーブリックを作って二人で行いましたが、どんなに頑張っても50字は書かないだろうなとは思いました。30字でなくても20字でもその点は問題ではなく、こちらにきちんと意図が伝わっているかであって、あくまでも設問と中身があっているかを重視しています。文字数が短くても番号と内容がリンクしているかが大切で、採点の際に文字数を数えているわけではありません。

17個の項目の中で使われなかったものはありますか?

山内先生 やはり使われるものは集中してしまいましたので、出なかったもののほうが多いです。
17番(パートナーシップで目標を達成しよう)は小学生には難しくて全く使われなかったですね。

橘先生 10番(人や国の不平等をなくそう)を使った解答で覚えているのは「私たちが電化製品を買い替えると中古製品が出るので、それを途上国に送ればリサイクルになる」という発想には驚きました。小学生の発想はこんなに豊かなのかと。

山内先生 1つ前の問題にあったMDGsとSDGsの違いに関する問いで、先進国と途上国の違いを書かせるものがあったのですが、そこから発想を得たのかもしれませんね。

お話を伺っていると、書いたものを×にするのが難しいと感じましたが?

山内先生 SDGsを達成しているかどうか、という視点が大切ですね。
番号と内容がリンクしていないので△というのもありましたし、電気機器とは関係ないものが書かれているなど、問いに対する解答となっていないものは×にしました。文章をちゃんと読んだうえで解答することが大切で、達成するための目的を書かなければ点数となりません。

清泉女学院中学校 聖堂

清泉女学院中学校 聖堂

何事もプラスに捉える

自分の考えを論理的に説明することや自由に選んで発想すること、多角的な視点を重視した問題と感じましたが、なぜこのような考えに至ったのですか?

山内先生 担任をしている中で感じることですが、自信を持てない生徒がいるんですね。
すごくいいことを考えていて、それを発言してくれたらクラスにも新しい刺激を与えられるのに、と思うことがあります。1対1のときに話してみるとその生徒が面白い考えを持っていることがわかるのですが、大勢がいる場では発言できないのです。

そんな時にプラスの面を見てあげると、その子の良さがもっと見えてくるんですね。プラスに捉えると人生は楽しくなるということは伝えたいです。

多角的な中でも特にプラスの面を増やしていくことが、行動を起こす原動力になっていくのですね。

山内先生 プラスの面を見つつ、マイナス面を改善してより良いものにしていこうとは思っています。欠点や失敗はフォーカスされやすいものですが、何事もプラスにとらえることが大切ですね。

学びの入り口となる入試問題としては、生徒の背中を押すような温かみを感じます。

山内先生 この学校は温かい人が多く、そのような校風があったからこそ作ることができた入試問題だと思います。

インタビュー1/3

清泉女学院中学校
清泉女学院中学校1877(明治10)年に創立の聖心侍女修道会(本部はローマ、世界20か国に44の姉妹校)により、1938年、前身の清泉寮学院創立。47年に横須賀に中学、翌年高校を設立。63年に現在地に移転し、2023(令和5)年に創立75周年を迎える。進学率のよさから「鎌倉一の女学校」の座を堅持している。
大船駅西側の丘陵地帯、栄光学園と谷ひとつ隔てた玉縄城跡に位置する。緑の芝生が美しい7万m2もある敷地には、観覧席がある体育館、2面の広いグラウンド、コンピュータ室、憩いのスペースのカフェテリアなどがあり、充実した施設・設備を完備。02年には修道院を改修した新校舎ラファエラ館が完成、美術室や音楽室、少人数授業対応の教室など設備が一新された。
「神の み前に 清く 正しく 愛深く」をモットーに、より良い社会をつくるために積極的に貢献する人の育成を目指している。ほかのカトリック校に比べると、「校則」や校内の雰囲気は驚くほど自由で、利益や結果よりも目に見えない精神的価値を大切に考える。
完全中高一貫を生かした独自のカリキュラム。大学受験を強く意識し、英語と数学は中1から習熟度別授業を実施。理科は実験・観察が重視され、社会では新聞・ニュース番組・映画など現実感のある教材を活用している。高2から文系・理系の2コース選択制になる。理系に数学演習などを設置したり、文系国公立大学受験者向けの授業(選択)を追加したりと、大学受験対策がより充実しさらなる飛躍を目指している。医療系にも強い。
入学後、5月に富士山麓で1泊2日のライフオリエンテーションキャンプが行われ、建学の精神と友人への親しみを養う。中2の夏休みのライフオリエンテーション、理科野外学習、清泉祭(文化祭)、体育祭、合唱祭、クリスマスミサなどの行事がある。ボランティア活動も盛んで、さまざまな福祉活動に参加。23あるクラブは参加率90%以上。なかでも、音楽部は全国大会で高く評価されており、2019年にはRIGA SINGS(1st International Choir Competition & Imants Kokars Choral Award)にて総合グランプリ(全団体中1位)を受賞。
生徒が主体となって活動する有志団体も多く、「清泉ピースプロジェクト」「AI(人工知能)倫理会議」など他校を招待して特色ある取り組みを行う。模擬国連大会に参加する生徒も多数おり、校内や他校での大会だけでなく、国際大会にも出場。