シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

今月の額面広告に掲載されている問題はこれだ!

横浜雙葉中学校

2019年07月掲載

横浜雙葉中学校【社会】

2019年 横浜雙葉中学校入試問題より

選挙について学習した花子さんのクラスでは、「日本は選挙で投票に行かなかった人に罰金(ばっきん)を設けるべきである」という論題で、下のようなルールで討論会を行うことになりました。

<ルール>

  • 賛成側と反対側に分かれて行います。
  • 自分の意見に関係なく、賛成側と反対側に分かれます。
  • 賛成側・反対側はそれぞれの立場で主張や反論を行い、説得力があると判定された方を勝ちとします。

【賛成側の主張】
私たちは「日本は選挙で投票に行かなかった人に罰金を設けるべきである」ことに賛成です。
理由は次の3つです。

  • ①投票率が下がると、国民の意見が政治に反映されません。
  • ②投票日に行けない人のための制度があるのだから、当日用事があったからという理由で選挙に行かないのはおかしいと思います。
  • ③オーストラリアでは投票を義務づけていて、罰金制度があるので投票率があがったそうです。だから、日本でもやるべきです。

(問)あなたは反対側の立場です。この賛成側の主張を受けて、あなたはどの部分に対してどのような反論をしますか。賛成側の①~③の3つの理由の中から一つを選び、それについて反対側としての反論を書きなさい。
ただし、①~③のどの理由を選んでもかまいません。

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには各中学の「こんなチカラを持った子どもを育てたい」というメッセージが込められています。
では、この横浜雙葉中学校の社会の入試問題には、どういうメッセージが込められていたのか、解答・解説と、日能研がこの問題を選んだ理由を見てみましょう。(出題意図とインタビューの公開日については更新情報をご確認ください。)

解答と解説

日能研による解答と解説

解答例

(番号①)
罰金制度には反対です。ただ罰金を避けるため適当に投票する人が増えるおそれがあるからです。それでは投票率は上がっても国民の意見が政治に反映されるとはいえません。

(番号②)
病気などで止むを得ず投票所へ行けなくなる人もいます。そうした人でもインターネットで投票できるようにしたり、期日前投票の利用者が増えるよう工夫したりすることが先決だと思います。

(番号③)
ただ罰金を避けるために投票した人もいたのではないでしょうか。また、罰金によって投票を強いているようで、民主主義の考え方にそぐわないと思うので罰金制度には反対です。

解説

問題文にある通り、①~③のどの理由を選んでもかまいません。この問題で大切なのは、どの理由を選ぶかではなく、選んだ理由に対してどのように反論するかです。なぜ反対なのかを具体的に記述すると、説得力のある意見になるでしょう。

日能研がこの問題を選んだ理由

日本において、選挙の投票率が低いことは、長年の課題となっています。社会科の中学入試でも、投票率が低下している現状に目を向ける出題は以前からありました。また、投票率向上のために実施している取り組みを選択肢から選ぶような問題も、たびたび出されてきました。そうしたなか、横浜雙葉中の問題は、「罰金を設ける」という、これまでにない取り組みについて討論する状況設定で、他にはない切り口だと感じました。

また、討論会のルールのなかに「自分の意見に関係なく、賛成側と反対側に分かれます」と書かれていることや、「この賛成側の主張を受けて、……どのように反論しますか」と、相手側の主張を受け止めるよう明記していることも印象的でした。ここからは、自分の意見に固執することなく、賛成・反対どちらの見方もできるようになってもらいたいという学校のメッセージが伝わってきます。

今、日本や世界は、さまざまな課題に直面しています。そのなかには、以前から抱えている課題もあれば、新しく出てきた課題もあります。大半の課題は、一筋縄では解決せず、関係者の間で利害が対立することも少なくありません。そのとき役に立つのは、自分と異なる立場の考え方も理解しようとする姿勢です。また、過去にとらわれることなく、これまでにない取り組みを柔軟に検討する姿勢も、ときには必要になるでしょう。横浜雙葉中の問題のなかで疑似体験することは、子どもたちが将来、多様な価値観のなかで、よりよい未来をつくるためのヒントになるともいえるのではないでしょうか。

以上の理由から、日能研ではこの問題を□○シリーズに選ぶことにいたしました。