シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

今月の額面広告に掲載されている問題はこれだ!

捜真女学校中学部

2020年02月掲載

捜真女学校中学部【国語】

2019年 捜真女学校中学部入試問題より

次の文章を読んで、後の問いに答えなさい。

 (略)
「さわって愕(おどろ)く」とは、いろいろなものをさわることによって新たな発見をし、自分は触覚の存在を忘れていたことに気づいて「愕く」ことです。みなさんは、本書をひもといて、口絵のページが真っ白なことに気がついて、あれっと思ったかもしれません。そして、なんだか不思議なぶつぶつがあることを知って、あっと愕いたことでしょう。さわってみましたか? その触感はどうでしたか? 何が描かれているか、わかりましたか?
「さわって愕く」とは、また、視覚障害者は、視覚を使わずに、視覚に頼らずに、触覚その他で情報を得、ものごとを感じとっていくことに思い当たり「愕く」ことでもあります。このように触覚に依拠(いきょ)〈注〉して生活している人々を、本書では「触常者」とよぶことにします。

触常者に対し、視覚に依拠して生活する人を本書では「見常者」とよびます。きっと本書をお読みの見常者のみなさんは、「さわって愕く」といわれてもぴんとこないでしょう。もしそうなら、今すぐ、街に出て、いろいろなものにさわってみてください。決して、目でじっくり見てからさわってはいけません。
 (略)

〈注〉頼ること
(広瀬浩二郎・嶺重慎『さわっておどろく!点字・点図がひらく世界』〈岩波書店〉※出題者による省略が一部あります)

鮮魚コーナーで販売されている刺身の写真

この写真は、あるスーパーの鮮魚(せんぎょ)コーナーで販売(はんばい)されている商品です。中には数種類の刺身(さしみ)が入っており、表面はラップでおおわれています。これについて、次の問いに答えなさい。

(問1)この商品には、「見常者」のためのどのような工夫が見られますか。箇条(かじょう)書きで、二点あげなさい。

(問2)この商品について、「触常者」であるスーパーの利用者から、資料Aのような意見が寄せられました。あなたが、もし、このスーパーの店員で、「触常者」のために何か工夫をこらすとしたら、どのような改善案を提案しますか。具体的に答えなさい。ただし、後の資料B・Cを参考にすること。

【資料A】
「触常者」であるスーパーの利用者からの意見
「いつもスーパーを利用している者です。私は視覚に障がいがありますが、たいていの買い物は自分ですることができます。しかし、お刺身だけは、形や鮮度を自分で確認するのが難しく、たまには食べたいと思いながらもなかなか買うことができません。生ものを触って確かめるわけにもいかないし、店員さんもお忙しそうなので、いちいちお呼び立てするのも申し訳なく思います。なにかよい知恵はないかと思い、ご相談したのです。」

【資料B】
スーパーの店長の言葉
「このスーパーをいつも利用してくださっているお客様からのご意見だから、誠意をもってこたえたいですね。ただ、鮮魚コーナー全体のつくりを変えたり、大がかりな機械を導入するなど、巨額の予算を投じることはできません。また、鮮魚コーナーの担当は、今後も従来通り一名で、担当者を増やすことはできません。他の仕事もあるから、担当者が鮮魚コーナーにいつもいる、というわけにもいかないでしょう。」

【資料C】
スーパーの試食に関する規則
■禁止事項
①生もの(刺身、すし等)、生クリームを取りあつかわない。
②その場での製造、加工及び調理に多量の水の使用を必要とするものは取りあつかわない。

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには各中学の「こんなチカラを持った子どもを育てたい」というメッセージが込められています。
では、この捜真女学校中学部の国語の入試問題には、どういうメッセージが込められていたのか、解答・解説と、日能研がこの問題を選んだ理由を見てみましょう。(出題意図とインタビューの公開日については更新情報をご確認ください。)

解答と解説

日能研による解答と解説

解答例

(1)
(学校解答)

  • ラップを用いて中を見えるようにしている。
  • シールを貼り、魚の種類がわかるようにしている。

(2)
(学校解答例)
販売コーナーの前に点字をつけて名前や大きさがわかるようにする。

(その他の解答例)

【例1】その日の刺身パックに入っている刺身の種類、大きさや厚さ、いつどこでとれたものなのかなど、内容物や鮮度についての情報をQRコード等で掲示し、必要な人がスマートフォンの音声読み上げアプリなどで聞けるようにする。

【例2】鮮魚担当者が相談に乗れる時間をあらかじめ決めて視覚障がいのあるお客さんに知らせるか、買い物サポートを予約する制度にして、担当者1名でも対応できるようにする。

解説

資料Aからは「刺身の形や鮮度を確認したい」という希望が読みとれます。しかし、「触って確かめるわけにはいかない」「店員さんをいちいち呼ぶのも申し訳ない」という内容もあるので、「触って確かめる」「その時に店員さんに声をかける」という方法はとれません。

資料Bからは「巨額の予算を投じることはできない」「担当者を増やすことはできない」「担当者がいつもいることはできない」という条件が読みとれます。

資料Cからは「刺身の試食はできない」という条件が読みとれます。

これらの条件を満たしつつ「視覚に障がいのある人が刺身の形や鮮度を確認する」方法を考えて書いてみましょう。人で対応するのか、大がかりではない機械を使って対応するのか、さまざまに考えてみることができます。

日能研がこの問題を選んだ理由

選定理由は、三点です。

まず、「文章での問題提起を、子ども達が身近なことに引きつけて考えられる」点です。読解として文章のどこに何が書いてあるかをとらえるだけで終わらず、「視覚に障がいのある人が、スーパーで売っている刺身の形や鮮度がわからない」という具体的な問題に結びつけ、自分から解決策を考える問題でした。積極的な姿勢が求められます。

次に、「SDGsの取り組みにつながる」点です。視覚に障がいがある人に目を向けて社会のありかたを考えることは、SDGsゴール3「あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進する」をはじめ、ゴール4、9、11、12につながっていきます。

さらに、「現実にあり得るさまざまな条件や制約の中で〈最適解〉をつくりだす問題である」点です。スーパーができることの範囲は限られています。問題が具体的であるからこそ、通りいっぺんで済む「正解」はありません。さまざまな条件の中で具体的な「最適解」をつくり出すことは、現実の課題解決に求められていることです。

以上のことは、これからの時代に求められる力だと言えることから、日能研ではこの問題を□○シリーズに選ぶことにいたしました。