シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

出題校にインタビュー!

自修館中等教育学校

2020年06月掲載

自修館中等教育学校の理科におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。

1.大問5は合否を決める重要な問題

インタビュー1/3

SDGsを意識した設問

この問題の出題意図を教えてください。

田邉先生 自修館は、狭い島国であっても周りの人やほかの地域・国の人と関係を繋げながら別の生き物とも共存していく世界観を持った生徒を育てていきたいと考えている学校です。そのような校風もあって、普段の授業でもSDGsを意識して取り組んでいたこともあり、今回それに絡めた問題を作りたいと考えて、理科の作問メンバーで研究して作りました。

ずっと1年中設問について考えていらっしゃるのですか?

田邉先生 常に1年間入試チームで考えているのですが、世界規模で理科の視点を持ちつつ、もう一歩社会のことを考えた問題を作れたらいいね、という思いはいつも持ち続けています。

理科主任/田邉 一也先生

理科主任/田邉 一也先生

採点ポイントは選んだ理由やその対策を述べられているかどうか

この問題は採点が大変なように感じたのですが、実際はどうでしたか?

田邉先生 基本的には主題を決めた教員が責任をもって採点をしますが、どういう解答があり得るのかは事前に教員側でも考えていました。
教員が出す解答以外の発想を超えた生徒がいるといいな、とは思っているものの、小学生ならこれくらいの解答が出るだろう、と予想した答えを用意した上で採点に臨んでいます。仮に解答が的外れであったとしても、きちんと説明ができているか、メリット・デメリットを考えられているか、といった視点で採点をするようにしました。

佐藤先生 この問題は、×をつけない問題、つまり〇しか付けない問題で、順番に〇を付けていき、10点になったら終了という加点形式の問題なんですね。

基本的には子ども達の考えを認める姿勢で採点されているのですね。

田邉先生 あまりにも主題から離れたものだと点数はあげられませんが、主題をとらえてメリットが書けていれば点があげられる、その箇所を探して採点しています。説明が重複してしまったところは前者のみ点数をあげて後者は保留、といった具合にし、できるだけ加点するようにはしました。

この設問の配点が10点というのはかなり大きいですよね。

田邉先生 はい、10点は非常に大きいです。10項目全てに説明が書ける解答欄を用意していまして、この設問は1問2点なのですが、最大で10点となり、1問きちんと書けば2点がもらえる計算となります。

そのため半分書くことができれば10点満点でそこで終了なのですが、それ以上のアイディアを出してほしいですし、いろんな発想を見たいので、余裕をもって解答欄を大きくしていました。

自修館中等教育学校 校舎

自修館中等教育学校 校舎

言葉は知っていてもその意味や本質の理解までできる子はまだまだ少ない

この問題について、先生方の予想に対し子ども達の解答はどうでしたか?

田邉先生 ある程度予想していたものから外してはこなかったです。やはり車、排気ガス系は多く出てきましたし、紙とか森林系も同様に多かったですね。
放射性物質やレアアース、原発といったようなニュースになっているものは言葉としては出てきました。
しかし名前は知っているものの、何がよくて何がダメなのかまで理解できている子は少なかったと感じます。
とはいえ我々が予想し得ない、こういった分野に興味があるんだな、といった子は少なからず例年出てきますね。

SDGsの17の項目の中で、この設問において意識した項目はありますか?

田邉先生 特定の項目に当てはめて作るというのはありませんでした。
しかし、SDGsや持続可能な社会についてのある程度のイメージは持っているものの、どれを当てはめてというのはなく、この概念で行くとSDGsの概念からは大きくずれていないし、その上で理科的な視点で自分たちの聞きたいことを聞くという姿勢で作っていった形です。

最近SDGsが広く取り上げられてきているので取り入れてみよう!というよりは、学校教育の中で取り組み始めているものなので、SDGsの視点から外れることなく理科的な視点で問題を作れたかな、とは思っています。

子どもの解答で特徴的だったものはありますか?

田邉先生 メリット・デメリットまできちんと書ける子はまだまだ少ないと思いました。
どの項目においても「良い」「悪い」という概念や知識は持っていますし、「環境や社会に良くない」という視点も備えてはいるのですが、それがどうしてなのか?と一歩踏み込んで考えられる子はそこまで多くはないと感じます。
とはいえ、その部分まで考えられる子が欲しいと感じますし、そういう子たちを育てていきたいとは思っています。

選択肢の中で選ばれなかった項目はありましたか?

田邉先生 「アスファルト」は出てこなかったですね。アスファルトが何でできているかイメージできなかったのかなと思います。あとは「重油」や「石」もありませんでした。

自修館中等教育学校 図書館

自修館中等教育学校 図書館

配点が大きく合否を左右する問題

解答を全然書けない子どももいましたか?

田邉先生 当然書けない子どももいますが、学校説明会でもこの設問の配点は大きく、ここでの解答率が合否を大きく左右するものだということは伝えています。いかんせん試験時間が30分しかないため、序盤の問題はできるだけ基礎的な問題から出題していますので、最後の問題に時間をかけられるように頑張ってほしいです。

実際2、3個しか書けなくて「もうひと頑張りなんだけど」という子が多かったのですが、合格点に近い子は6~8個ぐらいは書いています。たとえテーマがかぶっていても、ひとまず書こうという意識が見えましたね。中には10個全部書く子もいました。

全部書くような子は、一通り解答した上で最後の問題を解いているのですか?

田邉先生 あまり後ろの問題からやっていく子はいなかったです。設問1から始めて、行き詰りそうな問題や計算問題に時間がかかりそうなところは飛ばしたりしながら工夫して解いているようでした。計算問題や他の分野だと1つ1つ読んで解いていかなければなりませんが、この設問は考えて説明する問題なので、それを大変に感じる子どももいるかもしれません。

自修館中等教育学校 フーコーの振り子

自修館中等教育学校 フーコーの振り子

持っている知識をフル稼働して採点者に伝えようとする力を見ている

そうしますと、この問題はかなり合格を左右する問題と言えるのですか?

田邉先生 そうですね。ここ数年の学校説明会でも「大問5は理科的な考えや発想を知るための大事な問題」として自修館は出し続けているので、ぜひそこに力を入れて頑張ってほしい、という言い方はしています。

割とシビアに見ているところは見ていますが、要は知識やメリット・デメリットをバランスよく書けているかどうかです。
どんな題材でも良いことと悪いことがあるのはこちらもわかっていますので、善悪だけでは語れない問題もあるんですが、彼らの持てる力の中で相手に伝えようとする視点を見てあげたいと思っています。

1つ書いて2点ということは、配点は0点か1点もしくは2点ですよね。その点数の差はどんな違いですか?

田邉先生 単に言葉を選んだだけで点はあげてないです。単語を選んで「〇〇を減らすためにこうしたほうがいい」と理由まで書けて2点です。「車」「温暖化」というように、語彙を並べただけで説明にすらなっていないため減点することもありました。

単語だけを並べている解答もあるんですね。

田邉先生 1行程度しか理由を書く欄がないので、解答には「選んだ理由とその対策」を書くことが多いです。
理由だけ書いていてもだめですし、展望だけ書いていてもだめということですね。理由と対策がお互いに繋がっていないと点数にならないので、理論立てて書くことが求められる問題です。

特定ジャンルにこだわらずまんべんなく出題

理科は生物・物理・化学・地学とあらゆる分野からまんべんなく出題されています。その点において何か意図はあるのでしょうか?

田邉先生 大問5で点数をあげたいという思いはありますので、1科目だけを重視するような作りにはしないというのは作問メンバーで話しています。
基本的には、テクニックが必要となるような応用問題中心ではなく、一般的な問題演習をしていれば解ける基本的な問題を出題していますので、とびぬけて難しいものは作らないようには心がけています。

この大問5は全員で持ち寄って作成していますが、できるだけ身近なニュースとか、ここ近年目にすることが多い話題などを意識して作っています。試験問題を作成する際、なるべく多角的な解答がでるような問題を採用するようにはしていますので、逆に解答が限定的になってしまうものに関しては作問段階でボツにしていきます。

試験問題はどのようなタイミングで作成されるのですか?

田邉先生 4月から始まって1年中考えています。あまりにもリアルタイムすぎると生徒たちが怖がってしまうものの、なるべく最近のニュースや話題を取り入れるようにしています。

自修館中等教育学校 校歌

自修館中等教育学校 校歌

インタビュー1/3

自修館中等教育学校
自修館中等教育学校スクールバスにて小田急線愛甲石田駅より約5分、JR東海道線平塚駅より約25分。目の前には緑多い大山と丹沢の山々があり、恵まれた自然環境。校舎は、5階建ての普通教室棟と特別教室棟からなり、図書館、PC教室、自習室などを備え、高度情報化社会に対応したつくり。体育館や屋上にプールを備えたアリーナ棟もある。学校食堂の枠を超えたレストラン、カフェテリアも好評。
建学の精神「明知・徳義・壮健」の資質を磨き、実行力のある優れた人材を輩出し人間教育の発揚を目指す。そのため、学力とともに、「生きる力」を育成するテーマ学習や心の知性を高めるEQ教育などユニークな取り組みを実践。教育を“こころの学校作り”ととらえ、学校を想い出に感じ、帰れる場所に、と家庭とも連携を保ちながら、きめ細かい指導にあたっている。
中1~中3を「前期課程」、高1~高3を「後期課程」とした、高校募集のない完全中高一貫の体制。3カ月を一区切りとする4学期制で、メリハリをつけて効果的に学習を進めている。英・数は高2から習熟度別授業を実施。英語の副教材には、『ニュートレジャー』を使用。興味のあるテーマを選んで継続して調査・研究を行う「探究」の授業もある。指名制の補習と希望制の講座がさかんに行われている。また個別指導が多いのも特徴。
週6日制だが、土曜日の午後は自由参加の土曜セミナーを開講。「遺伝子組み換え」「古文書解読」「伊勢原探訪」など生徒対象のものだけでなく、保護者対象の講座も多数用意している。「探究」以外でも心の知性を高める「EQ」理論に基づいた心のトレーニング「セルフサイエンス」や、国際理解教育など、特色ある教育を展開。中1のオリエンテーション、山歩きに挑戦する丹沢クライム、芸術鑑賞会などの行事がある。文化部9、運動部10のクラブ活動も活発。「探究」の一環として、高2でオーストラリアでの海外フィールドワークが行われる。