シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

出題校にインタビュー!

昭和学院秀英中学校

2020年03月掲載

昭和学院秀英中学校の算数におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。

1.算数でも長めの問題文に対応できる力や自分の考えを言葉で伝える力が必要

インタビュー1/3

順位のつけ方を知らない人が多いと思った

この問題の出題意図からお話いただけますか。

松永先生 この問題を通してオリンピックへの興味が広がってくれれば、という思いを込めて出題しました。普通、複数の種目の成績で順位が決まる場合、それぞれの得点を足し算する、あるいは平均を取るということが多いと思います。ところがスポーツクライミングはかけ算なんですよね。私自身がまずそこにおもしろさを感じて、普通と違うところを受験生はどうとらえるのかな、と思いながら作問しました。

個人的なことですが、私は長年ワンダーフォーゲル部の顧問をやっていて、スポーツクライミングに興味がありました。東京オリンピックの新種目として採用されたので最近はテレビで中継されますが、「スピード」など1つの種目だけなので、複数の種目があることや、どう順位をつけるのかを知らない人が多いのでは?と思ったことがきっかけです。

数学科/松永 直人先生

数学科/松永 直人先生

自分の経験が先に立つとつまずく問題

ポイントが高い人から良い順位がつくと思っている人は、(問1)から正答にはたどりつけないということですよね。

松永先生 そうですね。スポーツクライミングの成績は数字が少ないほどいい、ということと、それぞれの種目の得点を足すのではなく、かけるところが大きな特色です。(問1)のDさんは「スピード」「ボルダリング」の成績はよくないですが、「リード」で1位になり、総合1位になったように、スポーツクライミングには最後の種目で逆転できる醍醐味があるんですよ。その醍醐味も味わってほしいと思いました。

自分の経験が先に立つとつまずく問題ですよね。大人が数人で解いている時に「どういうこと?」と言っている人が実際にいました。

松永先生 水泳の個人メドレーも、平泳ぎが得意な人がレース終盤で逆転することがありますよね。4つの泳法で泳ぐので、選手の得意不得意によって順位が変わるところが私はおもしろいなと思っていますが、タイムは各種目の足し算なんですよね。受験生も国語・算数・理科・社会、4教科の得点の足算で順位を競うという経験をしていると思いますが、かけ算というのはあまり経験していないのではないでしょうか。混乱しているのかなと思った解答が見られました。また、ポイントの高い人から良い順位がつくことが多いと思いますが、スポーツクライミングは逆なんですよね。それが頭に入らず、思い込みで解いていた受験生が少なからずいました。

問題の作り方は統一していない

松永先生 和と積の違いは、高校生あたりで学ぶ相加平均と相乗平均の違いにつながるので、そういうところにも目を向けて出題しました。

それはどういうことですか。

松永先生 そういうものの見方ができると、高校生になって相加平均と相乗平均の違いなどに触れた時にイメージしやすいのかなと思いました。

数学を意識して中学入試の問題を作るということはよくされますか。

嶽本先生 複数の教員で問題づくりを担当しますが、問題の作り方は統一していません。むしろそのほうがいろいろな問題が出てくると思います。私は高校で長く教えているので、大学受験に向けた数学というものを授業の中で数多く扱っています。その中で、形を変えれば中学入試用の問題ができるかもしれない、と思ったものはストックしています。そこから引っ張り出して作問することが多いような気がします。自然と場合の数が多くなります。あとは規則性ですね。ルートを使うことができないので図形の問題づくりは難しいです。

長谷川先生 私も場合の数が多くなりますね。たくさん書き出してもらうことがすごく大事なことだと思っています。積の法則などを使ってくる子はそんなに多くありませんが、使っている子と出会うと嬉しくなります。立体の問題も頑張って作っていますが、今年は採用されませんでした。

嶽本先生 本当に日の目を見ない問題がたくさんあります。でも、数多く作らないと質のいい入試問題にならないので、みんなで協力して問題を作っています。1つの入試で様々な分野から、量と配置ができる限りバランス良くなるように出題を考えています。

昭和学院秀英中学校 校舎

昭和学院秀英中学校 校舎

大学入学共通テストで問われる力を意識

この問題は(問4)まであります。※実際の入試問題はこちら
私たちは最初に(問2)だけを取り上げようと思いました。でも、(問1)で足し算とかけ算の違いを味わうと、(問2)で記述をする時に質が変わるのではないかと思い、(問1)と(問2)を取り上げることにしました。意図としては合っていますか?

松永先生 合っています。大学入学共通テストを踏まえると、長めの問題文に対応できる能力が必要です。記述がなくなる、というような話も出ていますが、(問2)は簡潔に記述できる能力を測りたいという思いがあり、出題しました。

書こうと思えばいろいろ書けそうですが、(問2)の解答用紙のスペースが意外と小さいんですよね。今、おっしゃった「簡潔」に込められた意図があれば教えてください。

嶽本先生 構成したのは私です。解答用紙のスペースは大きくすることもできたのですが、そうすると取り留めのない解答が多くなりそうな気がしたので、1行程度のスペースにしました。1000人以上の小学生が受験しますので、採点基準を細かく設けて採点するのは困難であろうと考えました。そこで何行も書くことができないスペースにし、特徴をコンパクトに伝える技術を問いました。ただ、(問1)で具体的な考察をしたものを記述する受験生が数多く見受けられました。そこからエッセンスを取り出すというか、どんな特徴が見られるかを考察し、それを簡潔に述べてほしかったのですが、そこまで到達した受験生は少なかったです。

昭和学院秀英中学校 図書館

昭和学院秀英中学校 図書館

(問2)の正答率は高くなかった

採点基準について教えてください。

嶽本先生 (問1)の考察だけでは評価対象になりません。そこからエッセンスを抽出し、言葉でいかにコンパクトにまとめるか、というところに焦点を当てて採点しました。エッセンスの部分についてもいくつか基準を設けていて、例えば、ポイントの積は得意種目があると有利であるなど、有利性にかかわることが書かれていれば点数をつけました。

(問2)はどのくらい出来ていましたか。

嶽本先生 正答の割合はそんなに高くありませんでした。合格者層はわりと書けていたように思いますが、具体例に終始している受験生が多かったかなという印象です。白紙はありませんでした。何かしらの文章は書かれているのですが、「(問1)で実験しました」などの文章が大半だったと記憶しています。(問1)はわりとできていましたが、(問2)を考えていく途中でポイントが少ないほど成績が上位になるというルールが反転してしまい、混乱して、(問2)で食い違ってしまった解答も見受けられました。

計算からわかることをいかに言葉にできるかがねらいだった

算数の記述問題というと、答えに至る途中の部分、例えば答えを出すまでの式や図を書かせるものがほとんどだと思いますが、今回の問題は言葉で書かせるということを重視しているように感じました。式や数値を求めるところ以外で測りたい力があったのでしょうか。

嶽本先生 入試ではそれまでの頑張りがわかりません。解答用紙でしか伺いしれないのでこうした問題を出題しましたが、受験生の多くは計算の羅列で肝心なことが伝わってきませんでした。大事なのは文章を節目節目で使って、相手に説明することだと思います。相手に伝わる答案づくりというところでは、こうした記述問題を通して評価できたのではないかと思います。

(問2)は式だけの受験生もいましたか。

嶽本先生 計算結果を書いている受験生はいました。Aさんは何点、Bさんはさんは何点、Cさんは何点。だから順位で並べ替えると足し算だとこうで、かけ算だとこう、という。ただ並べ替えを示しただけの答案はありました。

そこからわかることは書いていないということですね。

嶽本先生 そうです。

算数で考察をするという経験は少ないのかもしれませんね。

嶽本先生 答えが出ると終わりですからね。

理科では仮説→実験→考察をしているわけですから、この問題を算数という科目ではないところで出したら、自然と考察して答案も違っていたかもしれませんね。

嶽本先生 そうかもしれません。

そういう解答は予測されていましたか。

松永先生 具体例が上がってくるだろうなとは思っていました。それをどこまで言葉にできるか、が出題のねらいでした。

昭和学院秀英中学校 合唱コンクール

昭和学院秀英中学校 合唱コンクール

受験生がトレーニングした成果を正当に測りたい

嶽本先生 今年から大問が1問増えました。全部解けるのか、心配していたのですが、一通りの問題を考える時間はあったのかなと思います。

受験生は最後まで解いていましたか。

嶽本先生 そうですね。

かなり難しい問題もありましたが。

嶽本先生 最後の問題の要点は5進法です。もう少し実験・考察がしやすい設定、例えば2進法や3進法で出題してもよかったかなとも思っています。全体を見ながら問題の配置などを調整していく中で、恐らく出来が悪いだろうなと思ったので最後に回しました。受験生がトレーニングを積んできたものが点数になるような問題配置を心がけています。難しい問題でいたずらに時間を費やしてしまうと、正当に力を測れないのではないかと考えました。

インタビュー1/3

昭和学院秀英中学校
昭和学院秀英中学校1940(昭和15)年、市川市で開校した昭和学院。昭和学院秀英高等学校の設立は1983(昭和58)年で、総合教育機関としてさらに社会的に貢献するとともに、地域社会の発展に寄与するため、国際都市・幕張新都心に隣接する現在の地で開校した。その2年後の1985(昭和60)年には中学校を併設。千葉市の文教地区というきわめて恵まれた環境の中で、「質の高い授業」「きめ細やかな進路指導」「豊かな心の育成」という3つの柱をもとに、真の学力を身につける教育を実践している。
もっと学びたくなる、受けたくなる「質の高い授業」、一人ひとりの夢の実現に導く「きめ細やかな進路指導」、明るくのびのびした人格を育む「豊かな心の育成」という実践目標のもと、秀英独自の充実したカリキュラムを、じっくり腰を据えて展開してきた結果、大学進学実績は毎年向上している。進学に特化した特進コースや習熟度別クラスを設けているわけではない。生徒一人ひとりが真の学力を身につけるという、あたりまえのことを、高いレベルで着実に行うことを追求している。
中学校では、毎日の家庭学習を習慣づけるとともに、基礎・基本の確実な習得を図る。毎日の授業はもちろん、「朝自習」や各教科の課題、「補習・講習」などにおいて、わかるまで丁寧に細やかに指導し、応用力を高める高校3年間の学習へとつなげている。高校1年はクラス別授業で実力を養成、高校2年から文系・理系のコース制を導入し、高校3年では受験対策を徹底して、その成果として確かな合格実績をつくられている。
施設としては、物理・化学・生物・総合実験室など、特別教室が充実している。また、全面人工芝グラウンドや太陽熱利用プールなどもある。恵まれた環境のもと、クラブ活動も活発で、剣道・柔道・水泳・新体操などの運動部や文化部のほとんどの部は、中高合同で活動している。また、歌舞伎、文楽、能の鑑賞教室や、各界の第一線で活躍される人の文化講演会などの実施は、生徒の視野を広げて将来の進路を考える機会となっている。