シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

今月の額面広告に掲載されている問題はこれだ!

サレジオ学院中学校

2019年09月掲載

サレジオ学院中学校【算数】

2019年 サレジオ学院中学校入試問題より

ある小学校の授業で、下の新聞記事が取り上げられました。
授業における先生と生徒たちとの会話文を読んで、次の問いに答えなさい。

世界でプラスチックごみの発生量が増え続けて年間3億トンを超え、環境中に流出して観光や漁業にもたらす悪影響などの損害が年間約130億ドル(約1兆4千億円)に上るとの報告書を、経済協力開発機構(きこう)(OECD)がまとめた。
プラスチックごみは一部が焼却(しょうきゃく)やリサイクルに回るが、投棄(とうき)や埋め立てで環境中にたまる量も増えており、2050年には約   億トンに達すると予測している。
OECDは「プラスチックの使用量増加や不適切な廃棄(はいき)が環境に深刻な影響を及ぼしている」と指摘(してき)。
使用抑制(しようよくせい)やリサイクル強化のため、レジ袋などの使い捨て製品の有料化や課税を各国が導入する必要があるとした。(以下、省略)
(2018年8月6日付日本経済新聞朝刊 共同通信配信)

世界のプラスチックごみ発生量

(画像提供 共同通信社)

先生  どうやらプラスチックごみの増加が問題になっているようです。記事には、2050年の発生量の予測が書いてあります。空欄(くうらん)にはどんな数字が入ると思いますか。

かい君 記事にあるグラフをみると、2000年から2005年までの5年間でごみの量が約0.5億トン増えていて、2005年から2010年までの5年間でも、同じように約0.5億トン増えています。だから、このまま5年間で0.5億トンずつ増えていくと考えれば、2050年には、[ア]億トンになると思います。

先生  なるほど。そういう見方もありますね。他に意見はありますか。

りく君 グラフをみると、1980年から2000年までの20年間でごみの量は約3倍になっています。この割合で増えると考えれば、2020年には2000年の3倍の約4.5億トンになると思います。そして、同じように考えれば、2000年からの50年間で約[イ]倍になると考えられるので、2050年のごみの量は、約[ウ]億トンになると思います。

先生  うーん、たしかに。これはかい君とは異なる新しい見方ですね。2人とも意見を出してくれてありがとう。ただ、実際は、この記事の空欄には、2人の予測を大きく上回る120という数字が入っていました。どうしてそうなるのでしょうか。引き続き、もっといろんな角度からこの問題について考えていきましょう。

(以下、省略)

(問1)かい君の予測は、「5年間で0.5億トンずつ増えていく」という考え方をもとにしています。このとき、[ア]に入る数を答えなさい。

(問2)りく君の予測は、「20年で3倍になる」という考え方をもとにしています。
このとき、[イ]、[ウ]に入る数の組合せとしてもっとも適切なものを次の①~⑤から1つ選び、記号で答えなさい。また、その理由も答えなさい。
①[イ]3.5・[ウ]5.25 ②[イ]7.5・[ウ]11.25 ③[イ]13.5・[ウ]20.25 ④[イ]15.6・[ウ]23.4 ⑤[イ]21.6・[ウ]32.4

(問3)会話文にある2人の予測は、記事にある予測と比べてとても小さい数字でした。その理由として適切なものを次の①~⑤から2つ選び、記号で答えなさい。
①世界の人口増加やプラスチックの使用量の増加など、他にも考えるべき要因があるから。
②プラスチックごみのリサイクル率が上がり、ごみの発生量は減少していくと考えられるから。
③2人の考え方が成り立たない年代があるから。
④レジ袋などの使い捨て製品の有料化が進むから。
⑤プラスチックに替わる新しい材料が開発されるから。

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには各中学の「こんなチカラを持った子どもを育てたい」というメッセージが込められています。
では、このサレジオ学院中学校の算数の入試問題には、どういうメッセージが込められていたのか、解答・解説と、日能研がこの問題を選んだ理由を見てみましょう。(出題意図とインタビューの公開日については更新情報をご確認ください。)

解答と解説

日能研による解答と解説

解答

(問1)6.5

(問2)(記号)④(理由)解説を参照ください

(問3)①、③

解説

(問1)2000年を基準にして、かい君のように「5年間で約0.5億トンずつ増えていく」と仮定します。
2000年のプラスチックごみ発生量(以下、発生量)は、グラフから約1.5億トンです。
2000年から2050年までの50年間は、2000年から2005年までの5年間の10倍の期間なので、発生量も0.5億トンの10倍の5億トン増えると考えられます。
1.5億トン+5億トン=6.5億トンより、に入る数は6.5です。

(問2)2000年を基準にして、りく君のように「20年間で約3倍になる」と仮定します。
2000年の発生量は、グラフから約1.5億トンです。
2040年の発生量は、2000年の1×3×3=9(倍)の約13.5億トンです。
2060年の発生量は、2000年の1×3×3×3=27(倍)の約40.5億トンです。
したがって、2050年の発生量は、③か④か⑤のいずれかにしぼられます。
これを決めるために、今度は2010年を基準として同様に考えます。
2010年の発生量は、グラフから約2.5億トンです。
2030年の発生量は、2010年の1×3=3(倍)の約7.5億トンです。
2050年の発生量は、2010年の1×3×3=9(倍)の約22.5億トンです。
ここで、2000年と2010年の発生量をくらべます。
2010年の発生量は、2000年の発生量の約2.5÷1.5=1\(\frac{2}{3}\)(倍)です。
よって、2050年の発生量は、2000年の約1×1\(\frac{2}{3}\)×3×3=15(倍)と計算できます。
以上より、④がもっとも適切とわかります。

(問3)記事にある2050年の発生量の予測は120億トンです。2人の予測がこの数値と比べてとても小さい数字であったことがわかります。その理由は、世界の人口増加によるプラスチックの需要の急増など、1つの方向だけの計算式では予測できないことがあるからです。よって、①、③が適切といえます。

日能研がこの問題を選んだ理由

実際の新聞記事をもとに、かい君、りく君が2050年のプラスチックごみ発生量を予測しています。ただ、新聞記事に載っていた予測は、かい君、りく君の予測よりも大きく上回るものでした。

現実の社会で起きる問題は、さまざまな前提や条件や予想外の出来事などが複雑に絡み合っています。それに対して、算数の問題は、前提や条件が明確です。一見すると、算数の世界だけでは現実社会は語れないようにも思えます。しかし、あえて算数でこの問題を出題したことから、「未来を考える上で、算数という科目が担えることがあるのではないか」と私たちに問いかけているように感じます。

また、サレジオ学院の教育の3つの柱の一つに「問題解決」があります。複雑な社会の中で問題を解決するために必要なことの一つは、一人ひとりが根拠を持って自らの考えを構築することといえるでしょう。まさにこの問題の、かい君、りく君のように、根拠を明確にして自分の考えを論理的に組み立てることが、解決への第一歩となるはずです。「私たちはこのようなことを大切にしているんだよ。」「サレジオ学院に入学したら、こんな学びの場面が待っているんだよ。」この問題を通して、そんなメッセージをサレジオ学院は語りかけているようです。

このような理由から、日能研ではこの問題を□○シリーズに選ぶことにいたしました。