シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

出題校にインタビュー!

サレジオ学院中学校

2019年09月掲載

サレジオ学院中学校の算数におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。

1.選んだ選択肢の根拠を聞きたい問題を出題

インタビュー1/3

昨今取り沙汰されている現代社会の抱える問題に切り込んだ出題

この問題の出題意図を教えてください。

斎藤先生 設問のネタ的にはSDGsに関連した内容となっています。どのように持っていくか問題の扱い方には悩んだのですが、最初のオリジナルは全然違った角度で作られた問題だったものを教科の人間で視点を変えようと何度も議論を重ねた結果、この形で落ち着きました。

今回の問題は、「プラごみの発生量が増えている」という社会問題に対しての数学的活動を題材にしたものです。会話文では与えられたグラフの情報から未来を予測することから、かい君・りく君という2人の児童がアイデアをそれぞれ出していくという場面を取り上げています。かい君のほうは考え方を理解するのは易しいと思いますが、りく君のほうは少し理解しがたい、というところがあるのではないかと思います。その部分で受験生はかなり苦戦されたのではないでしょうか。

(問2)では、実際どれくらいの正答率だったかというと、選択肢を選ぶものと理由を書くものを合わせて2割弱ぐらいの正答率でした。選択問題は回答を適当に選んで理由がないものについては正答としていません。当然理由を含めての正解としていまして、問題としては選択問題とのセットですから、不正解のものが不正解である理由を論理的に書いてもらえれば正解にたどり着くわけです。我々も、どの選択肢を選ぶのかよりも根拠(理由)の部分を見てみたいと思った問題です。

ちなみに誤答例としては、10年で何倍となるのかという考え方にたどり着けなかった生徒が多かったです。一番多かった答えとしては1.5倍としてしまったものですね。20年で3倍ですから10年で何倍ですか?と聞かれるとそう答えたくなるのはわかるのですが、そうしてしまうと不都合が生じてしまう。そこまで検証できた子が少なかったという印象です。「これが正解」という検証をその場でやらせるという問題は中学入試ではあまり多くないと思いますが、そのような作業をこの問いではやってほしかったなと思うわけです。

数学科主任・サッカー部顧問/斎藤 雅人先生

数学科主任・サッカー部顧問/斎藤 雅人先生

(問3)の問いは現実問題に直面した時の大切な考え方をも学ぶ問題

斎藤先生 (問3)の問題は量的な観点で入れるべきか悩んだ問題です。この問題は、数学的モデリングという現実的問題を数学的に考えるといった際に、まず1つシンプルな問題を立てて考えてみて、そのモデルの結果出てくる答えが現実的に合わないものが出てくることがあります。現実問題を考える時の大切な考え方を伝えたかった問題なんです。

ここには国語力も関わってくるのですが、選択肢の②、④、⑤はプラごみの現象についてのことです。一方①、③は、プラごみが増えていくことに関連しているけれども、りく・かい君のどちらの考え方でもうまくいかない、その理由になる部分がここに書かれてあります。そのモデルが当てはまらなかったり、現実問題を考えた時に他にも考えるべき条件を見ていかなければならなかったりすることがありますので、その部分が選択肢を通じて考えてほしかったところです。

算数・数学の舞台に問題を乗っけていく際には、そのままでは考えられないことも多く、理想化してあげたり、条件を単純化したりして考えることが大事だと思います。文部科学省からも「現実問題を扱いましょう」と言われているのですが、現実と数学を行ったり来たりしながらより正解に近づいていこう、と次の教育課程でも言われています。そのあたりにも何かメッセージとして言えたらいいなと思いますね。

サレジオ学院中学校 正門

サレジオ学院中学校 正門

小学生も日々のニュースに目を向けないと解けないテーマを出題

(問3)があることがものすごくいいですよね。きっと、りく君・かい君は自分の予想が何で大幅に外れたのか悩むと思うんです。その時の理由をまた考えなければならない、それがこの(問3)で「なるほど」となっていくと思うんですね。

斎藤先生 あまり中学入試では出ない問題だと思います。小学校の現場の先生方にも注目していただきたい問題ですね。

プラごみについては今年になってからもニュースで取り上げらえることも増えていますし、話題になっている問題です。ですので、小学生には注目してもらいたいテーマの一つです。理科でしたら問題にしやすいものだとは思いますが、数学科がどう切り込んでいくかというところで考えました。これからは教科ごとではなく、教科横断的な議論も必要になってくるのではないでしょうか。

記述問題は今後も出題する予定

記述は少しずつ増えていますよね。特徴的に思うのは、答えを先に渡して理由を書かせるものが多く目立ちます。答えを出すことが目的ではなく、命題を証明するようなものを出題しているイメージです。この問題は斎藤先生が出題をしようと決められたのですか?

斎藤先生 オリジナルは私が問題を作りました。身近な話題から出題したいという思いがあってこれで行こうと、昨年の夏休みあたりに考え、そこから数学科の中でいろいろと議論をしていきました。単純に楽しみながら問題は作っていましたが、正直いろいろ理想を考えてしまうと問題が作成できないので、結果できたものに後付けで「これってこういうことが言えるかな」と意味を付与していますね。

ちなみに昨年度の秋の入試説明会でも、今回の問題のような根拠を書かせるものや解き方を書かせるものはこれからも出題していきます、と強調してお話しさせていただいております。

社会問題をここまで伝えているのはあまりないですよね。これだけはっきりした問題だとそこのレベルまで学ばなければならないとわかりやすいですね。

斎藤先生 なかなかこういった問題の対策は難しいとは思うのですが、まずはやるべき基礎・基本を練習してきていただいて、その上でこのような問題にチャレンジしてきてもらえば、ライバルに差をつけることができるのではないかと考えます。

全体の流れは毎年大体同じような問題構成ですか?

斎藤先生 そうですね構成は同じです。ちょうど2018年度から大問構成5つで、とお伝えさせていただいていますので、2020年度も同じ枠組みで行きたいと思っています。これは今のところ変えるつもりはありません。記述は3題となります。

サレジオ会 創立者ドン・ボスコ像

サレジオ会 創立者ドン・ボスコ像

インタビュー1/3

サレジオ学院中学校
サレジオ学院中学校ドン・ボスコ(1815年北イタリア生)が設立したサレジオ修道会が、1960(昭和35)年に目黒サレジオ中学校を創立。75年に川崎市鷺沼へ移転。91(平成3)年にはサレジオ学院へ改称。95年に港北ニュータウンに新築移転を果たす。大阪星光学院もサレジオ会により創立された姉妹校。
港北ニュータウン内に位置し、校地は約4万8千平方メートルの広さに及ぶ。そのなかにグラウンド、テニスコート、体育館、サブ・グラウンドを配するなど、校地の大半以上を充実したスポーツ用地が占め、大きな魅力のひとつとなっている。ほかにチャペル、ドン・ボスコシアター、サレジオホール(食堂)などの施設がある。
少人数の家庭的な雰囲気のなか、キリスト教精神に基づく情操教育を実践。週1時間の宗教の授業(中1は2時間)「朝のはなしの放送(人生の道しるべの話)」「カテキスタ(倫理・宗教教育を担当する人)」によるカウンセリング、生徒が自分らしく、いきいきと過ごせるコミュニケーションルームの設置などを通じて豊かな人間形成を目指す。
中学では学習姿勢を養うことを重点におくが、高3ですべての教科で演習中心の授業ができるようなカリキュラムを構成。英語は『New Treasure』を使用。中学の英会話も2分割授業を行うティームティーチングと、フィリピンと回線を結んで行うオンライン英会話を実施。高1までは4クラス編成、高2から文理分けし、6クラス編成として1クラスの人数を減らし、きめ細かな指導をする。補習は中学では英・数を中心に必要に応じて実施。夏期・春期講習は指名制・希望制で行い、高2・高3では約1週間の勉強合宿もある。大学受験も学校の授業だけで十分対応できる体制を整えている。夜9:00まで使用できる自習室がある。
サレジオ学院の基本方針「アッシステンツァ(ともに居ること)」のもとで明るく家庭的な校風が築かれてきた。学校行事は多彩で、四季折々のプログラムが用意されている。特に感謝祭、慰霊祭、クリスマスの集いは学校の個性が表れる。そのほか林間学校(中1)、スキー教室(中2)、研修旅行(中3卒業後、全員、イタリア)、フィリピンの語学研修(高校、希望制)、文化祭、秋季校外学習、マラソン大会など。クラブ活動は文化部6、体育部9、同好会5あり、活動は週3日。中学テニス部は2年連続全国優勝の快挙を成し遂げた強豪だ。独特なカテキスタは、サレジオ会員を中心とする先生のグループで、宗教の時間などを通じて生徒の心のケアに対応している。