シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

出題校にインタビュー!

東京女学館中学校

2020年04月掲載

東京女学館中学校の理科におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。

1.初見の問題で経験力、想像力を測る

インタビュー1/3

競技用車いすは考える楽しさをかき立てる素材

阿部先生 障害者スポーツにおける昨今の用具の進化は目を見張るものがあります。パラアスリートとともに、彼らが使う高機能用具をメディアで目にする機会も増えています。
競技用車いすは一般用とは違いますし、競技によっても形状や機能性が異なります。入試問題ではこの問題の前に陸上競技用の車いすも取り上げています。前輪が前に突き出た3輪になっていることで前傾姿勢をとっても前に倒れず、スピードを出しやすい。テニス用は車輪がハの字に傾いていることで素早くターンできます。
このように競技用車いすは、「どうしてこのようになっているのか?」と考えるきっかけを与える素材ではないかと思い、入試問題に取り入れました。

理科科/阿部 純一先生

理科科/阿部 純一先生

すごい日本人を知って興味・関心を広げる

阿部先生 第1回入試があった2月1日、全豪オープンテニス車いすの部において、男子シングルスは国枝慎吾選手が、女子シングルスは上地結衣選手が揃って優勝しました。翌日、この快挙を報じた朝刊を見た受験生がいたら、この問題を連想したのではないでしょうか。
世界的に活躍する日本人選手のニュースに触れることで、日本のことに興味を持ってもらいたいですね。

作問にあたり教員自ら競技用車いすを体験

阿部先生 本校では中1の福祉体験学習として車いす体験を行っています。とはいえ、競技用車いすを見たこと・乗ったことがある教員はいません。作問にあたり、パラスポーツのイベントに参加して競技用車いすの見学・試乗をしました。

小関先生 競技用車いすは座り心地がいいものではありません。例えば陸上競技用は、脚を正座のように折りたたんで座らなければならず、非常に疲れる姿勢だと実感しました。

阿部先生 私たちにとってもいろいろな発見がありましたね。

東京女学館中学校 記念講堂

東京女学館中学校 記念講堂

受験生の答えは4つの選択肢ともほぼ同数

正答率はいかがでしたか。

阿部先生 この問題の正答率は約25%でした。もう少し高いと予想していました。実は、この問題を含む物理分野の問題(6問)のうち正答率が一番低かったのが、この問題でした。これは予想外でした。
「右手は前方に、左手は後方に力を加える」ことから、車輪が反時計回りに回転することはわかるだろうから、選択肢を2つに絞り込めると思っていました。ところが、受験生の答えは4つの選択肢にほぼ均等に分かれました。ということは、時計回りに回転すると考えた受験生がおよそ半数いたことになります。
この問題の「左右反対に力をかけると回転する」ことについて、受験生はまったく触れたことがありません。小学生に力学の知らないことを想像させるのは難しいことなのだと強く感じました。

「こうすれば、こうなる」と想像するのは女子が苦手にしているところです。一方、男子はおもちゃ遊びの中で直感的に別の角度からものを見たり俯瞰したり、想像する経験があります。この問題を男子にも解かせてみたいですね。

東京女学館中学校 図書館

東京女学館中学校 図書館

あらゆる経験や知識を総動員して考える

正解できた受験生はどんな力があると思われますか。

阿部先生 一つは、日常生活での経験が挙げられます。最近は車いす体験を行う小学校が増えてきたと聞いています。どのように力を加えるとどう動くか、経験的にわかっていると考えやすかったかもしれません。
もう一つは、力の向きと動きの関係を想像できることです。一般用では前に進みながら少しずつ方向転換することはあっても、急ターンすることはまずありません。その点は難しいだろうと思っていました。
正解できた受験生は、右手の力の向きと車輪の動き、左手の力の向きと車輪の動きをそれぞれ考えて、全体ではどのような動きになるのか、段階を踏んで考えることができたのではないかと思います。
車輪の動きを想像するのに、受験生はあらゆる知識や経験を総動員したでしょう。知らないことを想像することをおもしろがってもらいたいですし、大事にしたいですね。

東京女学館中学校 授業風景

東京女学館中学校 授業風景

インタビュー1/3

東京女学館中学校・高等学校
東京女学館中学校・高等学校伊藤博文が創立委員長として発足した「女子教育奨励会」が母体となり、1888(明治21)年に設立。建学の精神は「諸外国の人々と対等に交際できる国際性を備えた、知性豊かな気品ある女性の育成」です。インクルーシブ・リーダーシップ(共生し協働する力)を養うために、生徒会、クラブ、さまざまな行事を生徒による実行委員会方式で実施。
「国際学級」は英語に特化したカリキュラムで、実践的な英語力を養成。一般学級でも英語習得を中心とした国際教育を重視。英語や英会話はクラスを2分割します。アメリカ文化研修は、働く女性の職場から家庭まで密着するというユニークな文化交流。さらに、日本の文化にも力を入れ、茶道・華道体験、歌舞伎や能楽の鑑賞、京都・奈良への修学旅行(高2)などを実施。中3の修学旅行は沖縄で、平和や環境問題を学びます。
白のセーラー服に青いリボンの制服は1930(昭和5)年に制定され、「品性を高め、真剣に学ぶ」精神を象徴。中1では60歳以上の卒業生へのインタビューも交えたスクールアイデンティティ学習を実施。体育大会では、17世紀のフランス宮廷ダンス「カドリール」を高3が制服で踊るのが伝統。クラブではオーケストラ、ダンスが人気。茶道部は表千家・裏千家があります。食堂の手作りパン、ソフトクリームは大人気。