出題校にインタビュー!
武蔵中学校
2020年05月掲載
武蔵中学校の算数におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。
1.「5」という数の特殊性に注目する
インタビュー1/3
「どうなる?」という教員の疑問が問題の着想
春山先生 この問題は、ピラミッドのように数が並ぶ「パスカルの三角形※」から着想を得て考えられたものです。
※パスカルの三角形:格段の両端に1を書き、上の段の隣り合う2つの数を足した値を間に書く。これを使えば、(a+b)n の展開公式の係数を簡単に調べることができる(高校数学で履修)
では、足し算ではなくかけ算したらどうなるか。1~5の数字を並べて隣り合う数をかけ算します。
例えば、1 2 3 4 5 なら、2 6 12 20 となり、一の位に0が出てきます。
1 1 3 3 2 ならば、1 3 9 6 となり、一の位に0は出てきません。
さらに、全部かけ合わせるとどうなるかと発想を広げていき、1~5の数の積で一の位が必ず0になる理由を答えさせたらおもしろいかなと思い、このような問題になりました。
このように、「こうしたら、どうなるかな?」という教員たち自身の疑問が出発点だからこそ、オリジナリティーのある問題が作れると思います。
パスカルの三角形
「難しそう。でも、おもしろそう」な問題
正答率はそれぞれいかがでしたか。
友利先生 (問1)の正答率は9割程度でほとんどの受験生が正解できていました。(問2)は6~7割、(問3)が3~4割くらいだったでしょうか。(問3)のように「すべての場合」を挙げる問題は過不足が結構あるのですが、例年に比べ出来具合はよかったように思います。
塾の子どもたちにこの問題の感想を聞くと、「難しそうだけれど、おもしろそう」「やってみたい」という声が多く、没頭して問題を解いていました。
新井先生 九九を習うと、5のかけ算は1の位が5と0だけという5の数字の特殊性が浮かび上がります。このことに気づけば、(問1)はまったく手がつけられないわけではありません。見た目の設定に惑わされてはいけません。
数学科/新井 史彦先生
文章記述は日本語として成立していること
春山先生 (問1)は理由を書く文章記述問題です。小学生の段階では厳密な論理性は求めていません。「偶数」と「5の倍数」というポイントが押さえられていれば、よしとしました。
ただ、日本語の使い方があやしいものが結構ありました。よくあるのが、一文が長すぎて主語と述語の関係がねじれて何が言いたいのかわからない答案です。表現が多少拙くても、日本語の文章として成立することは、最低限クリアしてもらいたいですね。文章記述は書き終えたら一度読み直すようにしましょう。
新井先生 (問1)は感覚的にはわかるけれど、理由を説明するとなると一段ハードルが高くなります。設問文の「少なくとも」というキーワードも小学生には解釈が難しいところです。
文章記述力は入学してから徹底して鍛えますから、こうした問題をおもしろがってくれるお子さんに入学していただきたいと思います。
ストーリーに気づけばスムーズに解ける
春山先生 (問1)~(問3)は、設問の流れ(ストーリー)に乗ると解きやすくなります。
(問1)がわかれば、(問2)の場合分けがしやすくなります。(問2)は、設問の条件からAもBも0点ではありません。(問1)から、どちらかに⑤の球が2個入っていると気づけば、スムーズに解くことができます。また、(問1)と(問2)の場合分けを使えば、(問3)の場合分けが3通りしかないとわかります。
このストーリーに気づけるかどうかによって、問題を解く手間と時間に差がついたのではないかと思います。
友利先生 (問1)、(問2)がヒントになっていることに気づけた受験生は、(問3)が比較的スムーズに解けていました。一方、それぞれが関係性のない問題だととらえた受験生は一から考えることになり、あれも違う、これも違うといろいろな場合分けを試すものの、正解にたどり着けなかったように思います。
春山先生 この問題はストーリーに気づけばスムーズに解けますし、実際そのような解答がありました。この問題の場合は、ストーリーを読み取れていれば簡潔な説明でも正解することができます。
ちなみに、(問3)の間違いとしては、そもそも設問の意図が読み取れていないと思われる解答が一定数ありました。まずはしっかり問題文を読んで、設問の内容を理解してほしいと思います。
数学科/友利 将吾先生
解答用紙は「思考を整理する場」
新井先生 本校の解答用紙のフリースペースが広いのは、「書く」ことを重視しているのはもちろんですが、「なぜ書くのか」ということも受験生に投げかけています。
解答用紙は「思考を整理する場」です。たくさん書いたからといって点数がもらえるわけではありません。あくまで思考の整理のために必要なことを書くようにしましょう。ポイントが抜けていたり、考え方が伝わらなかったりすれば点数をあげられません。そういう答案は実際にあります。
試行錯誤した形跡はあるけれど、正解にたどり着くまでの道筋が見えてなさそうな解答は、点数がもらえないわけですね。
新井先生 どのようにアプローチしたか、受験生の考え方はしっかり見極めています。考え方の方向性が違う解答は見ればわかります。
友利先生 設問の設定を読み違えれば、それらしいことを書いても点数をあげることはできません。問題の設定を正確に読み取る力も必要です。
採点は本当に分かっているかどうかを見極める
採点はどれだけ厳しく見ているのですか。
春山先生 問題によりますが、難易度と採点の厳しさは関係ありません。難易度にかかわらず、本当に分かっているのか、答えを導く過程が正しいかを見極めます。
友利先生 途中の計算を間違えて、たまたま正解と同じ答えになっても、間違えた段階で満点はあげられません。こうしたケースは結構あります。
春山先生 思考が正しい解答は採点者も理解できます。暗算ができる式を多少省いていても、くみ取れるものは許容します。ここで暗算はありえないとか、正解するのに出てくるはずの数字がないなど、見極めるポイントはいくつかあります。
友利先生 計算式だけの解答は、何のための計算式か意図を読み取るのにとても時間がかかります。この数字がどこから出てきたのか、まるで暗号解読のようです。最近は、なぜそう考えるのか、ひと言添えた解答が増えてきました。
武蔵中学校 濯川
インタビュー1/3