シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

今月の額面広告に掲載されている問題はこれだ!

横浜隼人中学校

2019年08月掲載

横浜隼人中学校【国語】

2019年 横浜隼人中学校入試問題より

次の文章を読んで、あとの問いに答えなさい。

 (略)
「で、何を売る店なの?」
「名前のとおり、題名を売るのさ。シャツ屋だってきっと、シャツを売っているはずだ」
「うん、まあ、そうだね」
「忘れられない遠い昔の出来事。切ない思い出。誰にも内緒(ないしょ)にしている大事な秘密。理屈(りくつ)で説明できない不思議な体験。等々、何でもいいんだが、お客さんたちが持ち込んでくる記憶に題名をつけること、それが私の仕事なんだ」
「題名をつけるだけ? たったそれだけ?」
「物足りないかね。しかし言わせてもらえるなら、君が考えるほどたやすい仕事ではないんだよ。まず、人々が語る物語に耳を傾(かたむ)け、それが自分にとってどれほどつまらないものであろうとも、すべてを受け入れなければならない。根気と心の広さが必要だ。更(さら)にそれを詳細(しょうさい)に分析(ぶんせき)し、依頼者(いらいしゃ)と記憶を最も親密に結びつける題名を、導き出す」
「なぜ題名が、必要なんだろう」
「実に適切な疑問だ」
 いかにも感心した、というふうに男はうなずいた。僕たちは並んで、アカシアの幹にもたれ掛(か)かった。
「題名のついていない記憶は、忘れ去られやすい。反対に、適切な題名がついていれば、人々はいつまでもそれを取っておくことができる。仕舞(しま)っておく場所を、心の中に確保できるのさ。生涯(しょうがい)もう二度と、思い出さないかもしれない記憶だとしても、そこにちゃんと引き出しがあって、ラベルが貼(は)ってあるというだけで、皆安心するんだ」
 (略)

(小川洋子『海』より「ガイド」〈新潮社〉 一部改)

(問)あなたの今までの人生に、「題名」をつけるとしたら何とつけますか。
また、その理由を三十字以上、四十字以内で答えなさい。

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには各中学の「こんなチカラを持った子どもを育てたい」というメッセージが込められています。
では、この横浜隼人中学校の国語の入試問題には、どういうメッセージが込められていたのか、解答・解説と、日能研がこの問題を選んだ理由を見てみましょう。(出題意図とインタビューの公開日については更新情報をご確認ください。)

解答と解説

日能研による解答と解説

解答例

(題名)数との成長
(理由)計算を遊びとして続けていたら、算数の力がつき、算数の県大会に出られたから。

解説

物語の中に、「忘れられない遠い昔の出来事。切ない思い出。誰にも内緒にしている大事な秘密。理屈で説明できない不思議な体験。等々、何でもいいんだが、お客さんたちが持ち込んでくる記憶に題名をつけること、それが私の仕事なんだ」とあります。ここを手がかりとして、あなた自身の人生をふり返り、忘れられない出来事や思い出など、自分の中で記憶に残ることがらを見つけ出してみましょう。そして、それらを抽象的な言葉で表現したり、インパクトのある言葉で表現したりして、題名をつけていきます。

ここでは、その題名をつけた理由も一緒に問われているので、なぜ、そのことがらを選び出したのか、なぜその表現にしたのかという点もあわせて説明していきます。

日能研がこの問題を選んだ理由

子どもたちは、国語の試験という時間の中で、自分が過ごしてきた、11年、ないしは12年という、今までの人生をふり返っていきます。それと同時に、ふり返ったことがらをもとにして、これから先、どのような未来を作っていきたいのか、自分の将来に視野を広げていくこともできる問題です。

入学試験という、自分の将来を導く貴重な時間に取り組むからこそ、子どもたちが日ごろ意識していなかった部分に気づくことがあるのかもしれません。日常と非日常のちがい、そこで生まれるであろう考えに目を向けることも、新たな発見につながるのではないでしょうか。

今回、横浜隼人中の入学試験を体験した子どもたちだけでなく、より多くの子どもたちにも、自分が今まで過ごしてきた日々に目を向け、さらには、自分がこれから作っていく将来に目を向けるきっかけをもってほしいと考えたため、日能研ではこの問題を□○シリーズに選ぶことにいたしました。