シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

出題校にインタビュー!

森村学園中等部

2019年12月掲載

森村学園中等部の理科におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。

2.理科に『言語技術』を持ち込むことで得られる成果は大きい。

インタビュー2/3

計算能力よりもどう式を立てるかを重視している

理科好きな子がたくさん入ってきていますか。

上野先生 残念ながらそういうわけではないですね。入試の結果は理科だけで決まるわけじゃないですからね。ただ、こういう子に来てほしいというメッセージは送り続けることが必要だと思っています。

いろいろな力を試せる入試問題だと思いますが、計算問題は少ないように感じます。それには意図があるのでしょうか。

上野先生 結果として少なくなっているように思います。

谷川先生 そうですね。他の学校に比べたら少ないかもしれないですね。計算して出すということを求めていないわけではありませんが、問題を作る過程で「それじゃつまらない」「考える途中を聞きたいよね」となってしまうので、計算が少ないのかもしれません。

上野先生 小学生くらいの段階だと、計算力の差が結果の差になってくることもありますよね。求めたいのは計算力よりも、どういう考え方で式を立てるか、です。計算問題をたくさん出すということは計算力のある人が高い得点になるということにつながっていくので、ある程度抑えられているということはありますね。

谷川先生 理科だけ突出してできる子は滅多にいません。

上野先生 算数と理科はいいけど、国語はちょっと…というケースはあるようですが。

谷川先生 理科で高い得点の子は、概ね他の教科も高い得点です。

理科/谷川 毅成先生

理科/谷川 毅成先生

日常生活の中で知っていてほしい情報を問うこともある

総合的に力を見られる問題なのかもしれませんね。それは意図によるものですか。それとも処理能力を問う計算問題を排除したからそうなったのでしょうか。

上野先生 そこはあまり意図していませんが、計算を全く出していないわけではなくて、例えばてこの問題、天秤の問題など、複雑な計算を必要とする問題は出していると思います。

計算問題よりも出したい問題がある、ということなんですね。

上野先生 そうですね。

子ども達のどんな力を見たいと考えていますか。

谷川先生 論理的に考えられるか、日常生活に関連づけて考えられるか。この2点が作問検討の時によく出て来るキーワードです。

上野先生 ですから問題を解いていて解けない時に、2つ3つ前の小問を見てみると、そこに種がまかれている、ということがよくあります。その型にならって解くと解けるケースがあるということですね。また、日常生活では、例えば災害のニュースが出た時に防災も含めていろいろな情報が飛び交います。そういうものも出題しています。そういう話は理科の教科書にすべて網羅されているわけではありませんが、普段、生活を送る中で私たちが把握していなければいけないことです。そういうものも問題の中に含めることがあります。

谷川先生 そういうところに興味関心を持ってくれる子がほしいというポリシーはありますよね。

森村学園中等部 理科見学レポート

森村学園中等部 理科見学レポート

特色ある教育『言語技術』を理科に活用

中高6年間の理科の学びで実験以外に重視していることはありますか。

上野先生 「論理性をきちんとしなさい」ということはかなり強く言ってます。理科の場合は自然現象をとらえる科目ですから、実験や観察から何が言えるか、ということを明確にしなければいけません。それを筋道立てて述べるには、何が事実なのか。その中から何が考えられるか。どういう結論を導き出せるのか。その流れをきちんと作り上げることが重要です。

本校には『言語技術』という授業があって、私はその授業を担当しています。去年までは中3、今年は中1を教えています。その授業の中で小論文の書き方を学びます。そのノウハウを理科の教科の中に盛り込んでいます。「ある現象について自分はこう考えている、それは、この実験の結果が根拠である」という型に、根拠を実験から持ってくるということを、今、徹底的に教えています。今年から始めて、まだ試験的な段階ですが、少しずつ全体の中に広がりつつあります。

森村学園中等部 教室

森村学園中等部 教室

レポートの質が上がり採点しやすくなった

谷川先生 『言語技術』を学んでいる学年と学んでいない学年を同じ高2で見た時に、レポートの読みやすさが全く違います。『言語技術』を学んだ学年のほうがすごく読みやすいのです。

上野先生 生徒の言いたいことがわかりやすく記述されている、つまり採点しやすい、ということになります。

そんなに違うのですね。

谷川先生 以前は10分、20分かかりましたが、言語技術の型を取り入れてからはそこまで時間を必要としません。型の中に理科的な要素が盛り込まれているかどうかをチェックするだけなので、とても採点が楽になりました。

『言語技術』の授業を取り入れたのはいつ頃ですか。

谷川先生 今、20歳の代が1年目なので、8年くらい前ですね。その子たちの時からレポートを出させると読みやすいと感じていました。

『言語技術』は中1から中3を対象に週1回実施

『言語技術』の授業はどのくらいの頻度で行っているのですか。

上野先生 中1から中3を対象に、週に1回行っています。中3になると、型が身について、「それを使って書きなさい」と言うだけですみます。ですから「理科のレポートも言語技術を使って書くときれいに書ける」ということを授業で話して、「この実験の結果はこうである」「その結果から言えることはこうである」など、少し指導をすると、2回目の実験あたりからある程度書けるようになります。

谷川先生 『理科×言語技術』は森村の理科の特徴といっても過言ではないと思います。理科の中でも生きていますね。

上野先生 ですから、実験をどう読み解くか、ということもきちんと教えています。結論までの、まさに中間の部分ですよね。そこも普段の授業できちんとやっています。

理科以外の教科でもそうした取り組みを行っているのでしょうか。

上野先生 理科は他の教科に先行して試行的に始めています。

森村学園中等部 生徒作品

森村学園中等部 生徒作品

授業でも結論を最初に話す

言語技術の型を学ぶと思考の過程も型に寄っていきますか。

上野先生 その通りです。そこも狙いの1つです。ですから授業でも「今日の授業はこういうトピック(主題)でやるよ」「こういうことを学ぶんだけど、これをやるとこうなるからね」と、説明をしてから始めています。授業のポイントになるのは、どのような根拠で結論を支えていくか、ということ。最終的に「だから最初に話した主題が言えるんだよね」というところに落とし込んでいくようにしています。ついつい推理小説のように「さてどうなるでしょうか」という流れで授業をしてみたくなるのですが、生徒に興味がないとついて来ないので、最初に犯人を教えてしまうのです。時々、そのトピックに対してどう説明するかを書かせると、おもしろいようにきちんと書いてきます。

実験で仮定を証明することは言語の構造と同じ

実験を検証する際、仮定はしますか。

上野先生 仮定する時とそうでない時を明確に分けています。仮定をする時は、実験に臨む時にまず仮定を自分たちで考えさせて、どうなるかを予想させています。そうすることにより実験の目的は何か、目的と結果から自分の仮定が合っているのか、間違っているのかがわかり、この実験から言いたいことは何なのかかが見えてきます。

仮定は、ある程度学年が上がってからでないと難しいです。高等部生が自分たちでいろいろ考えて実験をやる期間があるのですが、そこでも自分たちで仮定をして進めています。「そうだ、これだ」と思えば、そのことを証明するために何が必要かを考え、それをサポートする実験が出てきます。それは言語の構造と同じになります。だから少し年齢が上がらないと難しいのです。

森村学園高等部 実験レポート

森村学園高等部 実験レポート

インタビュー2/3

森村学園中等部
森村学園中等部大実業家であり、立志伝中の人物でもある森村市左衛門は、日本を担う人材育成の必要性を痛感。「独立自営」を建学の精神として掲げ、「社会の役に立つ人をつくる学校に」と1910(明治43)年、港区高輪に自宅の庭を開放し幼稚園と小学校を創立。幾多の星霜を経て78(昭和53)年現在地へ。
総面積8万m2の広大な緑地に、幼稚園・初・中・高等部がグランドを囲むように建つ。2010年に現在の校舎が完成。パソコン教室やホールなど、最先端の設備で一貫教育をより充実させる。図書館の蔵書は5万5千冊、自習室のパソコンでは予備校のサテライト授業が受講できる。
校訓は創立者自身が実業家人生のなかで学んだ「正直・親切・勤勉」。人間を磨き、学力や体力、情操を養いながら、真の国際人を目指して、幼稚園から高等部まで、それぞれの年齢に応じた教育を展開している。明るく品の良い家族的な雰囲気が情操教育の基盤。家庭とも連携を保ちながら、一人ひとりを把握した教師が、進路・進学指導にあたっている。
2019年度から導入した「未来志向型教育」は、「言語技術」を基礎に、「外国語(英語)教育」「課題解決(PBL)型授業」「ICT環境」の3要素から成り立つ独自の教育システム。予測不可能な未来社会をたくましく生き抜くために、教養ある自己表現を獲得し、自国はもとより国際社会に貢献する人財の育成を目指す。
「言語技術(Language Arts)」とは、世界標準の母語教育で、その特徴は、言語を用いる様々な手法を生徒の参加と作文によって指導する点である。それは、対話・物語・説明・論証に分類され、「問答ゲーム」を通して型に則って発信する方法を指導した後、大量の質問を浴びさせて対象を分析的に捉え、自ら発問する能力を獲得させている。これを基盤に全ての授業がアクティブラーニング(思考し発信する形式)で行われる。森村学園の言語技術は、「つくば言語技術教育研究所」と提携している。
「外国語(英語)教育」の特徴は、6年間の英語学習を2年ずつ段階的にアプローチを発展させながら「聞く・話す・読む・書く」の4技能の習得を目指すことにある。中1・中2では、英語を使えるようになることを目指す「コミュニカティブアプローチ」、中3・高1からは、より論理的に英語で考え、意見を述べる力を育む「ロジカルアプローチ」、高2・高3では、批判的・分析的に物事を捉え、自らの考えを発信でき、創造的で知的な英語の獲得を目指す「クリティカル・アナリティカルアプローチ」が指導の柱になる。2020年度の中1から「ルート別授業」が始まった。
入学前の英語学習歴に配慮し、海外製テキストを用いて「オールイイングリッシュ」で学ぶルートと、ニュートレジャーを用いて基礎から学習するルートを選択できる。さらに英語に磨きをかけたい生徒は、放課後に「イマージョンクラス」に参加でき、また海外大学を目指す高等部生用の講習もある。
ICTの利用環境整備を着実に進められている。2in1PCを授業に取り入れ、Microsoft(Teams)をハブとした連絡事項を一元化し、授業動画の閲覧や課題等の配布回収、データ共有、PBL型授業、プレゼンテーション、オンライン面談等において活用している。