シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

出題校にインタビュー!

大妻中学校

2019年11月掲載

大妻中学校の社会におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。

3.全体的・包括的な感覚を身につける

インタビュー3/3

「まとめワーク」と「小テスト」で説明力を鍛える

どんな授業をされているのですか。

照山先生 今年度から、中1は単元の最後の授業に「まとめワーク」と「小テスト」を実施しています。
まとめワークのプリントは、まず2分で学習したことを自分なりにまとめて、次の2分は隣同士で説明し合います。知識の確認というよりは、知識を使って説明できることを目指しています。その後、教員が単元の振り返りの説明を10分行います。生徒はメモを取るなどして足りないところを補足します。

最後に、10分強で完全な説明記述の小テストを行います。何を見て書いても構いませんが、書き写しただけでは説明になりません。内容を組み立てて自分の言葉で説明できるようにします。
例えば、ヨーロッパ州の特徴のまとめワークは、3つの気候、国境とEU統合、3つの農業、キリスト教の3宗派と分布についてまとめて、小テストは「ヨーロッパとはどんな地域か」を説明します。

まとめワークで単元の内容をまとめるコツがつかめますね。

長谷先生 中1からこの作業が当たり前になると、高校に上がってから楽しみです。

照山先生 中2も違う形式で、考える・説明することを主体としたワークを行っていますし、他教科も相手に説明する力を養っています。いろいろな教科で取り組むことでの相乗効果も期待できると思います。

大妻中学校 「まとめワーク」と「小テスト」

大妻中学校 「まとめワーク」と「小テスト」

説明は安易に「○○の影響」ですませない

照山先生 中1は話すことを恥ずかしがる生徒が結構います。「話すことに慣れる」ことが説明の第一段階だと思って、多少の説明不足は多めに見ています。
生徒はよく「○○の影響でそうなった」と言いますが、私は「その影響ってどういうこと?」と突っ込みます。「影響は、影響です!」という反論には、「説明になっていないよ」「それじゃ小学生には伝わらないよ」と指摘すると気づきます。

小テストは評価を書き込まずに返却します。評価をつけると、生徒は「どうすればよい評価がもらえるか」に終始してしまい、肝心の考えることが二の次になってしまうからです。減点法では生徒がやる気をなくしてしまうので、何かしら書けば点数をあげますし、要点を押さえていれば加点します。
こうしたことを繰り返して、覚えた知識を活用する習慣を6年かけて身につけたいと思っています。

ペアワークなら授業内に何度も発言できる

照山先生 まとめワークのプリントを見た中1の学年主任(英語科)から、「英語のペアワークに似ているね」と言われました。

長谷先生 英語科の教員から教わったのですが、同じテーマをペアAとペアBで別の相手と話すと、違う結論に至ります。すると、いろいろな考え方があることに自然に気づくことができます。
話してみて初めて理解できたかどうかがわかりますし、説明できれば自信になります。1時間の授業でクラス40人全員に発表させるのは不可能ですが、ペアワークなら授業内で何度も話をすることができます。

大妻中学校 先生

大妻中学校 先生

高校の内容を平易に中学に下ろし理解を助ける

照山先生 高校生が学習する内容を、表現を平易にして中学生向けに教えると、中学で学ぶ内容がよりわかりやすくなることがあります。
例えば「熱帯」は、中学の教科書は「一年中気温が高い」としか載っていませんが、高校の教科書には「最も寒い月の平均気温が18℃以上」という定義が載っています。18℃は暖房時の設定温度の目安です。漠然とした熱帯のイメージが、数字や実体験と結びつくと具体的につかめるようになります。
このように高校の内容を、形を変えて中学で学ぶことで理解を深められるのは、中学生と高校生を教えている中高一貫校の長所だと思います。

中1にヨーロッパ州の単元の始めにヨーロッパのイメージを聞いたところ、各クラスに「テロ」を挙げた生徒がいました。文化の華やかさなどプラスのイメージだけでなくマイナスのイメージを抱いているのは予想外でした。
最近、キリスト教徒が多いヨーロッパでイスラム教徒が増えています。倫理の教員に相談して高校の内容をかみ砕いて、中1に両者の自由と平等のとらえ方の違いなどを説明し、共生するにはどうすればいいかと投げかけました。教科書に載っていることだけで終わりにせず現実世界のことにも触れるようにしています。

授業では教科書とは違う現実も紹介

照山先生 人口増加という世界的な問題に対し、アフリカの急激な人口増加を食い止めようというのが多数派の意見です。これに反論したナイジェリアの経済学者のインタビュー記事を、高3の授業で紹介し、彼の意見の根拠を考えてもらいました。
教員自身も広く高くアンテナを張って情報収集に努め、世の中の動きを紹介して教科書に載っていないところを補って世の中と結びつけるように心がけています。生徒にはおもしろいと思ってもらえているのではないでしょうか。

長谷先生 少数派の意見に耳を傾けることも大切ですね。知らなければ、多数派の意見に流されて「アフリカの人口増加は問題だ」という一方的な思考に陥ってしまいます。

大妻中学校 ラウンジ内吹き抜け

大妻中学校 ラウンジ内吹き抜け

苦手なことを敬遠しては“時代遅れ”になる

6年間でどんな社会科の力を身につけさせたいと思っていますか。

照山先生 まず、自分で考え、自分の言葉で表現できること。そして、社会人になったときグローバルに活躍できるための土台を養いたいですね。
グローバルというと外国語の能力や外国人との協働がクローズアップされますが、本来の意味は「全体的な」「包括的な」ということ。国籍や世代、性別の違い、障害の有無に関わらず、社会の中で共に生きていくことを指します。社会科の学習を通して、日本のことを理解した上で、世界の国や人々についても理解する力を身につけさせたいと思っています。

女子にありがちなのが、「歴史は物語みたいで好きだけれど、地理や公民はおもしろくない」という考えですが、それでは“時代遅れ”な感覚になってしまう。そうならないように、粘り強く働きかけたいと思っています。

世の中の課題を発見できる目を磨く

照山先生 また、AI(人工知能)に使われるのではなく、使いこなす力を育てたいですね。それにはAIを使って何をするか、社会の問題を見つける力、世の中で求められていることに気づく力が必要です。AIの生かし方を決めるのは人間です。今、世の中でどんなことが起こって、何が問題なのかということに敏感でなければなりません。

世の中に関心を持ち、アンテナを高く張っていろいろな情報を収集できるように、授業でも世の中の出来事を授業の内容と関連づけて教えています。教科書に書いてあることと現実社会とのギャップについても取り上げて、生徒たちに刺激を与えたいと思っています。

大妻中学校 図書室

大妻中学校 図書室

インタビュー3/3

大妻中学校
大妻中学校1908年に大妻コタカが創立した家塾が前身。校訓『恥を知れ』は、自分自身を戒める言葉。自律と自立を大事に、「リーダーシップを持って活躍できる品性を兼ね備えた教養ある女性」の育成に取り組む。創立からの理念と共に、時代の要請に応える教育を大切にしている。
6年間を中学1年、2年の「基礎力養成期」、中学3年、高校1年の「充実期」、高校2年、3年の「発展期」の3つに分け、学習内容を効率的に編成して、生徒の幅広い進路に対応する。
「基礎力養成期」では、安心できる環境の中で、自己肯定感を持ち、目標に向かって頑張ることのできる集団へと育てることを目指す。「充実期」では、「働くこと」「学ぶこと」の意味を考え、高校進学に向けて意識を高めていく。自分らしい生き方とは何かなど、将来の職業や社会への貢献などについて考える。「発展期」では、自分の将来像をより明確化し、具体的な進路を探っていく。「問題解決能力」「自己表現力」「発信力」を強化して、具体的な進路の決定と目標達成へ向かっていく。内部進学率は2~3%で、卒業生の大半が他大学へ進学する進学校として定着している。
また、クラブ活動や行事も盛んに行われていて、書道、マンドリン、バトントワリングなど、全国大会で活躍する部もある。袴姿にはちまきの応援団も登場する体育祭、中学生による研究発表、各部による発表、舞台演技など、全校で盛り上がる文化祭、イギリス、アメリカ、オーストラリアへの海外研修や、情操教育の一環としての芸術鑑賞など多くの行事がある。
教員と生徒との距離が近く、職員室前のラウンジは吹き抜けになっており、話しやすい環境がある。また、担任と生徒との1対1の面接週間というのもある。