シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

出題校にインタビュー!

横浜隼人中学校

2019年08月掲載

横浜隼人中学校の国語におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。

1.インターネットで何でも調べられる時代だからこそ自分の中にしかない答えを問う

インタビュー1/3

文章との出会いはひらめき

三浦先生 国語科では10数年前から「あなたならどうする」と問いかけ、考えさせる問題を出題しています。私たち国語科の教員は、夏休みに分担して、この問題で取り上げる文章を探します。今回、採用した「ガイド」(小川洋子著)は文章を探していた時に偶然出会いました。「題名屋」という仕事がおもしろいと思いました。その前に「シャツ屋」という前振りがあるのですが、受験生に題名をつけさせたらどうなるだろう、という発想からこの文章に興味を持ちました。

この問題は、受験生の思考力、判断力、表現力を見ることを狙いとしています。保育園や幼稚園、小学校時代を思い返して、自分にとって最も印象に残っている出来事を選び、それに短い言葉で題名をつけるだけでなく、理由をわかりやすく30~40字にまとめることで、それらの力を見られる問題になったと思います。

国語科/三浦 弘晶先生

国語科/三浦 弘晶先生

受験生の背景が読み取れる問題

題名にはどのようなものがありましたか。

三浦先生 例えば「野球人生」です。本校は野球部が人気なので、この受験生は野球部に興味を持って受験してくれたのでしょうね。おもしろかったのは「だらけた人生から盛んな人生」です。「以前はだらけていましたが、受験勉強が始まってからは、だらける暇がない人生になったから」という理由でした。「日本語が話せる宇宙人」という題名をつけた受験生もいました。宇宙に興味があり、人一倍、宇宙のことを知っているので「宇宙人みたいだ」と言われるそうです。この問題の解答からは、受験生の背景が読み取れるので、採点しながら「ああなるほど」「そういう子なんだな」とイメージすることができて興味深かったです。その子が入学してきたら、いろいろな意味で活かせる情報だと思いました。

小学校時代に味わった達成感はその後にも生きる

三浦先生 解答の中で「感謝」「協力」「支え合う」などという言葉を使っている受験生が多くいました。そういう子どもたちは、家庭や学校などのコミュニティの中で、さまざまなコミュニケーションを図りながら経験を積み重ねてきているのだと思われます。おそらく小学校の先生から「人に感謝する気持ちを忘れないで」と言われたり、クラブチームの指導者から「こうしてスポーツをやっていられるのはあなたたちを支えてくれる親や仲間がいるおかげだよ。感謝しなさい」と言われたりする中で育ってきたのでしょう。
ペットボトルロケットを80m飛ばして1位だったなど、達成感を味わっている受験生も多いと感じました。そういう子どもたちは、隼人中に入学後も、文化祭や合唱祭などの行事や部活動などで小学校時代に培った経験を役立ててくれるのではないかと期待しています。

横浜隼人中学校 校門

横浜隼人中学校 校門

正答率は約6割

採点の基準を教えてください

三浦先生 題名はどのようなものも正解となります。採点の対象は「理由」です。文章を読む力(読解力)、問われていることに適切に答える力、文法(主語述語の関係など)、漢字、そういう観点から減点方式で点数をつけました。

正答率はいかがでしたか。

遠藤先生 題名、理由ともに満点をとった受験生の割合は62.96%でした。

三浦先生 10数年の人生で「題名」をつけられるのかなと思いましたが、想像を超える解答がたくさんありました。

遠藤先生 おそらく受験生だけでなく、食卓で話題になった問題だと思います。例えば、5年生の子が過去問としてこの問題に触れて、「どう書けばいい?」と、お母さんと話している姿が想像できます。

南崎先生 入試には二面性があると思っています。1つは選抜としての入試です。生徒の学力を見て入学を許可するかしないかを図るメジャーのような入試ですね。もう1つはメッセージとしての入試です。本校はそれを大事にしています。我々が「こういうことを考えて欲しい」と思っていることを過去問を通して受験生や保護者に伝えたいと思っています。

自分の中にしか答えのない問題

遠藤先生 このような問題を出すようになったきっかけは、インターネットで調べると、答えがすぐに出てしまう世の中だからです。子どもたちにはまず、自分で疑問を持つこと。その疑問に対して答えを見つけ出すことを大事にしてほしいと思っています。自分で考え、その考えをもとに行動してほしいので、「あなたならどうする」問題を出すようになりました。「あなたならどうする」問題の答えは自分の中にしかありません。インターネットで調べても、見つからないのです。
特に今回の問題は難問でした。最初にこの問題を見た時に、「これはすごい」と思いました。11、12歳で今までの人生にタイトルをつけるのは難しいですよね。ただ、逆にいえば、この先も自分の人生にタイトルをつけられるように生きていってほしいという思いが込められています。これから先の中学生活、高校生活も、この問題が解けるように生きていってほしいなと思います。

横浜隼人中学校 廊下

横浜隼人中学校 廊下

受験生は良く準備していた

30~40字というのも、なかなか難しい字数ですよね。

三浦先生 そうですね。難しい字数だと思います。

南崎先生 この問題の答えは自分の中にあるので、頭の中で思うのは意外と簡単なのですが、それを文字で表現することが難しいので、そういう準備をしてきて欲しいということはお伝えしています。

三浦先生 内容はどんなことでも構いません。ただ、つけたタイトルと整合性があって、最後を「~だから」とまとめているかどうかが、採点のポイントになりました。

無答はありましたか。

三浦先生 ありました。時間が足りなかったのかもしれません。

南崎先生 この問題を出し始めた頃と比べると、随分減っています。最近の受験生は、こういう問題が出ることをある程度わかって準備をしてきているので、無答が少なくなったのだと思います。

三浦先生 学校説明会で、必ず「『あなたならどうする』問題を出しますよ」と話しています。受験生には「答えは身近にあるので、普段からいろいろなことを考えておこうね」と言っています。保護者にも、例えば「『友達がいじめられていたらあなたはどうしますか』『お年寄りがバスの中で座れなくて困っていたらあなたはどうしますか』といった問いかけをお子さんにしてください」「問題は日常生活の中にあるので、常に問いかけて答えを見つけ出してください」とお願いしています。

文章の内容が少なからず解答に反映

今回の出題は「ガイド」という文章を読んだ上での出題でしたが、もし文章がなくて、この問題だけが出題されていたら、解答は変わっていたと思いますか。

南崎先生 確かに「あなたならどうする」問題は全て今回のようなパターン(文章を読んだ上で)で出題しているので、文章を深く読み取れる子はその内容を理解した上で「あなたならどうする」という問いかけに答えてきます。文章と関連付けた解答になっていると思います。

遠藤先生 例えばいじめについての文章があって、いじめに対する考え方を聞くような問題があればその文章で扱っているいじめのとらえ方や見方が少なからず影響した答えになりますが、もし文章がなければ、一般論として「いじめはよくない」という解答になりがちだったのではないかと思います。

横浜隼人中学校 図書室

横浜隼人中学校 図書室

インタビュー1/3

横浜隼人中学校
横浜隼人中学校1979年に中学校が開校し、1985年から共学校となった。「必要で信頼される人となる」を校訓に、「学力・共生・健康」を教育の3本柱としている。遠くに富士山を仰ぐ緑豊かな自然環境の中、敷地面積54,000m2に校舎が立ち並ぶゆとりある学習環境である。最新のパソコンを配したコンピュータルームや体育館など情報教育施設や各体育施設など、生徒たちに活用されている。
「学力・共生・健康」の3本柱は、「人間教育」を最重要課題として位置づけているからだ。他人への思いやりや環境へのやさしさ、差別や偏見のない広い視野、そして困難に打ち勝つ勇気を身につけることが、新しい時代の扉を広く鍵と考えて、先生方は生徒と関わっている。
生徒主体の考える授業が、全教科で展開されている。英・数は習熟度別授業を導入。朝の読書、放課後の個別指導、漢字・英語コンテスト、ハヤト数検など、学力定着のためのプログラムも多数ある。中1の校内語学研修、中2の国内語学研修、そして中3のカナダ研修と、グローバル化に向けた対応も充実。高校の国際語科では、海外語学研修や1年間の留学制度もある。
合唱祭、スポーツフェスティバル、英語スピーチコンテストなど、行事も豊富にある。クラブ活動は活発であり、中高併せて40以上のクラブがある。全国レベルの強豪クラブもある。勉強にも部活動にも両方とも全力で打ち込むことができ、先生方がていねいにサポートしてくれるという卒業生の声が多い。