シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

出題校にインタビュー!

栄光学園中学校

2020年01月掲載

栄光学園中学校の算数におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。

1.手を動かしながら粘り強く考えることができる子に入ってきてほしい

インタビュー1/3

問題をよく読み、その内容を理解することが大事

作問の意図からお話いただけますか。

小松先生 中学入試は計算に目が行きがちなので、○×算という計算の仕方を覚えて、当てはめればできてしまう問題はなるべく出したくないと思っています。

古谷先生 受験生が「考えずにはいられない」と思うような問題を作りたいという思いがあります。「なぜそうなるのだろう」「なんとか答えを見つけたい」と思ったり、解けなかった受験生が家に持ち帰って考えてみたくなるような問題を出したいと思っています。

小松先生 また、栄光では「問題をよく読んで、その内容をきちんと理解すること」を大切にしています。この問題も、それを踏まえて作業してもらい、この条件で作業を続けていくとどう変化していくのかということをいろいろと考えて、そこから法則性を見つけてもらいたいと考えました。

古谷先生 手を動かして仕組みを探す、ということですね。

小松先生 さらに(問1)を解くにはかなりの粘り強さが必要となります。続く(問2)(入試問題では小問4)を解くには応用力が必要となります。そういう力も合わせて見られるといいなと思いました。

数学科主任/小松 道治先生

数学科主任/小松 道治先生

多数決のモデルが題材

題材はどのように思いついたのですか。

古谷先生 もとは多数決のモデルのようなものなんです。例えば白は賛成、黒は反対だとしたら、両脇が違う色なら裏返して色を変える、という行為は、自分の両隣の人の話を聞いて、3人で多数決をして多いほうに移る、ということを各所で繰り返していくような状況とも言えます。(問2)では、賛成・反対の人数が同数に近い中でも並びにより結果がまったく異なります。多数決は並びにかなり影響されるのです。

この問題は、中高の数学に直結しているといえますか。

古谷先生 この問題に確率の考え方を加えると、より実際に近いモデルになると思います。

小松先生 段階的に規則性をもって変化していく、ということは、数列などでよく出てきますので、考え方としてはそういうところにつながっているように思います。

算数の問題として考えるとこのような問題になったということですか。

小松先生 そうですね。やはり問題として出すには複雑にしたくないので、単純に表か裏か、ということで、移っていく様子を楽しむような感じの問題にしようと思いました。

栄光学園中学校 校舎

栄光学園中学校 校舎

最も多い時、の出来が今一つだった

採点時に読み取れることはありましたか。

小松先生 最初は単純な作業なので、手をつける受験生はかなり多かったように思います。みんな一生懸命やっていました。作業しながら思考しているうちに、交互になると減っていく、増えていく、ということに気づきます。(問2)は法則性にある程度気づいていないと足掛かりをつかめないので、そこでかなり苦労していた様子が伺えました。最小のほうは比較的考えやすかったようで、0個という解答にたどり着いた受験生は多かったのですが、最大のほうは正解にたどり着けなかった子がかなりいました。最初の配置をどういうふうにすればいいのか。そこまではなんとなくわかっても、一番多くするにはどうするか、というところでかなり苦労したようです。

予想どおりでしたか?

小松先生 最小については、思ったよりもできていました。ただ、最大のほうは苦戦するだろうと思っていました。それはその通りでした。最初の手作業の仕方で間違ってしまうと点数を取れない問題でした。そこはわかって(問1)まではできたとしても、そこから法則性を見つけることができないと(問2)はできません。そういう段階的な力を見るには適当な問題になったと思います。

なぜ、そうなるんだろう、と思わせる問題を作りたい

試験監督はしますか。

小松先生 試験監督は全員で行うことになっています。算数のテストに他の教科の先生がつくこともありますが、試験の後に、どんな様子だったか、という情報共有は行っています。

受験生はこの問題から手をつけていませんでしたか。

小松先生 この問題は試してみないといろいろ見えてこないので、他の問題を一通りやって、余った時間で試したり確かめたりしている子が多かったかなという印象はありますね。手をつけるということでは、比較的ついていたと思います。

栄光学園の算数といえば「楽しい」がキーワード。それは根底にあるのでしょうか。

小松先生 それはありますね。問題を解いていて、なぜ、こうなるんだろう、と思わせる問題。いろいろと条件を変えたらどうなるか。そういうところまで広げられる問題にしたいと思っています。入試の場合、時間の関係で解ききれなかったということもありますからね。受験生が家に帰ってから楽しめるといいと思っています。

栄光学園中学校 校舎内

栄光学園中学校 校舎内

作業ができるスペースは考慮している

問題や解答用紙を作る時に意識していることはありますか。

小松先生 作業ができるスペースはなるべく取りたいと思っています。一応、シミュレーションというか、この問題ではこのくらいのスペースが必要かなというのは考えてスペース取りをしています。今回も数を増やしたり、条件をいろいろ変えたりすることも考えたのですが、スペース上の問題で適当なところで収めました。
(問2)はもう少しスペースがあれば考えやすかったかもしれませんが、コマの色が連続するところがどのくらいあると残りはどうなるか、というところに目が向けば、それほどスペースが多くなくても対応できるのではないかと考えて、このくらいのスペースになりました。

問題の順番はどのように決めているのですか。

小松先生 最初は順番ありきではありません。まずはいい問題を作りましょう、ということで知恵を絞って問題を出します。最終的には問題の順番やバランス、難易度も含めて調整をした上で決まっていきます。

教員の想定を超えていく生徒たち

授業で入試問題を取り上げる場面はありますか。

小松先生 入学後に、授業の中で聞くことはあります。こちらは解き方をある程度想定して出題していますが、「どんなふうに解いた?」と聞くと、こんなやり方でもできたんだ、と思うような方法を言ってくれる子がいます。そういう場面に遭遇すると、我々の想定以上のことをやる生徒がいるんだな、ということを実感します。

古谷先生 入試と少し離れてしまうかもしれませんが、今、担当している中3の生徒の中に、パズルを作って出し合っている子たちがいます。それが段々エスカレートして、自作のパズルが絶対に解けるアルゴリズムのようなものを作り出して、それをコンピューターでプログラミングして、ソフトを作ってしまいました。考えて解けた!で終わらずに、法則を見つけるなど、深堀りしていくことが好きな生徒は多いと思います。

栄光学園中学校 トロフィー

栄光学園中学校 トロフィー

インタビュー1/3

栄光学園中学校
栄光学園中学校1947(昭和22)年、イエズス会運営の中学・高校として横須賀に創設。初代校長はグスタフ・フォス師。1957年に設立母体の上智大学から独立、学校法人栄光学園となり、1964年現校地に移転する。当初はしつけの厳しさで知られたが、1970年代からは進学校として一躍全国的に知られるようになった。
キリスト教的価値観に基礎を置き、「生徒一人ひとりが人生の意味を深く探り、人間社会の一員として神から与えられた天分を十全に発達させ、より人間的な社会の建設に貢献する人間に成長するよう助成すること」を教育理念とする。ただし正課として宗教の授業を設けたり、礼拝を義務付けたりすることはない。6年間完全中高一貫教育、通学時間の制限などを堅持している。
2017年、新校舎が完成した。低層2階建てで、2階部分は木造校舎。教室から容易に大地へ降りられ、人が自由に集えるスペースを設けられていることで、仲間や先生との交流を自然に育める環境づくりがされている。豊かな自然環境を生かしながら、先進のコンセプトを取り入れた「みらいの学校」である。約11万m2の校地は、首都圏私立中学校のなかでも有数の広さ。トラックフィールド、サッカーグラウンド、テニスコート、バスケットコート、野球場などを備える。そのほか、コンピュータルーム、聖堂、図書館などがある。丹沢札掛には山小屋がある。
中高6年間を初級・中級・上級の3ブロックに分け、各発達段階にふさわしい指導目標を掲げ、適切な指導方法を工夫しつつ教育を実践。決して「進学校ではない」としながらも、カリキュラムの内容はレベルが高く、進度も速い。英語は『ニュートレジャー』を使用。初級では日本人教師と外国人教師のペアで行う授業があり、中学2年~高校2年ではGTECの受験を義務付けている。高校1年では週1時間、必修選択の「ゼミナール」があり、中・韓・スペイン語の講座、マジック研究、料理研究、プログラミングなど、授業では扱わないテーマの講座も行っている。その中には、毎週異なるOBを招き、多角的に話を聞く講座もあり、放課後は他学年も聴講ができる。
イエズス会運営の学校独自の「中間体操」のほか、30kmを踏破する「歩く大会」など体を鍛える行事が多い。大船駅からの、通称「栄光坂」を通学することも鍛練の後押しになっているようだ。「愛の運動」と呼ばれるボランティア活動では養護施設などへの訪問や、クリスマスの施設招待など、カトリック校らしい多岐にわたる運動を実践。
課外活動としての聖書研究会への積極的な参加も呼びかける。フィリピンの姉妹校との交流は単なる語学研修ではなく、アジアの国に住む人とのふれあいから、自らを振り返り、成長する機会としている。また、イエズス会の運営する大学のボストンカレッジで、アメリカの高校生とともに学ぶカトリック・リーダー研修もある。クラブ活動は原則として全員参加。活動は週2回だが、工夫して熱心に活動している。