シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

出題校にインタビュー!

大妻多摩中学校

2019年09月掲載

大妻多摩中学校の社会におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。

3.裏付けのある意見を持つことが当たり前になるように考察力を深めよう。

インタビュー3/3

知的好奇心が学びの幅を広げる

森谷先生 生徒を見ていると、知的好奇心のある生徒、普段からいろいろなニュースにアンテナを張っている生徒は、授業が終わった後に質問をしてきます。東南アジアの話をすると、その後、「何語を話すのですか」「どんな食べ物を食べることが多いのですか」などと聞いてきます。そういう生徒がいると、教科書の中の狭い知識にとどまらず、自分が実際にそういう場所へ行ったり、その国の人と話をしたりする時に、会話が発展し、人間性を広げることにつながると思います。

幸い学校が国際教育のプロジェクトに力を入れていて、(地理に関しては)いろいろな国への関心が増しているように思います。どこにあるのかな、どういう地域なのかなという関心が、以前よりも浸透し深まっているのはありがたい傾向ですね。

大妻多摩中学校 図書館

大妻多摩中学校 図書館

中3の社会総合で企画力やプレゼン力を鍛える授業を実施

先生方はそれぞれの専門を超えてつながりを持っていますか。

海野先生 それを反映する意味で、中3時に「社会総合」という授業を設けています。社会は中1、中2、中3ともに週4時間ずつですが、中3の4時間は公民3時間と社会総合1時間となっています。教員があまり語らない、生徒に考えさせるという視点で10年くらい前から行っています。そのつどテーマは変わっています。修学旅行に向けて平和教育も行いますが、昨年は3月に多摩市活性化プログラムに取り組みました。多摩市を活性化させるための知恵を、市役所の職員になったつもりで考えましょうという授業です。具体的にはタブレットのロイロノートというアプリを使って、4人ずつプレゼンしました。おもしろさもなければいけないので、独自のキャラクターも作り、どう売り出すかを考えました。

公民的なアプローチから広げていったり、インターネット上で「多摩市の現状」というグラフを見つけて、そのグラフから人口分布や未来社会のための分析をしたうえで、改善するためにどうしていくかを考えたものや、多摩の「よこやまの道」を宣伝材料に使ったもの、地図から緑が多いことに気づき、その緑をどう生かすかを考えたものなど、柔軟なアプローチで自分なりの意見を発表してくれておもしろかったです。

森谷先生 私立学校は地域との結びつきが希薄になりがちなので、この多摩市活性化プログラムをきっかけに、生徒が多摩市に目を向けたり、中2の夏休みにボランティア活動に取り組んだりしているので、生徒の視点が発展していくといいなと思っています。

大妻多摩中学校 掲示物

大妻多摩中学校 掲示物

説得力のあるプレゼンをするために必要な力も養成

海野先生 この授業を発展させて、今年の文化祭では5人の有志(現、高校1年生)で地域を活性化させるためのプレゼンテーションを計画しています。「来年、高2になったらもう1回この企画プレゼンをやってみようか」と生徒も言っていて、嬉しく思っています。こうした授業はプロセスも学びになっています。社会に出た時に、企画してプレゼンする力もつくと思います。

生徒には「会社勤めをして、企画を通さなければいけない時に、どんな人を説得しなければいけないか。それは私のようなオジサンなんだよ」と話しています。企画を通すには、世代のギャップを調整する力が不可欠です。それも時々社会総合で扱って学習させています。

以前、LINEやTikTokなど、今流行っているSNSを「私にわかりやすく説明するために文章を考えなさい」という課題に取り組ませたのですが、生徒は私に分かるように伝えることができませんでした。「先生、そんなことも知らないんですか(笑)」とあきれていたので「だからこそギャップ調整力が必要なんだよ」と言いました。「世代が異なる私に、わかるように伝えなければいけない」「上司を説得する時にも大事になるよ」と言うと、生徒はなんとか理解させようと工夫します。そこで社会総合の授業では「80歳のおじいちゃんに説明しなさい」などというお題を出してプレゼンさせたり、グラフや資料を提示してここから何が読み取れるかを考えさせたりしています。

ロイロノートで問題作成

タブレットは全員持っているのですか。

海野先生 中3、高1はWindowsのタブレットを1人1台持っていますが、ほかの学年にはiPadなど学校で所有しているものを貸し出しています。

使えるアプリは同じなので、ロイロノートのカードを使って問題作成などのワークをやります。教科書の指定のページを読み、条件を踏まえて問題を作るというワークです。このワークは生徒のスイッチが一番入りますし、問題を作ることが一番勉強になるので一石二鳥です。生徒は楽しんで取り組んでいます。

今年は中1や高2・高3で行いました。2人1組になり、個々に作った問題を互いに出し合うだけでなく、解説文を作って解説をします。2人の間で解決したら他のペアに出題し、50分の授業時間内に3人に出題することを目標としていますが、生徒は席から離れることに慣れていないので、最初は動きが鈍いんです。殻を破ってほしいので、何年か前にすごく動き回ってくれたクラスがあり、たまたまその時に撮った映像があったので、それを見せています。教科書を相当深く読み込み、自分が理解しないと問題を作ることはできないので、「こんなことしたらテストの平均点が上がっちゃうね」と言う生徒もいました。

「いかに面倒くさいことを楽しく取り組ませるか」というのが、私の授業目標です。大学共通テストの試行調査もそうですが、面倒くさいことが求められます。問題文をすべて読まなければ解けません。それを楽しいと思えれば強みになるので、そういう経験をさせています。

ロイロノートは全教科で使っているのですか。

海野先生 全教科で使っています。ただ、これを使うことが目的ではないので、有効に使える内容であれば取り入れるというスタンスです。

大妻多摩中学校 授業風景

大妻多摩中学校 授業風景

調べ学習で自ら学ぶことの素晴らしさを改めて実感

森谷先生 世界地理でも一方的に説明すると限界があるので、興味のある地域(現在はヨーロッパ)を、いくつかグループを作って調べ、発表しています。昨年はパワーポイントを使って発表した生徒もいました。

コンピュータを使って調べ学習をする時におもしろいなと思ったのは、ドイツの歴史を調べている時に「神聖ローマ帝国」という言葉が出てきて「なんだ、それは」と…。知らない言葉にあわてながらも、その言葉も調べて、理解を深めていたことです。そう言う言葉との出会いもいいなと思いました。国調べを進めるうちにいろいろな国があることを知り、教科書に戻った時にヨーロッパの広がりを感じて勉強できたのではないかと思います。一方的に教えられるのと、自分から学ぶのとは全く違うということを、改めて実感しました。

学力の向上には客観的に自己評価できることが重要

海野先生 プレゼンをする時には、事前にルーブリック表を配り評価項目(相手に目線を向けてなかった、わかりやすく説明できていなかった等)を知らせています。生徒は事前に見ているので、その項目を意識しながらプレゼンし、終わった後に自己評価をして提出します。

席を移動してプレゼンする時も評価をするのですか。

海野先生 はい。基本的にルーブリックは自分の評価ですが、相互評価は刺激になるので、取り入れています。ロイロノートの提出箱に入れると、生徒同士はもちろん、私にも送られて管理できるので便利です。

議論のルーブリック表もあって、これも議論をする前に配布します。ルーブリック表に誘導されることを見越して、例えば「意味のない話をしてしまった」など、一番やってしまいそうなことを低い評価にしています。大切なのは、客観的に自己評価ができることです。高い評価を出せばいいというものではありません。勉強で大切なことは自分を客観視できるかだと思います。自分はどこまでできて、どこができなかったのかを認知できることが学力の向上につながるので、折に触れて「メタ認知」という言葉を出して意識させています。

あとで聞くと、生徒は「もう1回やりたい」と言っていました。やってみて、うまくできずにストレスを感じたのでしょう。悔しいという思いは次の学習の意欲になるので、そこをくすぐっていきたいと思います。

大妻多摩中学校 校内

大妻多摩中学校 校内

根拠を持って意見を言える子を育てたい

海野先生 こういう授業をしていると、定期試験の点数を中心に成績をつけている我々は、ある意味甘えていると思います。多面的に見て評価するということでは、体育や音楽の先生のほうが授業の中でしっかり見て評価していると思います。今後は多面的に見て評価するということを意識していかなければならないでしょう。

中学入試に正解のない問題が増えてきているのは、中高の授業が変わってきているからです。なぜ反対か、なぜ賛成か。その根拠を言えるような子に入ってきてほしいと思っています。生徒を見ていると、根拠が弱いのです。社会総合の授業で「ミスコンの是非」を題材に議論した時も、賛成か反対かを聞くとおおむね賛成なのですが、賛成も反対も根拠が弱く、相手を説得できないレベルでした。しっかりとした裏づけができる力を養いたいと思っています。

社会の授業ではありませんが、昨年から高1を対象に、総合的探究の時間で「探究基礎」という授業を設定しています。1クラス(20名)を、さまざまな教科の教員8名で担当し、1年かけて探究活動に取り組みます。テーマを選び、探究して、3学期にパワーポイントで資料を作り、それを使ってプレゼンを行いました。最終目標は論文を書くことです。情報の授業でパワーポイントを学ぶので、パワポで資料を作るのは上手なのですが、生徒は発表にはあまり満足していませんでした。中学校での学びが「探究基礎」で花開くように、していきたいものです。

教科書の内容をしっかり読み込むことから始めよう

受験生にはどのような学習をしてきてほしいですか。

森谷先生 まずは教科書の内容をしっかり読み込んで、理解してきてもらいたいです。文章だけでなく、そこに掲載されている写真、グラフをしっかり読むことを大切にしてほしいですね。ただ演習を繰り返すのではなく、「考えるもと」になるものをしっかりと目で追って、知識として定着させるとともに、応用的なものに対応できる力がつくと素晴らしいでしょう。また、受け身ではなく、主体的に学習する姿勢も大切です。

海野先生 社会の問題は歴史、地理、公民と分かれていますが、理想をいえば分野に分けるのではなく、つながりがあることを意識して学習してほしいです。教科融合ではないですが、これからの学びは、そこが問われると思います。

生徒を見ていると歴史を勉強している時は歴史の引き出ししか使わないので、もったいないなと思います。歴史で明治時代を勉強すると憲法が出てきますが、公民で得た知識はしまい込んだままなのです。小学校低学年の教科書ほど広がりがあります。算数の教科書に前方後円墳などが出てきます。それが当たり前なので、現場では無意識のうちに教科横断型の授業をしていると思います。中学校ではそれが難しく、社会は地理、歴史、公民と分けて教えざるを得ませんが、横断的に学ぶことは中学高校と学びを進めていく上でも非常に大切なことであり、小学生には柔軟に学んできてほしいと思っています。

大妻多摩中学校 図書館

大妻多摩中学校 図書館

インタビュー3/3

大妻多摩中学校
大妻多摩中学校国際化と女性の社会進出が求められる時代を背景に、大妻多摩は「わたしの力を、未来のために」をスローガンとして、「社会と世界に貢献できる女性の育成」を目指している。「世界」を視野に入れた活躍を目指すべく、多彩なプログラムで構成された「英語・国際教育」を実施。
5ラウンドシステムを導入した習熟度別の英語教育から始まり、中学2年生必修でのオーストラリア研修やグローバルインタラクションチャレンジ、約50名が参加可能なターム留学制度、そして海外大学進学説明会など、6年間を系統立てて準備された国際プログラムを実施している。
また、「科学は世界の共通語」という考えのもと、理数教育にも力を入れ、大妻多摩独自の授業である「数学探究」や、立地環境を存分に活かした「理科教育」は生徒に人気の授業だ。
中学生を対象に実施している「理系を知るガイダンス」は東京農工大学と協力して実施しており、理系への好奇心をかき立てている。
2021年度には東京薬科大学と高大連携協定を締結し、理数教育のさらなる発展が期待できる。2023年度には成蹊大学とも高大連携協定を締結。さまざまな交流や連携事業を推進していく予定だ。
大妻多摩のキャンパスは駅徒歩7分に立地している。東京都にありながら自然豊かで広大なキャンパス、5つの理科実験室と3つのCALL教室、森の図書館をイメージした約200席の自習室をもつ図書館、人工芝の大きなグラウンドなど、世界基準で見ても素晴らしい教育環境である。四季を感じることができる広々としたキャンパスは、生徒の心を豊かに育んでいる。
キャンパスには体育館が3つ・グラウンドが3つ・照明付きのテニスコートが6面あり、運動をするにも恵まれた環境で、バトン部・ラクロス部・バレーボール部・バスケットボール部・テニス部などが活発に活動している。
併設大学への推薦制度はあるが、多数の生徒が他大学へ進学している。3割強が理系に進学し、ここ数年は医学部への進学者が増加している。早稲田・慶應・上智など難関大学への進学者も多い。