シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

出題校にインタビュー!

武蔵中学校

2020年05月掲載

武蔵中学校の算数におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。

3.授業は生徒中心、教員は見守り役

インタビュー3/3

授業はオリジナルテキストを使用

授業はどのようにされているのですか。

春山先生 本校では独自に作成したテキストを使って授業をしています。

友利先生 中高6年間の履修範囲を学びやすいように順序を入れ替え、中学でも高校の範囲を学習します。オリジナル教材といっても、極端に難しいことはしていませんし、一般の教科書と全く違うことをやっているわけでもありません。

春山先生 テキストでは、なぜこの公式が導き出されたのかといったことを深く解説しています。
中学の授業は「代数」と「幾何」に分かれています。幾何は3年間同じテキストを使い、幾何学を論理的に体系化した「ユークリッド幾何学」をもとに、定理と証明をひたすら繰り返して論理的に考えることを身につけます。この点はかなりオリジナリティーがあるかもしれません。

武蔵中学校 オリジナルテキスト

武蔵中学校 オリジナルテキスト

「なぜそうなるのか」をとことん考える

新井先生 幾何のテキストは冒頭から難しいので、どのようにわかりやすく教えるか、そこは教員の“味付け”次第です。行間を読み取るように促したり、教員がかみ砕いて算数の延長から派生して教えたり、教員の裁量に任されています。
中1は、数学に興味・関心が高い生徒が多いので、彼らのやる気に応えるように意識しています。中には苦手な生徒もいますが、数学に対する先入観をリセットして、純粋にテキストを読み込みます。

春山先生 生徒の体験談として多いのが、「小学生のときに『ただ式や解法を覚えればいい』と言われるのがいやだった」ということです。よくわからないまま、機械的に使うことに納得できないのです。教員が一方的に教え込むのではなく、生徒の疑問を大切にして、「なぜそうなのか」を考える時間をできるだけ設けるようにしています。
中1の履修範囲では理解できないこともあります。「上の学年で習うことを使わなければいけないから」というように、理解できない理由は極力答えるようにしています。

新井先生 公式1つ取っても、「こうだから」では生徒は納得しません。丸暗記せず、なぜこのような公式になっているのかしっかり考えます。疑問を放っておかずしっかり考えるのが、本校の生徒の特徴ではないかと思います。

武蔵中学校 テニスコート

武蔵中学校 テニスコート

生徒同士が論じ合うのがいつもの光景

授業の様子はどのような感じでしょうか。

新井先生 こちらが促さなくても生徒が自発的に発言してにぎやかです。

友利先生 中3までにぎやかですね。

春山先生 うるさくなりすぎないようにするのが大変ですね。生徒同士であれこれ論じ合えるというのは楽しいのではないでしょうか。

新井先生 こちらが答えを教えるのではなく、生徒たちが間違いを発見し解決するように、教員は見守り役に徹しています。
発言を先走る生徒には、他の生徒が考える機会を失わないように、「ちょっと待ってね」と言います。自分から発言しない生徒には、表情から「わかった」と読み取ることができれば発言してもらいます。

春山先生 生徒に「与える」ことはあまりしていないように思います。数学が得意な生徒を伸ばすには、与えすぎないことが大事かもしれません。興味・関心が高い生徒は自分でどんどん学び進んでいきます。
生徒が持ち込んでくるのはすぐヒントを出せるような問題ではなく、しばしば一緒に長い時間考えることもあります。上下関係というより対等な関係で接しています。

論理的思考力を学校生活でも生かす

新井先生 「知っている」「わかる」「できる」はそれぞれ違います。「できる」ところまで昇華させるのは容易ではありません。問題集や参考書を見て「わかった」つもりになっても、それは「できる」とは違います。数学の問題は、最初から最後まできちんと説明できて初めて「できた」と言えるのだと、各教員が日頃、口を酸っぱくして言っています。
数学を通して養った論理的思考力は、部活動や学校行事など普段の学校生活にも生かされます。

学校行事の多くは生徒主体です。上級生は教員を納得させないと物事が進みません。どのように説明すれば教員が納得するか考えを巡らせてきます。こちらも頭ごなしには言いません。まず生徒の話を聞いて、ダメな場合はなぜダメなのか、問題点を洗い出し、お互いの要望をすり合わせます。また、論理的思考が十分ではない下級生とのコミュニケーションはいいトレーニングになります。うまく伝えられなければ「できる」レベルに達していなかったことになります。

武蔵中学校 やぎ小屋

武蔵中学校 やぎ小屋

現実社会の課題に立ち向かえる思考力を養う

中高6年間で身につけてもらいたい「数学の力」とは何ですか。

友利先生 受験数学で終わってほしくないですね。東大の過去問が解けるからそれでいいではなく、大学で学ぶ数学や世界的な数学理論に触れてみようという高い志を持って取り組んでもらいたいと思います。

春山先生 「考える」ことをあきらめないでほしいですね。生徒によく言うのは、「数学は答えがある問題を解くけれど、世の中の課題は答えがないことがほとんどだ」ということです。「それなら数学をやる意味がない」と言う生徒もいますが、答えがある問題で訓練しなければ、答えのない問題を考えることはできません。
現実の課題は、このケースはどうなるのか、場合分けをしながら考えることがあるでしょう。合理的に考える訓練は、どんな進路の生徒にも将来役に立つはずです。難しい課題に直面しても、何とかして解決策を見つけるための思考力を身につけてもらいたいと思っています。

インタビュー3/3

武蔵中学校
武蔵中学校1922年に日本で最初の私立七年制高校として創立され、2022年に創立百周年を迎える。次の百年に向け、「学びの水脈と対話の杜(もり)」をコンセプトに校舎新改築を行い、また、第二外国語必修や国外研修制度に加え、REDプログラムの実施など、グローバル人材育成を加速させている。武蔵学園キャンパスには、大学、高校・中学があり、中央を横切るように小川(濯川(すすぎがわ))が流れていて、濯川の南側を高校・中学が使用している。また、学園全体で使用するものとして大講堂があり、大学図書館も高中生が使える施設となっている。自然豊かで、落ちついた学習環境の中で学園生活を送ることができるキャンパスだ。
社会で必要とされる本当の学力である、対象を自分自身で選び、考え、楽しみ、追究する力を育てる。そのために「本物」に触れることを重要にし、理科の授業における様々な実験、社会・国語の授業での資料の読みこなし、山上学校、民泊実習、天文実習、地学巡検などの校外実習で、生徒たちは自然に「本物」と対峙する。記念祭・体育祭・強歩大会、国外研修での留学経験、課外活動での先輩・後輩との繋がりから、授業では学び得ないことも学ぶ。国内・海外における校外活動チャレンジ奨励制度を使って海外のプログラムに参加したり、現地調査での研究成果を発表する生徒もいる。
志望大学・学部の選定にあたっては、生徒本人が自分の将来を見据えて必要な情報を自ら集め、主体的に考えて判断することが大切、としている。進路指導委員会を設けて、生徒本人が判断するための支援をしている。中3以上を主な対象とした進路ガイダンスでは、社会の第一線で活躍している卒業生を毎年多く招き、興味深いエピソードを交えた仕事の内容や意義を直接聴く機会を設けている。その職業に就くために必要な準備や心構えに関するアドバイスを受けることもできる。
クラブ活動への参加は自由だが、ほとんどの生徒が部・同好会に参加している。文化部では中学生・高校生が一緒に活動し、運動部は部によって活動を別に行っているところもある。文化部、運動部とも活動は盛んで対外的にも多くの成果をあげている。クラブ活動を通した先輩・後輩の繋がりは卒業後も太い絆となって一人ひとりの財産となっている。またクラブ活動だけでなく、代表委員会の活動に活躍の場を求める生徒もおり、そのような生徒が中心となって、記念祭・体育祭・強歩大会・美化委員会・図書委員会・報道班・ 放送班の活動を支えている。