シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

出題校にインタビュー!

大妻多摩中学校

2019年09月掲載

大妻多摩中学校の社会におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。

2.その場で考えて答えを導き出すことができる力を身につけよう。

インタビュー2/3

基本的な知識と読解力の必要性を感じた

水俣病に関する問題も出ていましたが、これも考えさせる良い問題だなと感じました。

森谷先生 石牟礼道子さんが亡くなられたこともあり、九州の環境問題を出したいと思いました。その中で「苦海浄土」(石牟礼道子著)の中から引用できるものはないかと考えました。四大公害のことは小学生の教科書にも詳しく載っています。そこからもう一歩踏み込んで考えて答えてもらいたいと思い、地図と2つの文章を用意しました。それを参考にして答えなさいという問題でしたが、自分の知識だけで答えている答案が目立ちました。

この問題の解答を見て、基本的な知識も必要ですし、そこから発展していろいろな資料などを自分なりに読み取る力も必要だなと改めて感じました。その両方をリンクして、他の環境問題や、世の中に関心をもったり、当事者意識(自分がどのように関わるか)をもったりできるのではないかと感じました。

大妻多摩中学校 校歌

大妻多摩中学校 校歌

当事者意識を持てば知識に頼らずとも答えを導き出せる

海野先生 「読解力」が大切ですね。「読解力」は国語の授業だけで身につくものではありません。社会科の授業を通じて養成していくこともできると思います。子どもたちにとっては苦痛かもしれませんが、知っていることだけで書くのではなく、AとBの文章から読み取ったこと、地図を見ながら分析したことなどを関連づけて考え、答えを導き出すことが大切です。例えば地図の細かいところにまで目を行き届かせるなど、そういうところにこの問題の楽しさを感じてもらえるといいと思います。

歴史でも、登場人物に関して、丸暗記の知識を答えるのではなく、タイムスリップしてその人の立場に立って考えるということを、入試問題を通じて養ってもらえるといいのではないかと思います。

小学生に「当事者意識を持て」と言っても、公民分野は難しいです。候補者の機会均等、男女参画などと言われても、まだ渦中にいる訳ではないからです。ですから公民はあまり無理な知識を聞くのではなく、基礎基本の範疇で出題するようにしています。

教務部長/海野 秀俊先生

教務部長/海野 秀俊先生

なぜ男女平等が必要なのか。根本から考えて欲しい

森谷先生 候補者男女均等法に賛成か反対かを記述する問題を出題しましたが、大部分が賛成の立場で書かれたものでした。「男女平等のために女性を活躍させるべき」だけではなく、なぜ男女平等なのか、というところを明確にしてほしいと思いました。「女性の意見が反映される」「女性あるいは男女平等の視点が必要」など、女性が苦労している立場などに触れていた答案はいくつかありましたが、それでも男女平等の表面的な説明で終わってしまっていたので、もう少し踏み込んでほしかったかなと思いました。

反対の意見も少なからずありましたが、その中にいくつかあったのが「実力のある人を候補にすべき」という意見でした。また、「無理に増やすよりも、まずは立候補しやすい環境を整えるべきだ」という意見は秀逸でした。「世の中をよく見ている解答だな」と思いました。女子校でもありますし、ジェンダー的な問題に中高生の関心は高いので、さらに踏み込んで考えていけるような機会を授業でも増やしています。

社会科を学ぶのではなく社会科で学ぶ時代

海野先生 時事問題は、暗記した知識で解ける問題にはしたくないと思っています。「社会科を学ぶ」ではなく「社会科で学ぶ」。「社会科を教える」でなく「社会科で教える」。我々がそういう意識で取り組まないといけないと思います。全員がこの先、社会科の内容を専門に学ぶわけではないので、歴史や地理、公民という題材でどういう力を磨いていくかを考えるということですね。入試問題はその導入だと思います。よく「時事問題は何月までのものが出ますか」と聞かれるのですが、そもそもそういうとらえ方をさせてしまっていることが問題だと思っています。

大妻多摩中学校 社会科教室内

大妻多摩中学校 社会科教室内

問題に秘められたメッセージを読み取ってほしい

海野先生 いつも思うのは、「戦争が始まった理由や背景」を学んだ生徒が「なるほど」と思ったらちょっと怖いなということです。人は同じ過ちを繰り返してしまうかもしれないというということを、メッセージとして添えておかなければいけないと思います。「背景が大事」と言うと、たとえば生徒は「なぜ戦争が起きたのか」を覚えますが、それは過去の過ちを繰り返す可能性がある、ということでもあるので、与えられた文章を批判的にみるということも大事だと思います。

まずは自分で考えることが大事

海野先生 グラフの読み取りで注目すべきは、変化のあるところです。その時に何があったのかを考え、それをつなげていく力をつけてほしいと思っています。与えられたものをそのまま鵜呑みにするのではなく、批判的に見る(クリティカルシンキング)練習を大事にしてほしいです。

資料を提示して、教師が解説してはいけないと思います。生徒にここから何が読み取れるかを考えさせて、議論するということが大切だと思います。子どもはすぐ正解を知りたがりますが、そこを抑えて、わからない時間を共有するのです。子どもがモヤモヤを抱えている時に得た知識は忘れないと思います。

今回の問題も「大分県は他に何が有名だったかな」とモヤモヤする問題ですよね。

海野先生 それは別の意味のモヤモヤ感ですよね。正解がいろいろあるからモヤモヤするのです。モヤモヤが大きくなると勝手に調べます。そういう時間を増やしていかなければいけません。増えるに連れて我々は教えるのではなく、問題や授業を通じて引き出すことに重きを置くようになると思いますが、それが本来の学びだと思います。

大妻多摩中学校 廊下

大妻多摩中学校 廊下

覚えた知識を活用する力を磨こう

毎年、記述問題も多いですよね。

海野先生 記述問題も暗記していることをただ書く、という問題では限界があると思います。例えば、いくつかの条件に対応してまとめる力、すなわち論理力を問う問題など、工夫が必要です。複数の条件をグルーピングして、まとめる力は、算数や数学で学ぶと思いますが、社会科でも記述問題を通してその力を見て行きたいと思っています。また、授業の中でもそういう力をつけていきたいと考えています。

森谷先生 地理・歴史・公民分野を小学校で学んで、それが中学校へと発展していきますが、暗記に頼っている生徒は、日本地理から世界地理に発展していく、あるいは日本史から世界史に広がるところで苦しくなります。それは(中学生になって)小学校以上に覚えないといけないと思うからです。例えば、どうしてこの地域でこの農作物を作るのか、という問題には、気温や降水量などを関連づけて考えることができれば、そこから世界のいろいろな国や地域がつながってきます。無理なく枝葉を伸ばすには、小さいうちにしっかりとその基礎を作ることが大切だと思います。

インタビュー2/3

大妻多摩中学校
大妻多摩中学校国際化と女性の社会進出が求められる時代を背景に、大妻多摩は「わたしの力を、未来のために」をスローガンとして、「社会と世界に貢献できる女性の育成」を目指している。「世界」を視野に入れた活躍を目指すべく、多彩なプログラムで構成された「英語・国際教育」を実施。
5ラウンドシステムを導入した習熟度別の英語教育から始まり、中学2年生必修でのオーストラリア研修やグローバルインタラクションチャレンジ、約50名が参加可能なターム留学制度、そして海外大学進学説明会など、6年間を系統立てて準備された国際プログラムを実施している。
また、「科学は世界の共通語」という考えのもと、理数教育にも力を入れ、大妻多摩独自の授業である「数学探究」や、立地環境を存分に活かした「理科教育」は生徒に人気の授業だ。
中学生を対象に実施している「理系を知るガイダンス」は東京農工大学と協力して実施しており、理系への好奇心をかき立てている。
2021年度には東京薬科大学と高大連携協定を締結し、理数教育のさらなる発展が期待できる。2023年度には成蹊大学とも高大連携協定を締結。さまざまな交流や連携事業を推進していく予定だ。
大妻多摩のキャンパスは駅徒歩7分に立地している。東京都にありながら自然豊かで広大なキャンパス、5つの理科実験室と3つのCALL教室、森の図書館をイメージした約200席の自習室をもつ図書館、人工芝の大きなグラウンドなど、世界基準で見ても素晴らしい教育環境である。四季を感じることができる広々としたキャンパスは、生徒の心を豊かに育んでいる。
キャンパスには体育館が3つ・グラウンドが3つ・照明付きのテニスコートが6面あり、運動をするにも恵まれた環境で、バトン部・ラクロス部・バレーボール部・バスケットボール部・テニス部などが活発に活動している。
併設大学への推薦制度はあるが、多数の生徒が他大学へ進学している。3割強が理系に進学し、ここ数年は医学部への進学者が増加している。早稲田・慶應・上智など難関大学への進学者も多い。